
桜を描こう
何度でも色を重ねて
この気持ちをまっすぐ
伝えられるように
■「今この場所にいる意味が、私にあるのかどーか。恋をするにも絵を描くにも、中途半端な自分。」20歳の萄子は、春から美大の3年生。前の恋が3年経っても忘れられずに、後にも先にも進めないでいる。そこへ予備校でバイトをしていた時に出会った志摩が、萄子を追うように入学してきた。初めて会った時から人懐っこく積極的に接してくる彼に、萄子は今ひとつ距離の取り方がわからない。それでもなお近づいてくる彼に、萄子の心は…?
斎藤倫先生の最新作は、美大を舞台にしたひとりの女の子の物語でした。ヒロインは、とある美大に通う3年生・水口萄子。自分のいるべき場所、ここにいるべき意味を考えては、答えが出ずにもやもやを繰り返す毎日を過ごしています。そこへ、バイト先である予備校の生徒であった志摩くんが、彼女の後を追うように大学へ入学。やけに積極的で自由な志摩くんは、予備校で教えている時から印象に残っており、同時に距離の取り方に困っている生徒でもありました。そんな彼が、後輩としてさらに近い場所に。当然彼は、今まで以上に頻繁に彼女に絡んでくるようになるのですが、彼女には3年経っても忘れられない苦い恋の記憶が。高校のときの彼を追うように、美大に進学。しかし彼は家庭の事情などもあり美大進学を断念。さほど真剣に進路を考えていたわけでもなかった彼女は、それでも彼とつき合っていれば大丈夫…と考えていたものの、夜の仕事を始めた彼の浮気がきっかけで破局。美大へ通う意味の完全なる消失と、男性に対する不信感だけ残し、今に至るのでした。

自分にはない答え。そのまま受け取ってもいいが、そう簡単に素直になれない事情がある。
いつまでも残り続ける、苦い恋の記憶。それがあることによって、自分に興味を持ってくれる志摩くんという男の子が現れても、今ひとつ思い切って飛び込んでいけない。果てはお互いに考えあぐねて、こじれるといった悪循環。これは単純に「好き・嫌い」という恋愛感情だけの問題ではなく、美大という個性と才能の固まりたちが集う場所だからこそ起こりえる問題もはらんでいるわけで。特にヒロインは今自分が美大にいる意味を模索している真っ最中で、しかも自分には絵の才能がないと思っている子ですから、そんな彼女の前に、周りに、才能溢れる人物が出てきたら、当然何も思わないわけありません。しかも彼女の場合、恋愛に関しても、絵の才能溢れる元カレの存在がありますから、その繋がりは根深いです。美大という特殊な世界だからこそ描けるストーリー。作者の斉藤先生は、美大出身ということで、空気感もばっちり再現…しているはず(美大とか行ったことないんで、実際はどうなのか知らないですけど)。
主な登場人物は4人。ヒロインと、後輩の志摩くん、そしてお隣さんでキャバクラでバイトしながら美大に通っている彫刻科の後輩・花南、そしてヒロインの元カレ。たった4人で一見繋がりのなさそうな彼らですが、過去も現在も、様々な形で関係しています。その偶然の重なりには、どうしても作られた印象を持たざるを得ないのですが、それでもそれだからこそのストーリーが展開されており、物語としてしっかり機能。またヒロインの心情描写がどうにも説明不足で雰囲気のままに進展していくのですが、そもそも己の気持ちに整理をつけるというようなベクトルの作品は、丁寧な説明はむしろ邪魔だったりしますし、どこかで一度シンクロさせてしまえば、説明せずとも勝手に読み手が感動してくれるわけで、描き方的にはこれで正解なのかな。最後は青春ものっぽく、爽やかにスッキリと終わるところもグッド。
【男性へのガイド】
→雰囲気系とも少々違うような。ちょいと大人しい大学生ものですので、そういった話がお好きな方は。
【私的お薦め度:☆☆☆ 】
→美大という舞台が良くも悪くも作品の色を決定している印象。最後はスッキリ爽やか晴れやかな気分になりましたが、そこに至るまで、感情移入できないままに説明不足で進まれるのは、個人的に少しキビシかったです。別にしなくてもいいんだけど、したほうが絶対に楽しいし感動できそうな作品だったので。
■作者他作品レビュー
*新作レビュー*斉藤倫「誓いの言葉」
*新作レビュー*斉藤倫「宙返りヘヴン」
作品DATA
■著者:斎藤倫
■出版社:集英社
■レーベル:マーガレットコミックスcookie
■掲載誌:cookie(平成21年7月号)
■全1巻
■価格:400円+税
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