このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [新作レビュー] 2010.03.06
1102890810.jpg宮尾にゅん「闇の皇太子」(1)


兄さんの命は
僕がもらうんだから



■ごくごく普通の高校生・天神后の前に現れたのは、15歳にはとても見えないイケメンの少年・主神言。幼なじみに紹介され、観光案内をしてあげると、彼はすぐに后に懐いてきた。そしてそんな二人の前に現れたのは、こちらもまた人目を引くイケメンの男。しかしちょっと発言がおかしい。自分のことを安倍晴明だと言い、闇で生まれた鬼から后を守るためにやってきたのだと言うのだ。わけのわからぬ発言に、逃げ出そうとする后だったが、あろうことか言と安倍晴明が言い争い戦いはじめた。どうやら安倍晴明の言っていることは本当らしく、しかも后はこの世に存在するもう一つの世界”闇世界“を統べる「闇王」の第一後継者らしく…!?

 人気小説のコミカライズ。とんでもなく中二病っぽい設定のストーリーが登場しました。主人公は、ごくごく普通の高校生…だった、闇王の第一後継者・天神后。「闇王」とは、この世に存在するもう一つの世界「闇世界」を統べる王で、后はその闇王がオモテの世界でもうけた子供が后というわけ。そんな彼の前に現れたのが、彼の異母弟・言。彼は幼い頃から闇世界に育ち、母親から闇王になるための教育を受け育ってきました。そんな彼が満を持して、闇王になるために第一後継者である后の命を狙いにきます。そんな言の手から后を守るためにやってきたのが、后の側近と名乗る安倍晴明。彼らが現れたその日から、后の平穏な日々はどこかへ消え去り、闇世界の覇権争いに巻き込まれていくことになります。


闇の皇太子
好きだから殺すという超理論。「好き」と「便利」が同じラインで展開。感情は未熟どころか芽生えてすらいないという状況。


 何も聞かされていない普通の高校生が闇王の後継者に選ばれ、その座を狙って実力者である弟皇子が命を狙ってくるというストーリー。そんな彼を守るのが安倍晴明ということからもわかるように、バトルに使われる不思議な力は陰陽のソレ。実は彼の周囲にいる親しい人物も事情を知っている、后側の人間ないし言側の人間で、何も事情を聞かされていないのは本人のみという、典型的な巻き込まれ型ファンジーでございます。
 
 単純に覇権争いを繰り広げるのではなく、そこから兄弟愛のような関係を描く方向に。后のことを殺し、手を加えて生き返らせて下部にしようと考えている言は、幼い頃から闇王になることだけを教え込まれたため、価値観がそれのみで形成されています。親から愛情をかけられて育っていないので、他人はおろか自分への痛みすらも考えられない「心のない」存在とでもいいましょうか。そんな彼を見て、后は命を狙われつつも同情を示し、どうにか彼を救ってやりたいと考えるように。また言も、初めて会ったそのときに優しくされたことがきっかけで、后の命を狙いながらも非常に懐くという不思議な関係が形成されます。言にこういった行動を許すのは、后に対し言が圧倒的な力を持っているからで、以降后の力が覚醒してきたら、また新たな関係性が示されるのでしょう。現時点では敵同士ですが、さらにもう一歩進んで、違った物語になりそうな予感がします。

  「闇世界」に「闇王」とか、そのまんますぎるネーミングでびっくりしたのですが、逆にそれがわかりやすさに繋がっているのかもしれません。ただそれ以上に展開早いよ。結構な大事なのですが、細かい説明は回想などに任せ、事後報告の連続でいつも主人公は物事を戸惑いつつも受け入れているという。これ原作もこういう流れなんでしょうか?アクションと同時に心情描写にも力を入れていると思うのですが、そういうバランスでおくるのならマンガよりも小説に一日の長があるような気もします。
 

【男性へのガイド】
→イケメンが嫌いでないのなら。美少女も登場しますが冷徹ですね。BLではありませんが、そっち方面の方が喜びそうなテイストは若干含んでおります。
【私的お薦め度:☆☆   】
→シンプルな覇権争いではなく、さらに違った方向に持っていこうとするのは、逆に読み手に対して焦点を絞らせず混乱させるだけのような気も。混乱というのは言い過ぎですが、どういった方向に進むのかわからないと、次も買いたいと思わないんじゃなかろうかと。


作品DATA
■著者:宮尾にゅん/金沢有倖/伊藤明十
■出版社:エンターブレイン
■レーベル:ビーズログコミックス
■掲載誌:B's-LOGエアレイド(2009年11月13日更新~)
■既刊1巻
■価格:620円+税

■購入する→Amazonbk1

カテゴリ「B's LOG」コメント (0)トラックバック(0)TOP▲
コメント


管理者にだけ表示を許可する

この記事にトラックバック
検索フォーム
最新記事
カテゴリ
タグカテゴリ
月別アーカイブ
リンク
プロフィール

Author:いづき
20代男、Macユーザー。野球はヤクルト、NBAはマジックが好きです。

文章のご依頼など、大事なお話は下記メールアドレスへお願い致します。


■Twitter
@k_iduki

■Mail
k.iduki1791@gmail.com
※クリックでメール作成
RSSフィード
▽最新記事のRSSを購読

a_m.jpg
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

Power Push
2012年オススメはコチラ→2012年オススメ作品集


かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
びっけ「王国の子」(1)
レビュー
稀代のストーリーテラー・びっけ先生が描く“影武者”もの。王位継承権を持つ王女の影武者に、町の芝居小屋で役者をしていた少年が選ばれるというストーリー。良く練られた背景を説明するために、1巻まるまる使うような、重みと読み応えのある一作。




シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
売れない役者が、役者仲間を亡くしたと思ったら、お次は隣に高校の同級生が越してきて、さらには何やら自分にしか見えない子どもの姿が見えるように…。どこかゆるさのある不思議なテイストのお話なのですが、いくえみ作品で実績のある「ある者の死と、残された者の感情」を描き出す類いの作品ということで、この先きっと面白くなってくることでしょう。




BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
レビュー
高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。