
この街は
ウサギのスピードで動いている
■別々の作家さんが描いた読切り6編を収録。それではstory.1をご紹介。
大学生ののぞみは、飲み会で出会った美大生のカメちゃんと同棲中。上京したてだったころ、東京のスピードについていけず、「のろ」というあだ名がついた彼女が見つけた、同じスピードを持つ唯一の安らげる相手。あれから3年、就職活動に忙しくなり、将来のことを強く意識するようになってきたのぞみに対し、先のことを全く考えようとしないカメちゃんに不安を覚えるようになり…?
等身大の女の子の気持ちを描いた、リリカルな短編6編を収録した作品集。各先生のオリジナル作品なのかと思いきや、原案者がおられるようで。その界隈では有名らしい、なるせゆうせいさんという脚本家から劇作家、小説家など多彩な顔をお持ちの男性。ストーリーはすべて女性視点から女性の気持ちを描き出したものなので、そのことを知って驚きました。
参加している作家さんは、ねむようこ先生、安江アニ子先生、赤みつ先生、コナリミサト先生、山崎童々先生、月子先生の6名。すみません、ねむようこ先生しか知らないです(「午前3時の無法地帯」/「ペンとチョコレート」)。どの先生も2000年以降のデビューで、月子先生以外は2005年前後のデビューと、若手に分類される先生方が作品を描いていらっしゃいます。先生方がお話の主人公たちと同じように、上京してきた女性たちなのかは分かりませんが、少なくとも年齢は近そうで、よりヒロインたちと同じ目線・同じ感覚から物語を描けているはず。

今の彼氏に対する不満。東京に来て出会ったときは輝いて見えたものが、慣れることで見えなくなってしまう。そこからのアクション→心の変化を描く。
登場するのは学生、フリーター、社会人と様々。彼氏がいる子もいれば、叶うことのない想いを抱えている子もいます。しかしどの子にも共通しているのが、現状に不満ないし不安を持っているということ。1話目「のこのこ」、2話目「あめふりシンデレラ」、4話目「ダーリンはパープリン」は、今の彼氏との関係に、3話目「ウソコイ」、6話目「プラスマイナス」は、進展のない相手との関係に、そして5話目「チェンジ」は今の自分の生き方に。どれも何か変えていかなければ、と焦燥感にかられており、何かしらの行動を起こした結果、自分の気持ちに変化が生まれるという流れ。どれも日常を切り取ったようなストーリー、その中でヒロインの気持ちの向きを前に向けるというベクトルのお話は、フィール・ヤングでは定番。最終的にはハッピーエンド(というか新たなスタートみたいな)なので、読後感は抜群です。
テーマが決まっていて、よーいどんで各漫画家さんが描いたものなら仕方ないとは思うのですが、原案者つきのシリーズものだとすると、どうにも引き出しのなさが目に付くというか。例えば現在の彼氏との関係に悩む作品は、彼氏が総じて夢追い人で、それを支えるヒロインが将来に不安を感じるというもの。シチュエーション、キャラは違えど、ここまで同じにしてしまう旨味はあまりないような。しかもそろいも揃って彼氏はダメンズ。この辺はいかにも原案者が男性という感じがして良いのですが、一人くらい女子が夢を追っててもいいのではないのかなぁ、と。「無印」ってのは、派手なことしてない普通な女の子って意味なのでしょうか。ただ「東京」って縛りに関しては、話を追うごとに薄くなっていったような気もするわけで。
それぞれのお話に関しては、各漫画家さんのオリジナルの作品をあまり知らないので憶測になってしまうのですが、それぞれの漫画家さんのスタイル・持ち味がよく出ているのではないかと思います。例えば3話目「ウソコイ」なんかはコメディとしてばしっと存在感を発揮していますし、ねむようこ先生の「のこのこ」なんか、まんまねむようこ先生の作品って感じがしましたし。なんていうか、フィーヤンなんだけど最後にふわっと甘く終わるところがなんていうか“少女漫画”で、ねむようこ先生だなぁと。個人的には「ダーリンはパープリン」がお気に入り。ノリがよく、ややバカっぽい雰囲気でが楽しかったです。しかしどのヒロインもみんな強いなぁ。
【男性へのガイド】
→頑張る女性、苦悩する女性、前向きになる女性…フィーヤン好きな方ならいいんじゃないでしょうか。
【私的お薦め度:☆☆☆ 】
→こういう日常の小さいお話描く雰囲気系の作品は大好きなんですが、どうにも似たり寄ったりな印象は拭いきれず、なんとなく地味?読後感はすごく良いです。
作品DATA
■著者:ねむようこ他
■出版社:祥伝社
■レーベル:フィールコミックス
■掲載誌:フィールヤング(2007年9月号~2008年3月号)
■全1巻
■価格:905円+税
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