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Tag [オススメ] [新作レビュー] 2010.03.13
1102884789.jpg楠田夏子「ことこと かるてっと」(1)


それでも みんなのことを
もっと 知りたいと 思う
それだけで
私は ここにいて いいんだね



■京都、西陣の西のはずれにある、小倉大学女子寮・れんげ寮。好奇心旺盛で変わり者の小説家志望の3回生・難波、一の美人だが少し冷たい1回生・万城目、いつも笑顔で人当たりの良い気配り上手の1回生・茜、そして入寮以来姿を見せない1回生・蓮華。ただの寮生同士になるはずだったバラバラの4人は、とある出来事がきっかけで、同居同然の生活をすることになり…。季節うつろう京都の街ではじまる、乙女の四重奏   
 
 舞台は京都にある大学の女子寮・れんげ寮。築70年を誇る木造のこの寮は、周りがツタに覆われいて、風呂・トイレ・自炊施設は共用。けれども今は、100寮室中入居者40名足らずでゆったり使用可。月五千円という寮費で、格安食堂つきなど、それなりにメリットもあります。そんなれんげ寮の住人たちの間では最近、「あかずの間」の噂でもちきり。その「あかずの間」とは、今年入寮して以来、全く姿を見せない101号室とその住人さんのこと。住んでいる事は確かなのに、姿を見た者は誰もいない。謎に包まれたその住人が姿を見せるのは、桜も散ろうとしている春の終わりのことでした。
 きっかけは、202号室に住む3回生・難波さんの部屋の本棚の重みで、床が抜けたこと。壁にあった本棚は、床と一緒に201号室と202号室、そして101号室と102号室を隔てる壁をも大破。4つの部屋は、大穴で繋がった状態になります。そしてついに姿を現した、あかずの間の住人・蓮華。その姿は意外にもごく普通なのですが、彼女にはとある秘密が。そしてもう一つ、彼女たちは秘密を抱えることになります。それは、壁を壊したことを隠すこと。見つかれば確実に弁償させられるはず。しかし金欠の難波さんは「とりあえず今は無理」と、1人だけ3回生であることをいいことに、このことを隠すよう、3人に約束させます。変わり者の南波さん、クールな美人・万城目さん、人当たりの良い茜、そして大人しい性格の蓮華。大穴で繋がった4人の、奇妙な、そしてかけがえのない寮生活が、はじまります。 


ことことかるてっと1
京都の街という舞台を存分に活かす。独特の雰囲気のある街だからこそ、こういった物語が描けるのではないかと。季節の移ろいを感じさせるイベントが盛りだくさんん。情緒溢れる町並みが、物語に色を添えます。


  帯には「少女漫画の歴史をぬりかえる驚異の新人、初単行本!」との文字が。強気ですよ。しかし表紙を見ると、本当にそう信じてしまいそうになります。なんて素敵な表紙なんでしょう。4人の女の子が寄り添うように寝ていて、さらに帯には「京都の女子寮 秘密を抱えて きょうもあしたもあさっても」との言葉が。淡い色使いの表紙に、「京都」「女子寮」「秘密」と、心踊らせるワードが連続して来られたら、嫌でも期待が高まるってもんです。そして実際面白かった。
  
 開かずの間の住人・蓮華の抱える秘密とは、「共感覚者」であるということ。共感覚とは、音なら音、色なら色、味なら味と、それぞれの事象をそれぞれの感覚で体感する通常の人間とは違い、一つの事象に多くの感覚が反応するという体質の持ち主。例えば音を聞くと、そこに色や文字や絵が浮かんで見えたりなど。共感覚の持ち主は、一般に記憶力に優れているなんて言われています。蓮華もまたそんな共感覚の持ち主なのですが、彼女の場合その反応が過敏であったことに加え、育った環境が悪かったのか、共感覚であったがゆえに辛い想いをした過去があり、人との関わりを極力断って生活していました。そんな彼女が、大穴が開いた事件をきっかけに、今まで体験することのなかった、友達付き合いというものを経験していくことになります。最初は弱々しい彼女が、住人たちに支えられながら、だんだんと変わっていく様子を描くのが、とりあえずのメインストーリー。とはいえ、常に彼女にスポットが当たっているというわけではなく、話によってメインの人物は切り替わり、徐々にそれぞれの過去・性格・思いなどが明らかになっていきます。少しずつ歩み寄り、関わり合いから前進の糸口を見つけていく。その様子は、まさに(四重奏)カルテット。


