
うまいことできるかどうかそれはわかりません
そやけど
なんもせんとはなからあきらめるのだけはいやなんです!
■享和二年。大坂・淀川の大洪水で両親を失い、天涯孤独の身となった少女・澪。その身を大坂の料理屋「天満一兆庵」に拾われ、奉公人として、今まで育ってきた。そんな彼女は今、江戸の蕎麦屋「つる家」に奉公している。捨てる神あれば拾う神あり。幾度となく訪れる困難も、決して諦めない気持ちと周りの人の助けによって、乗り越えてきた。そして今彼女のもっぱらの悩みは、関西と江戸の味覚の違い。大坂の料理をそのまま出しても、江戸っ子は喜んではくれないのだ。早く一人前に、料理が振る舞える人間になれるよう、今日も澪は一生懸命…!
人気の時代小説「みをつくし料理帖」シリーズのコミカライズです。なんて原作小説、私は知りません。原作はハルキ文庫にて第2弾まで出ていて、3月13日に第3弾が発売予定だそうです(私信:せばさんありがとうございました(> <))。江戸の料理屋を舞台にした、女奉公人(料理人)・澪の成長物語です。ヒロインの澪は苦労性で、幼い頃に両親とは大水で死別。以降大坂の料理屋の主人夫婦に拾われ、その店に奉公することになるのですが、その店が火事によって全焼。そこで江戸の支店を頼りに上京してみると、、そこが他の人の手に渡り別の店になっていることが判明。主人はショックを受け、病気になり、やがてかえらぬ人に。残されたのは、そのご寮さん(女将さん)と澪だけ。ご寮さんの体調もそれほど思わしくなく、どうにか食い扶持を…と困っていたところに、今の働き先である「つる家」の主人が手を差し伸べたのでした。そしていざ、大坂で慣れ親しんだ味付けの料理を店で出すのですが、それがどうにも不評。大坂と江戸では、人々の味覚の差が大きすぎたのでした。そんな現状を目にして、澪は落ち込むも、周囲の人に励まされやる気に。少しずつ工夫を重ねながら、己の料理を磨いていきます。

人間関係だけでなく、料理ネタもしっかりと織り交ぜる。東西の味・様式の違いだけでもかなりの量。読み物としての価値もあるんじゃなかろうか。
江戸が舞台ということもあって、非常に義理と人情溢れ出るストーリーになっています。当時は女性が奉公人になることはあれど、なかなか料理まで任される店はありません。それでも拾ってくれた「天満一兆庵」の主人といい、「つる家」の主人といい、ヒロインの好きなようにやりなさいと、全面バックアップ。こういったいい人間を、自然と集める性格なのかもしれませんが、このヒロインの挫けない性格が、周りの人をそうさせているような気も。そんな彼女が、大坂と江戸の味覚の違いからはじまり、何か一品料理を考えたり、生き別れになった友人に想いを馳せたり…日々成長していく様子を、料理と人情に乗せてお届けします。故になんだか温かい。非常に読後感の良い作品となっています。
江戸が実際にはどんな場所で、江戸っ子がどういった気性の持ち主であったかなんてことは、知ることは出来ないわけですが、なぜか「江戸っ子」というとごく自然にイメージを思い浮かべられるから不思議ですよね。粋でいなせで気っ風がいい。義理人情にアツく面倒見がよく涙もろくて喧嘩っ早い。この作品に登場するお侍さんなんかは、いかにも江戸っ子という感じのナイスガイ。出るべきところは出るが、干渉しないところは全く触れないその立ち位置・距離感がなんとも素敵。他にも「人情」を感じさせるストーリーや関係が作中で見られ、「粋」ってのはこういうことを言うのかな、なんて勝手に思ったりしてしまいました。
また人情ものではありますが、料理ものとしてもしっかり機能。泣かせにかかって一辺倒で終わりなんてこともなく、読み物としてもなかなか面白いものになっています。ストーリー展開こそないですが、それでも関係性の変化と、ヒロインの成長が見てとれるので、まったく問題なし。漫画ももちろんおもしろかったですが、俄然小説にも興味が出てきました。食いしん坊な人情話好きは、要チェックの1作だと思いますよー。
【男性へのガイド】
→人情ものにどれだけ需要があるのかという問題?ちょいとクサさもありますが、それだけでは終わらずに、しっかりと他の要素も組み込んでいるあたりはさすがで、そうなると余計に読みやすくなるのかな。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→原作がしっかりしているからこそ面白いのでは、となんとなくおもうのですが、作品として評価する時は原作との比較なんぞ要りませんし、そもそも私は原作読んだ事ないわけで、ならば素直にオススメしようじゃないか、と。ほっこりではないですが、なんとなく元気づけられるようなお話です。
作品DATA
■著者:高田郁/岡田理知
■出版社:集英社
■レーベル:オフィスユーコミックス
■掲載誌:officeYOU('09年12月号~連載中)
■既刊1巻
■価格:562円+税
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