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Tag [オススメ] [新作レビュー] 2010.03.04
1102875380.jpgタアモ/野島伸司「スヌスムムリクの恋人」(上)


もしかしたら彼は
命を失い二度と会うことが出来ない恋人と
時々こうして天空からの笛の音色に合わせて
ハーモニカを吹いていたのかもしれない



■野坂望、通称ノノは、直紀、清人、哲也と親も子も仲良しの幼なじみ4人組。みんなノノが大好きで、ノノのことを大切に思っていた。けれどもノノには、みんなにいえない秘密が…「性同一性障害」。その事実が明らかになったとき、4人の関係に変化が訪れる。見ためは女の子、けれど体は男の子。幸せになりたいと、ただそれだけを願うことが、ノノには、直紀には難しいことに思えた。少しずつすれ違っていく中で、彼らが向かうその先には何が…?

 全2巻で上・下巻同時発売となっています、タアモ先生の最新作。ベツコミからの移籍が発表されており、恐らくこれがベツコミラストのタイトルになると思われるので、かなり期待感高めで購入したのですが、購入してから野島伸司原作だと気づきテンションがた落ち。どうにも野島伸司作品というのが苦手でして、果たしてどういった作品になっているのか、不安を感じたという。そんな期待と不安の入り交じった読み初めだったのですが、そこは稀代のストーリーテラーらしく、見事に物語としてまとめあげ、完成度の高い作品となっていました。
 
 物語は、幼なじみ4人組の背景説明からスタート。4人の父親が仲良しで、ほぼ同じ時期に結婚し、家も向かい合わせに四角く同時購入。どうせなら子供も同時に作ろうと盛り上がり、それぞれの季節に4人が生まれたという設定。野島伸司ワールド独特の、閉じた世界・閉じた関係というものが初っぱなからドンと提示される形となっています。この時点でものすごく気持ち悪く、早速投げ出してしまおうかと思ったのですが、グッと我慢。そんな流れで生まれ育った4人組は、すくすくと成長。その中でも野坂望(通称ノノ)はみんなのアイドル的存在になっていました。しかしある時思わぬ事実が。3人が自然と「女の子だ」と思っていたノノは、実は男の子。それ以降、年を重ねるにつれだんだんと変化と苦労を重ねるノノの姿を、幼なじみの直紀の視点から送っていくことになります。


スヌスムムリクの恋人
近くにいる者なりの苦悩、愛情というものがある。性同一性障害を持っているノノの心情よりも、より共感しやすい立ち位置の主人公。


 ノノはいわゆる「性同一性障害」で、帯にも「性同一性障害をテーマにした」とあるのですが、あくまで物語は現実を模したファンタジー。社会的に描こうというベクトルの作品ではありません。初っぱなの背景設定および、その後の物語展開を見ても、リアリティに欠けながらも作り込まれているという、不思議な印象のある作品となっています。小手川ゆあ先生の「死刑囚042」なんかも、同じような印象でしょうか。性同一性障害からくらい話題に持っていくなど、使っているものはそこらへんのケータイ小説のそれと変わらないのかもしれないですが、こちらはより精巧に作り込まれ、その上で夢物語を描こうとしているぶんちゃんと「物語」に。ゆえに受ける印象は全く別もの。視点が、最も苦難を受けるノノではなく、近くにいる幼なじみでノノの想い人・直紀であるというところもポイント。野島伸司作品に共通しているテーマは「愛」であるという人が多いですが、だとしたらこういった視点に置くことによって、よりダイレクトに愛というものを感じれるようになっているのかもしれないな、と思った次第です。

 タアモ色が出ているかと言ったら、確かに絵はタアモ絵ではあるのですが、作品の印象はかなり今までとは異なります。野島伸司が醸し出すクサさや、漫画向きでない部分を、彼女がうまく漫画用に置き換えるクッション的役割を果たしてはいますが、それ以上でもそれ以下でもない感じ。試行錯誤の原作ものとして、もしくは野島伸司ファンはそれでもOKかもしれませんが、ベツコミで描かれるのがこれでラストであるかもしれないということを考えると、いちファンとしては少し消化不良であったような気もします。とはいえ作品の完成度は文句なしに高く、最後はしっかりハッピーエンドと、読後感の良さは際立っています。特に最後の最後まで読んで、改めてタイトルの「スヌスムムリクの恋人」というワードを噛みしめることが出来たりするあたりは、さすが野島伸司、さすがタアモという感じ。頭からファンタジーとして捉えながら読むことが出来れば、かなり楽しめる作品と言えるのではないでしょうか。


【男性へのガイド】
→基本的には男ばかりですが、視点は男子、よほど原作者の作品が苦手ということもなければ余裕で読める水準でしょう。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→良くも悪くも野島伸司の影を感じるファンタジー作品。1か100かという感じじゃないでしょうか。個人的には苦手なのですが、作品の出来は文句なしに良く、オススメしないのもあれだろということで、先に「1か100か」と言っておきながら中途半端な4つで。


■作者他作品レビュー
タアモ「お願い、せんせい」
タアモ「初恋ロケット」
タアモ「吾輩は嫁である。」
タアモ「ライフル少女」
タアモ「あのこと ぼくのいえ」
タアモ「少女のメランコリー」
タアモ「恋月夜のひめごと」
タアモ「いっしょにおふろ」


作品DATA
■著者:タアモ/野島伸司
■出版社:小学館
■レーベル:ベツコミフラワーコミックス
■掲載誌:デラックスベツコミ(2009年初夏の超!特大号~2010年春待ち超!特大号)
■全2巻
■価格:各400円+税

■購入する→Amazonbk1

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