
今になって思うんだ
置き去りって
した方とされた方
どっちのが苦しいと思う?
■目つきの悪い花屋のバイト青年・葉月が一途に想いをよせるのは、店長の六花。一目見た時から恋に落ち、通い詰めたところにバイトの募集がかかり、採用されたのだった。しかし遠くで見ていた時よりも、近くで見ている方が歯がゆく痛い。8つ年上の彼女はすでに恋愛戦線から離脱しており、その気は全くなさそうなのだ。そんなある日、とある用事で彼女の部屋に呼ばれて行くと、そこには裸の男の姿が。「話と違うじゃねーか。」憤る葉月だったが、後に思わぬ事実が明らかに。彼は六花の同棲相手…ではなく、すでに亡くなった彼女の夫の幽霊だったのだ。しかもその姿を見ることが出来るのは、葉月だけらしく…
「ケーキを買いに」など、4冊同時発売で華麗なるデビューを飾った河内遙先生が、再び大量発刊キャンペーンで登場です。今度は5社リレーフェアで、この作品を皮切りに、3月に1作、そして4月に3作新作が発売されるようです。この「夏雪ランデブー」は、祥伝社からの刊行で、河内先生にとっては初の1巻表示のある作品となります。内容は、低音一途青年×さっぱり未亡人×草食系執着霊の3者が紡ぐ、純情三角関係。この緑を基調とした表紙ですでに心惹かれていましたが、物語を読んで完全に心掴まれてしまいました。これは今月1番じゃなかろうか。とにかく面白いです。
主人公は22歳のバイト青年・葉月。バイト先は町の花屋で、恋する相手は8つ年上の店長・六花。いわゆる一目惚れというヤツで、店に通い詰めた末、募集されたバイトに応募して採用、今に至ります。念願叶って店長の近くにきたものの、むしろ遠くから見つめていた時よりも歯がゆさはアップ。というのも、店長はすでに恋愛を諦めており、色恋に発展させる気配を全く感じさせないのでした。そんなある日、同じバイト仲間が結婚退職するということで、送別会を企画。準備のために店長の家に呼ばれて行ったら、そこにはパンツ一丁の男が。突然の事態にショックと憤りを隠せない葉月でしたが、その後思わぬ事実が判明。なんと彼は、六花の夫ですでに亡くなっている人物。つまるところ幽霊で、しかもその姿を追えるのは葉月のみ。以来葉月は、店長・六花と幽霊を挟んだ、なんとも奇妙な三角関係に身を置くことになるのですが…というお話。

幽霊・島尾の姿は六花は見えません。会話は島尾と葉月のみで、厳密に言えば三角関係ではないのかも。島尾は六花への執着心が未だあり、近づこうとする葉月に対して何かにつけて妨害行為を仕掛けます。幽霊が一番達観しているように見えて、一番人間らしいから、味が出る。
幽霊を挟んだ三角関係というと、とんでもない一発ネタのように思えますが、一発ネタとせずに連載で描いてきています。しかもその出来がべらぼうに良い。こういう特殊な設定であると、どうしてもネタから笑いに走り、最後にちょこっと泣かせて終了…というのがありがちな流れになると思うのですが、この作品に関しては、確かにこれをネタに笑いに走ることはあれど、流れて行くのは哀しみや愚かさといった感情で、決して救いのある方向へは持っていきません。
現実に即してこういったシチュエーションを描くのだとしたら、葉月と六花の1対1の関係が基本。死んだ旦那さんの存在は、残された妻の中で新たな恋に踏み出す葛藤材料となり、葉月にとっては乗り越えるべき仮想敵のような存在になります。そこに本人の意思はなく、あくまでお互いが納得できるまでの判断材料として使用されるわけですが、この場合はそうはいきません。死んだ旦那・島尾の意思は確実にそこに存在しており、しかも六花に未練たっぷりで葉月を妨害してきます。そして六花もまた、島尾への想いを断ち切れずにいるという、葉月にとってはなんとも厳しい状況。唯一の救いは、島尾の姿が六花には見えないというところで。これが男同士のやり取りに終始し物語を引き締めると同時に、葉月の六花攻略への糸口となり、物語を先へ先へ進める大きなポイントになっているように思えました。

このシーン。高熱を出し倒れた六花を看病する葉月だったが、六花が口に出したのは今はなき島尾の名前。葉月は自分ではなく島尾の名前を呼ばれたことに落ち込み、島尾は近くにいながら触れることさえ出来ない自分に落ち込む。そして六花も、後に事実(葉月に看病されていたという)を知り、落ち込むことになる。
幽霊を登場させることで、ここまで引き締まった三角関係が作り出せるのかと驚き。どう動いても、誰かが悲しむ結果になり、全員笑ってという結末はありえない。最終的に意思決定をするのは六花でしょうが、どの選択肢を選んでもそれが正解で、そして若干の痛みを残すはずです。個人的には主人公である葉月を応援してやりたいのですが、葉月に気持ちが傾きつつあるところで効果的に回想シーンを盛り込み、島尾の想いもしっかりと見せつけるあたりがズルい。読者に確実にダメージを与えてくるんだもんなぁ。でもやっぱり葉月が好き。だってプレゼント何挙げたら喜ぶかわからないから、せめて売り上げに貢献しようと、大きな観葉植物を六花の誕生日に買って帰っちゃうあたりとか、わかりすぎて困る(笑)だけども決して草食系というわけでもなく、隙あらば懐を伺うという肉食系の側面も。ああ、コイツは単純に考えすぎて、結果暴走してしまうだけなんだ。だからこそ愛らしいし、応援してやりたくなるのです。島尾もそうですが、こういったメンタリティは男性の心にも響くはず。年齢は別として、女性のみならず男性にも広く読んでもらいたい作品だと思いました。
【男性へのガイド】
→好き嫌いはあるでしょうが、こういう作品を心から支持したくなる層は確実にいるはず。
【私的お薦め度:☆☆☆☆☆】
→決して明るくないですが、そのいい意味での暗さがやけに心に響きます。5作フェアのトップバッターがこれとなると、後続への期待も俄然高まるというもの。大満足の1冊でした。
■作者他作品レビュー
*新作レビュー* 河内遙/原案:墨染蓮「ラブメイク」
*新作レビュー*河内遙「へび苺の缶詰」
作品DATA
■著者:河内遙
■出版社:祥伝社
■レーベル:フィールコミックス
■掲載誌:フィール・ヤング(2009年7月号~連載中)
■既刊1巻
■価格:933円+税
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