吉住渉「ちとせetc.」(1)
運命の人
じゃないの?■沖縄に住む高校生のちとせは、東京から遊びにきた幸翔とひと夏の恋に落ちる。少し話して、少しの時間一緒にいただけなのに、自分の心は全部幸翔に向いていた。そして次の日再び待ち合わせ、連絡先を交換しようと約束したのに、ちとせはインフルエンザでダウン。結局再会は叶わず終わってしまった。しかしそう簡単に忘れられるわけもない。そのことを小説家の兄に話すと、ちょうどアシスタント兼家政婦が欲しかったから東京に来いと言い出す。両親も上手く言いくるめられ、ホントに彼を追って東京に向かうことに。そして念願叶って彼と再会したけれど…!?
「ママレード・ボーイ」(→
レビュー)の吉住渉先生の、久々の少女誌連載作ですよー。ヒロインは、運命の相手を追って東京まで出てきた女子高生・ちとせ。高校生なのにすごい行動力だと思われるかもしれませんが、それには彼女の兄が一枚噛んでいたのでした。沖縄に観光に来ていた運命の相手・幸翔と、ひと夏の恋に落ちたものの、連絡先も交換できずに分かれてしまったちとせ。唯一わかるのは、渋谷に近い芸能科のある高校の普通科の生徒だということ。そのことを兄に話すと、即座にその情報から彼の通う高校を特定、さらに家政婦さんがちょうど欲しかったところだから東京に来いと言い出します。あまりに突拍子もない提案に、最初は尻込みしていたちとせでしたが、兄の「1日だけの想い出で終わらせていいの?」という言葉に触発され、状況を決意。兄と口裏を合わせて両親を言いくるめ、晴れて上京、幸翔がいるとおぼしき高校に入学することができたのでした。
そしてついに再会のとき…と思ったら、彼の隣には親しげな女の子の姿が。そして自分のことは覚えていないみたい。そう、運命なんていうのはちとせの勝手な思い込みであって、幸翔にとっては軽い遊び感覚だったのです。それでもファーストキスはファーストキス、そのダメージの大きさは計り知れません。その様子に罪悪感を覚えた幸翔は、ちとせの高校生活が楽しいものになるように全力サポートすることを宣言。彼と、彼の仲良しが集う祭部(=学園祭など校内イベントの企画・運営を行う部活)に入部し、新たな高校生活をスタートさせます。

のっけからこんなシーンが。百合とかじゃないですよ。変わった考えの持ち主たちが揃っているということです。そんな中、ひと際素朴なヒロインが、余計にひきたつという。かわいいです。
いきなりものすごい展開ですが、すべてヒロインだけの意思で行動しているというわけではないので、ぎりぎり納得できるラインで展開されています。そういえば「ママレード・ボーイ」なんかも両親が突拍子もない発想する人だったからああいった状況になっていたわけで、上手いこと変わり者を周囲に配置して面白い展開に持っていくなぁ、と尊敬。
初っぱなからヒロインにはキツい展開ですが、それでも流れ流され学校生活に適応していきます。憧れの相手には、ずっとつき合っている彼女がおり、その子もまた良い子で仲良しに。割って入ることはほとんど不可能と思わせておきながら、何やらふたりの間にはただならぬ過去がありそうで…と次に向けての伏線を(伏してないけど)用意。他にもヒロインのことを不器用に気遣ってくれる、ぶっきらぼうなクラスメイトの男の子も登場し、恋愛模様は複雑になっていきます。1巻の時点では、まだ物語を展開する舞台を整えただけという感じで、本格的に動き出すのは2巻以降かと思われます。1巻はやや慌ただしい展開になってしまいましたが、それに慣れた2巻以降は、その世界にどっぷり浸かりながら物語を楽しむことが出来るのではないでしょうか。加えて、彼らが所属しているのがイベント企画・運営の権限をもつ特殊な部活であるということも、使い方によっては物語を面白く彩る材料になりそう。展開次第では大化けもあるか。ただこれだったら元々いたりぼんの方がフィットしてたかも、という印象も。どちらにせよ、今までいたターゲット年齢層高めの雑誌よりも、こちらの方が全然いいとは思います。キャラがのびのび、ヒロインが生き生きしてます。
【男性へのガイド】→わけの分からない男キャラの行動にどういった感想を持つのか。こういうキャラは過去が明らかにならない限り嫌われる気も。ヒロインの前向きっぷりと、赤石くんの硬派っぷりでどこまで持っていけるか。
【私的お薦め度:☆☆☆ 】→突拍子もない展開ですが、それがある意味持ち味。他の作家さんだったら破綻してる気がしますが、そこは売れっ子、ご安心を。1巻時点では感情移入・同調の糸口が非常に少なかったので、ここまでで。
■作者他作品レビュー
*新作レビュー*吉住渉「カプチーノ」作品DATA■著者:吉住渉
■出版社:集英社
■レーベル:マーガレットコミックス
■掲載誌:マーガレット(平成21年No.19~連載中)
■既刊1巻
■価格:400円+税
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