作品紹介はこちら→桃森ミヨシ「悪魔とラブソング」
8巻レビュー→目黒の愚行とその裏にある弱さについて少々…《続刊レビュー》「悪魔とラブソング」8巻
桃森ミヨシ「悪魔とラブソング」(9)
守りたい
こいつの穏やかな時間を守りたい
■9巻発売です。
マリアに近づく黒須を見て、焦りを覚える目黒。マリアを抱きしめたいけれど、過去の記憶が戻り、彼女を再び絶望の縁へ追い込んでしまう可能性を考えると、どうしても出来ない。しかし黒須を見ていると、彼でなくともいつかマリアを抱きしめ、彼女の隣を占有してしまうのではないか…。悩みに悩んだ目黒は、マリアへの想いをピアノに託すことを決意。父親に頼み込んで、アヴェ・マリアのコンサートに参加させてもらうことになる。招待されたマリアは、着飾って会場に向かうけれど、とある事件が起き…!?
~今回も目黒について~
気がつけば9巻。次がでれば「ハツカレ」とならびますね。さて、9巻はとにかく目黒にスポットが当てられて展開されます。前回レビューした際に、黒須や優介と違い、目黒は彼の後ろ盾(=自信)になるものが何もなく、彼女を引っぱっていけるだけの勇気と決意がないということをお話ししました。今回は、そこからの脱却を図ります。彼の唯一の後ろ盾になるであろう、そして彼を今の状態にまで貶めてしまったピアノを、再び始めることによって。
彼は別荘にて得たマリアとの演奏から再生への糸口を発見し、父親にコンサートに出させてくれと懇願します。それまで技術ばかりが先行し、感情が入っていないと指摘されていた彼の演奏は、有り余るマリアへの想いをぶつけることによって、非常に情熱的で官能的な演奏に変化。父親もこの演奏には納得し、コンサートへの参加を承諾。目黒は晴れて、自分の想いを伝えるために、マリアをコンサートに招待します。
この続きは読んでからのお楽しみですが、今回は目黒のピアノ演奏について思うところを書こうかと思います。
~目黒のピアノ演奏がはらむ、脆性と熱情~
ピアノ演奏が、彼の後ろ盾になるということですが、このピアノによる復活は、優介や黒須とは全くその質が異なります。優介や黒須の自信となっているものは、マリアに出会う以前から彼らに備わっていたもので、今回マリアにであうことによって、「ならばそれをつかってマリアを笑顔にさせよう」という発想に至ります。しかし目黒の場合は、すべてがマリア発信。ピアノを再び始めるきっかけはマリアですし、ピアノの演奏を情熱的にしているのもまた、マリアへの想いがあるから。これは、マリアへの告白としてはこの上ないほど情熱的で、素敵なものではあります。しかし、この想いが通じなかった場合、彼の中に築かれつつあった自信は、一気に崩壊することになる。すべてがマリアありきであるために、彼女がいなかったら保つことが出来なくなってしまうのです。この目黒の選択は、一方向から見れば非常に素敵なものでありますが、同時に脆さも抱えるガラスの塔だということです。そしてラストであの仕打ちですよ。もうね、彼が不憫で不憫で仕方ない。でも、そこで一旦崩れてこそ、また新たに誰にも頼らない塔ってものを築けるもんです。頑張れ!
~ピアノ演奏という手段は、彼なりの優しさでもあった~
ちなみにピアノ演奏というのは、目黒にとって最大の思いやりでもありました。というのも、マリアは体に触れられることが苦手で、黒須や優介たちのスキンシップにすらびくつく性質を持っています。それは彼女のトラウマが原因となっており、必要以上に触れてしまったら、彼女のトラウマを呼び起こしてしまう可能性があります。それを目黒は、何としても食い止めてやりたかった。そしてあわよくば、マリアの心に触れたい。想いを伝えたい。そうしたとき、ピアノ演奏に自分の想いを乗せて届けるというのは、彼にとってこの上ない方法だったのではないでしょうか。彼女の体に触れず、心だけに触れる。そしてピアノ演奏は、口下手な自分が直接伝えるよりも、自分の想いが伝わる。それを支える柱は、ふとした瞬間にすべて崩れ去ってしまう可能性すらあるのに、彼女のことを最優先に考える彼には、その方法しかなかったのです。

俺にはこれしかできないから
その必死さが伝わるのが、10時間の演奏練習。私も昔少しだけピアノを習っていたのですが、10時間とか拷問でしょう。無理無理。指も腕も痛いし、座っていて腰も痛い。楽譜を追ってたら眼もしぱしぱしてきます。それを乗り越えるだけの、並々ならぬ決意が、彼の中にはあったのでしょう。それを思うと、少しぐらい聖母マリアさまは彼に微笑んであげてもいいと思うのですが…意地悪ですね…。
~アヴェ・マリア鑑賞~
最後に、彼が弾いているアヴェ・マリアを聴いてみましょう。作中にも書かれている通り、「アヴェ・マリア」と一口に言っても、様々な作曲者の曲が残されています。まずは別荘にてマリアと一緒に唄い弾いた、グノーのアヴェ・マリア…
ちなみにこの曲、バッハの『平均律クラヴィーア曲集』第1巻第1曲の前奏曲に、グノーが旋律をかぶせたものなんだそうです。グノーの手がけた宗教曲の中でも、特に有名な1曲。
続いて彼が演奏会で披露した、フランツ・リストのアヴェ・マリア…
リストによるアヴェ・マリアは結構たくさんあるらしく、どれが目黒の弾いていたものなのかは定かではありませんが(笑)恐らくピアノ曲集である「詩的で宗教的な調べ」の中の1曲であるかと。こちらも有名ですが、もとはシューベルト作曲。それをリストがピアノ用に編曲したのだとか。
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8巻レビュー→目黒の愚行とその裏にある弱さについて少々…《続刊レビュー》「悪魔とラブソング」8巻

