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Tag [オススメ] [新作レビュー] 2010.02.27
1102874157.jpg渡辺ペコ「ペコセトラ」


なんにもわかってないから
ちっとはわかりたいと思うんじゃん



■読切り・連載、計8辺を収録。それでは1話目の「ジャグリング」をご紹介しましょう。
 オンナ編集の佐倉さんは、最近担当している柴田さんが気になっている。柴田さんの描く絵や書く文章が好きで、最初は憧れや敬意といった感情が先行していた。けれども何度か会ってやり取りしていくと、今度は好感や興味といった感情が。そして最近新たに増えちゃったんです、下心という感情が…。仕事の相手だし、妻子持ち出し…日々大きくなっていく感情を相手に、佐倉さんは!?
 
 渡辺ペコ先生の作品集です。デビュー作を始め、各所に掲載された作品たちを集め、1冊に。シリーズものから読切りまで、計7シリーズ10話が収録されています。どのお話も、それぞれのちょっと変わった日常を切り取ったようなお話で、大きな結末やドラマチックな展開があるわけではありません。ただその派手じゃない感じが、妙に心地良いんです。キレイなところだけを描こうとか、そんな考えはさらさらなくて、どの主人公たちも下心があったり不器用さに悩んでいたり、居心地の悪さを抱えていたり、感情豊かな作風は、ときに痛みを伴い私たちの心に届いてきます。けれども最後は爽やかに、前向きな気持ちにさせてくれる。不思議な魅力の詰まった作品集を、あなたも読んでみませんか?


ペコセトラ2
何気ない会話でも、一つ一つに意味がある。その積み重ねが、本当に心地よい。


 1話1話ご紹介していこうかと思っていたのですが、中途半端に紹介しても逆効果のような気がしたので、いくつかピックアップして語って行こうかな、と。まずは、個人的にお気に入りだった、「台風クラブ」。高校をやめて、日々フラフラしている男の子が、たまたま向かった地元の鍾乳洞で引っ越してきたばかりの女の子に出会うことから始まる青春ストーリーなのですが、このはじまりの気怠さといい、途中からのがむしゃらに青春する姿といい、ホントに女性が描いているの?と。青春モノでこういった気恥ずかしくなるような主人公を描くのって、得てして男性作家というような印象があったので、驚き。とはいえこの話は、作品集の中でも少し浮いていたような気もしますが。
 
 もうひとつ、「透明少女」も面白かった。父の再婚によって、新たに母と妹が出来るのですが、その妹がゴスロリ少女だったというお話。その子とどうつき合っていくか、大学生の主人公は考えるというもの。この主人公の自然体な感じがよく、その中に見せる気遣いや優しさがやけに印象的でした。軸として描かれるのは、母と妹の親子関係の修復というところなのですが、当事者同士に視点を置くのでなく、一緒に暮らす形式上の家族だけど、実質的な繋がりはないという兄に視点を置くことによって、一歩引いた位置からその関係性を描写。味付けが濃くなりすぎず、ほのかな甘さを漂わせるバランス感が素敵だと思いました。
 
 そういえば、もう一つのシリーズ物「あにいもうと」も、兄妹を描いたものですね。こちらは実の兄妹ですが、渡辺先生にとって、ひとつ重要なモチーフなのかもしれません。またモチーフとは別ですが、どの作品にも頻繁に食事の風景が差し込まれるんですよね。気がつけば何か食べてる。これがとっても印象に残っています。会話しながらの食事って、ものすごく美味しいですし、食事しながらの会話って、ものすごく楽しいんですよね。意図的なのかはわからないですが、これって結構な効果を発揮しているんじゃなかろうか、と。関係性の象徴とでも言いましょうか。その時々の状況と心情を、見事に表現しているような気がしないでもない。もし読まれた際は、そのへんにも注目して読んでもらいたいな、と思います。


ペコセトラ
自然に挟まれている場合と、やけに間を取って展開される場合のある食事シーン。欲求と直結している事象の一つであるからなのか、やけに印象に残る。


 これだけ食事のシーンが多いってことは、きっと渡辺先生は食べることが大好きな人に違いない!そうだ、渡辺ペコって名前の「ペコ」の部分も、「腹ぺこ」から来てるんだ!とか思ったら、全然違いました(笑)ロシア語ですって、ロシア語。そんなことも語られている、ペコセトラ出版のインタビュー記事はこちら→渡辺ペコ インタビュー!


【男性へのガイド】
→男性視点のストーリーもあり。ひとつの見所である「下心」に関してはやはり女性視点のほうに一日の長はあるのですが(「あにいもうと」のアイスの棒のシーンとかすごく良かった)、その他は遜色なし。どちらにせよ男性でも楽しめる内容になっていると思いますです。
【私的お薦め度:☆☆☆☆☆】
→これだけ入ってこの値段なら、お買い得だと思います。フィールコミックスって値段高いからお買い得感ってあまりないんですけど、これに関しては別。質量共に充実の1冊。


作品DATA
■著者:渡辺ペコ
■出版社:祥伝社
■レーベル:フィールコミックス
■掲載誌:フィールヤング、ヤングユー、アスタ、マリカ
■全1巻
■価格:952円+税

■購入する→Amazonbk1

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