ことことかるてっと
部屋の間取りはこんな感じ。上り下りははしごで。共感覚であることを受け入れてもらったから、少しずつ前に進んでいくことができた。


 描き方というか、手法はどこか羽海野チカ「ハチミツとクローバー」的(黒帯モノローグとか笑わせ方とか)ですが、雰囲気として似ているのは、むしろ「なのはなフラワーズ」(→レビュー)でしょうか。共同生活してるところとか、自分の居場所を探らせるところとか。加えてちょっと色モノな感じで笑いを生み出しているところとか。全体的に今ひとつ垢抜けないのですが、それが逆に温かさを生み出す要因になっている印象。表紙から受ける印象ほど淡くはないですが、確かにそこには優しさと温度、そして大学生ならではの若さと緩さがあり、不思議な懐かしさと親しみやすさを与えてくれます。特に4人の関わりあい方が素敵なんですよね。他人との関わりあいの中にヒントは隠れていながらも、決して答えを教えてくれるわけではなく、最後は自分で考えて答えを導き出す。その線引きの仕方が絶妙というか。

 2巻へのひきは、1巻の流れから考えると少しヘビーな気もするのですが、果たして。何はともあれ非常に楽しい1巻でした。帯の言う、「歴史をぬりかえる」というところまでは行かないものの、非常に期待できる出来であったのは間違いなし。要注目です。個人的には万畳目さん倍プッシュで。あんた、ハチクロの山田さんの匂いがするよ。素敵です。


【男性へのガイド】
→百合っぽさ匂わせる表紙・帯ですが、内容はそういった方向のものではありません。恋愛絡んでないので、それなりに読みやすいのではないでしょうか。秘密の花園とは遠く離れた環境ですが、だからこその親しみやすさみたいなものはあるわけで。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→強気に出るだけの内容だったと思います。これからどうなっていくかはわからないものの、1巻時点ではとても楽しめました。面白いというよりも、好き・大事にしたい、そんな作品だと思います。いいですね、大学生の、女同士の友情・絆ってのは。新人さんってのもすごい。もしかしたらもしかするかもですよ。


作品DATA
■著者:楠田夏子
■出版社:講談社
■レーベル:KC KISS
■掲載誌:kiss(2009年No.16~連載中)
■既刊1巻
■価格:419円+税

■購入する→Amazonbk1

カテゴリ「Kiss」コメント (4)トラックバック(0)TOP▲
コメント

今更ここのコメントですみません(--;
これ、昨日読んでみました^^
この帯、ほんとに惹かれますね。

私も万畳目さんに一番心奪われちゃいましたw
母親との話し、何かいいなぁって。
あと蓮華の髪型に最初軽く衝撃を受けた(笑)のですが
見慣れるとめちゃくちゃ可愛く見えるから困ります。
蓮華の人柄にすごくよく合ってますよね。

モノローグ確かに羽海野チカさんに少し似てますね!
優しいホワンとした雰囲気もいい感じだし、
これからが楽しみだなぁと思ってしまいました。
From: ひろ * 2010/03/17 10:11 * URL * [Edit] *  top↑
いえいえ、全然大丈夫ですよー。
むしろ新しい方です(笑)

万城目さんいいですよね!あの華やかな見ためが、男が想像する女子寮の良い部分を表現してくれている感じがして、どうしても肩入れして読んでしまうというか(笑)
確かに髪型はびっくりでしたねー。でもなんだかんだで似合っているような気がするので、個人的にはスキです。

要注目の新人さんで、続きが楽しみです!

From: いづき * 2010/03/17 21:39 * URL * [Edit] *  top↑
こんばんは。

最近こちらのblogを知って、参考にさせて頂いています。
女なのですが、あんまり最近の少女漫画に詳しくない&よく買って失敗する、の繰り返しだったので本当に有難いです。

「ことことかるてっと」は、私もチェックしていて買いました。面白いですよね。
古風な懐かしさみたいなものを感じました。
2巻が楽しみです。
楠田夏子さんは短編も上手かったのでそちらも単行本になると良いなあ、と思います(確か百合漫画も1篇ありました)

こちらのblogで知って購入した漫画、どれもあたりでした。
特に「となりの怪物くん」は、面白かったです。
KCデザートは全然読まなかったのでこんな面白い漫画があったんだ!とちょっと目から鱗でした。

私のお薦め漫画家さんで、こちらのblogに載ってらっしゃらない漫画家さんで、
小沢真理さんの「苺田さんの話」、
あとは山口美由紀さんという方の昔の短編漫画は上質でとても面白いです。

こちらの更新楽しみに拝見させていただきますー♪
過去の記事をさかのぼって読んでいるのですがそれも面白いです。
From: 椿子 * 2010/03/18 23:39 * URL * [Edit] *  top↑
コメント返信遅れてしまい、申し訳ありません。

何度もご訪問していただいているようで、本当にありがとうございます。
拙い記事ばかりですが、少しでも参考になっているのでしたら幸いです。

「苺田さんの話」は評判良いのに未チェックでした。
せっかくオススメしていただいたのですから、今度是非読んでみようと思います。

サイト拝見させていただきました。作品一つ一つに丁寧なレビューがされていて、非常に観やすかったです。リンクもしていただいていたようで、本当にありがとうございました。

From: いづき * 2010/03/24 01:56 * URL * [Edit] *  top↑

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