このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [新作レビュー] [読み切り/短編] 2010.03.10
tokyomujirusi.jpgねむようこ他「東京無印女子物語」


この街は
ウサギのスピードで動いている



■別々の作家さんが描いた読切り6編を収録。それではstory.1をご紹介。
 大学生ののぞみは、飲み会で出会った美大生のカメちゃんと同棲中。上京したてだったころ、東京のスピードについていけず、「のろ」というあだ名がついた彼女が見つけた、同じスピードを持つ唯一の安らげる相手。あれから3年、就職活動に忙しくなり、将来のことを強く意識するようになってきたのぞみに対し、先のことを全く考えようとしないカメちゃんに不安を覚えるようになり…?
  
 等身大の女の子の気持ちを描いた、リリカルな短編6編を収録した作品集。各先生のオリジナル作品なのかと思いきや、原案者がおられるようで。その界隈では有名らしい、なるせゆうせいさんという脚本家から劇作家、小説家など多彩な顔をお持ちの男性。ストーリーはすべて女性視点から女性の気持ちを描き出したものなので、そのことを知って驚きました。
 参加している作家さんは、ねむようこ先生、安江アニ子先生、赤みつ先生、コナリミサト先生、山崎童々先生、月子先生の6名。すみません、ねむようこ先生しか知らないです(「午前3時の無法地帯」/「ペンとチョコレート」)。どの先生も2000年以降のデビューで、月子先生以外は2005年前後のデビューと、若手に分類される先生方が作品を描いていらっしゃいます。先生方がお話の主人公たちと同じように、上京してきた女性たちなのかは分かりませんが、少なくとも年齢は近そうで、よりヒロインたちと同じ目線・同じ感覚から物語を描けているはず。


東京無印女子物語
今の彼氏に対する不満。東京に来て出会ったときは輝いて見えたものが、慣れることで見えなくなってしまう。そこからのアクション→心の変化を描く。


 登場するのは学生、フリーター、社会人と様々。彼氏がいる子もいれば、叶うことのない想いを抱えている子もいます。しかしどの子にも共通しているのが、現状に不満ないし不安を持っているということ。1話目「のこのこ」、2話目「あめふりシンデレラ」、4話目「ダーリンはパープリン」は、今の彼氏との関係に、3話目「ウソコイ」、6話目「プラスマイナス」は、進展のない相手との関係に、そして5話目「チェンジ」は今の自分の生き方に。どれも何か変えていかなければ、と焦燥感にかられており、何かしらの行動を起こした結果、自分の気持ちに変化が生まれるという流れ。どれも日常を切り取ったようなストーリー、その中でヒロインの気持ちの向きを前に向けるというベクトルのお話は、フィール・ヤングでは定番。最終的にはハッピーエンド(というか新たなスタートみたいな)なので、読後感は抜群です。
 
 テーマが決まっていて、よーいどんで各漫画家さんが描いたものなら仕方ないとは思うのですが、原案者つきのシリーズものだとすると、どうにも引き出しのなさが目に付くというか。例えば現在の彼氏との関係に悩む作品は、彼氏が総じて夢追い人で、それを支えるヒロインが将来に不安を感じるというもの。シチュエーション、キャラは違えど、ここまで同じにしてしまう旨味はあまりないような。しかもそろいも揃って彼氏はダメンズ。この辺はいかにも原案者が男性という感じがして良いのですが、一人くらい女子が夢を追っててもいいのではないのかなぁ、と。「無印」ってのは、派手なことしてない普通な女の子って意味なのでしょうか。ただ「東京」って縛りに関しては、話を追うごとに薄くなっていったような気もするわけで。
 
 それぞれのお話に関しては、各漫画家さんのオリジナルの作品をあまり知らないので憶測になってしまうのですが、それぞれの漫画家さんのスタイル・持ち味がよく出ているのではないかと思います。例えば3話目「ウソコイ」なんかはコメディとしてばしっと存在感を発揮していますし、ねむようこ先生の「のこのこ」なんか、まんまねむようこ先生の作品って感じがしましたし。なんていうか、フィーヤンなんだけど最後にふわっと甘く終わるところがなんていうか“少女漫画”で、ねむようこ先生だなぁと。個人的には「ダーリンはパープリン」がお気に入り。ノリがよく、ややバカっぽい雰囲気でが楽しかったです。しかしどのヒロインもみんな強いなぁ。


【男性へのガイド】
→頑張る女性、苦悩する女性、前向きになる女性…フィーヤン好きな方ならいいんじゃないでしょうか。
【私的お薦め度:☆☆☆  】
→こういう日常の小さいお話描く雰囲気系の作品は大好きなんですが、どうにも似たり寄ったりな印象は拭いきれず、なんとなく地味?読後感はすごく良いです。


作品DATA
■著者:ねむようこ他
■出版社:祥伝社
■レーベル:フィールコミックス
■掲載誌:フィールヤング(2007年9月号~2008年3月号)
■全1巻
■価格:905円+税

■購入する→Amazonbk1

カテゴリ「フィール・ヤング」コメント (0)トラックバック(0)TOP▲
コメント


管理者にだけ表示を許可する

この記事にトラックバック
検索フォーム
最新記事
カテゴリ
タグカテゴリ
月別アーカイブ
リンク
プロフィール

Author:いづき
20代男、Macユーザー。野球はヤクルト、NBAはマジックが好きです。

文章のご依頼など、大事なお話は下記メールアドレスへお願い致します。


■Twitter
@k_iduki

■Mail
k.iduki1791@gmail.com
※クリックでメール作成
RSSフィード
▽最新記事のRSSを購読

a_m.jpg
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

Power Push
2012年オススメはコチラ→2012年オススメ作品集


かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
びっけ「王国の子」(1)
レビュー
稀代のストーリーテラー・びっけ先生が描く“影武者”もの。王位継承権を持つ王女の影武者に、町の芝居小屋で役者をしていた少年が選ばれるというストーリー。良く練られた背景を説明するために、1巻まるまる使うような、重みと読み応えのある一作。




シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
売れない役者が、役者仲間を亡くしたと思ったら、お次は隣に高校の同級生が越してきて、さらには何やら自分にしか見えない子どもの姿が見えるように…。どこかゆるさのある不思議なテイストのお話なのですが、いくえみ作品で実績のある「ある者の死と、残された者の感情」を描き出す類いの作品ということで、この先きっと面白くなってくることでしょう。




BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
レビュー
高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。