守りたい
こいつの穏やかな時間を守りたい
■9巻発売です。
マリアに近づく黒須を見て、焦りを覚える目黒。マリアを抱きしめたいけれど、過去の記憶が戻り、彼女を再び絶望の縁へ追い込んでしまう可能性を考えると、どうしても出来ない。しかし黒須を見ていると、彼でなくともいつかマリアを抱きしめ、彼女の隣を占有してしまうのではないか…。悩みに悩んだ目黒は、マリアへの想いをピアノに託すことを決意。父親に頼み込んで、アヴェ・マリアのコンサートに参加させてもらうことになる。招待されたマリアは、着飾って会場に向かうけれど、とある事件が起き…!?
~今回も目黒について~
気がつけば9巻。次がでれば「ハツカレ」とならびますね。さて、9巻はとにかく目黒にスポットが当てられて展開されます。前回レビューした際に、黒須や優介と違い、目黒は彼の後ろ盾(=自信)になるものが何もなく、彼女を引っぱっていけるだけの勇気と決意がないということをお話ししました。今回は、そこからの脱却を図ります。彼の唯一の後ろ盾になるであろう、そして彼を今の状態にまで貶めてしまったピアノを、再び始めることによって。
彼は別荘にて得たマリアとの演奏から再生への糸口を発見し、父親にコンサートに出させてくれと懇願します。それまで技術ばかりが先行し、感情が入っていないと指摘されていた彼の演奏は、有り余るマリアへの想いをぶつけることによって、非常に情熱的で官能的な演奏に変化。父親もこの演奏には納得し、コンサートへの参加を承諾。目黒は晴れて、自分の想いを伝えるために、マリアをコンサートに招待します。
この続きは読んでからのお楽しみですが、今回は目黒のピアノ演奏について思うところを書こうかと思います。
~目黒のピアノ演奏がはらむ、脆性と熱情~
ピアノ演奏が、彼の後ろ盾になるということですが、このピアノによる復活は、優介や黒須とは全くその質が異なります。優介や黒須の自信となっているものは、マリアに出会う以前から彼らに備わっていたもので、今回マリアにであうことによって、「ならばそれをつかってマリアを笑顔にさせよう」という発想に至ります。しかし目黒の場合は、すべてがマリア発信。ピアノを再び始めるきっかけはマリアですし、ピアノの演奏を情熱的にしているのもまた、マリアへの想いがあるから。これは、マリアへの告白としてはこの上ないほど情熱的で、素敵なものではあります。しかし、この想いが通じなかった場合、彼の中に築かれつつあった自信は、一気に崩壊することになる。すべてがマリアありきであるために、彼女がいなかったら保つことが出来なくなってしまうのです。この目黒の選択は、一方向から見れば非常に素敵なものでありますが、同時に脆さも抱えるガラスの塔だということです。そしてラストであの仕打ちですよ。もうね、彼が不憫で不憫で仕方ない。でも、そこで一旦崩れてこそ、また新たに誰にも頼らない塔ってものを築けるもんです。頑張れ!
~ピアノ演奏という手段は、彼なりの優しさでもあった~
ちなみにピアノ演奏というのは、目黒にとって最大の思いやりでもありました。というのも、マリアは体に触れられることが苦手で、黒須や優介たちのスキンシップにすらびくつく性質を持っています。それは彼女のトラウマが原因となっており、必要以上に触れてしまったら、彼女のトラウマを呼び起こしてしまう可能性があります。それを目黒は、何としても食い止めてやりたかった。そしてあわよくば、マリアの心に触れたい。想いを伝えたい。そうしたとき、ピアノ演奏に自分の想いを乗せて届けるというのは、彼にとってこの上ない方法だったのではないでしょうか。彼女の体に触れず、心だけに触れる。そしてピアノ演奏は、口下手な自分が直接伝えるよりも、自分の想いが伝わる。それを支える柱は、ふとした瞬間にすべて崩れ去ってしまう可能性すらあるのに、彼女のことを最優先に考える彼には、その方法しかなかったのです。

俺にはこれしかできないから
その必死さが伝わるのが、10時間の演奏練習。私も昔少しだけピアノを習っていたのですが、10時間とか拷問でしょう。無理無理。指も腕も痛いし、座っていて腰も痛い。楽譜を追ってたら眼もしぱしぱしてきます。それを乗り越えるだけの、並々ならぬ決意が、彼の中にはあったのでしょう。それを思うと、少しぐらい聖母マリアさまは彼に微笑んであげてもいいと思うのですが…意地悪ですね…。
~アヴェ・マリア鑑賞~
最後に、彼が弾いているアヴェ・マリアを聴いてみましょう。作中にも書かれている通り、「アヴェ・マリア」と一口に言っても、様々な作曲者の曲が残されています。まずは別荘にてマリアと一緒に唄い弾いた、グノーのアヴェ・マリア…
ちなみにこの曲、バッハの『平均律クラヴィーア曲集』第1巻第1曲の前奏曲に、グノーが旋律をかぶせたものなんだそうです。グノーの手がけた宗教曲の中でも、特に有名な1曲。
続いて彼が演奏会で披露した、フランツ・リストのアヴェ・マリア…
リストによるアヴェ・マリアは結構たくさんあるらしく、どれが目黒の弾いていたものなのかは定かではありませんが(笑)恐らくピアノ曲集である「詩的で宗教的な調べ」の中の1曲であるかと。こちらも有名ですが、もとはシューベルト作曲。それをリストがピアノ用に編曲したのだとか。
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