
それでも みんなのことを
もっと 知りたいと 思う
それだけで
私は ここにいて いいんだね
■京都、西陣の西のはずれにある、小倉大学女子寮・れんげ寮。好奇心旺盛で変わり者の小説家志望の3回生・難波、一の美人だが少し冷たい1回生・万城目、いつも笑顔で人当たりの良い気配り上手の1回生・茜、そして入寮以来姿を見せない1回生・蓮華。ただの寮生同士になるはずだったバラバラの4人は、とある出来事がきっかけで、同居同然の生活をすることになり…。季節うつろう京都の街ではじまる、乙女の四重奏
舞台は京都にある大学の女子寮・れんげ寮。築70年を誇る木造のこの寮は、周りがツタに覆われいて、風呂・トイレ・自炊施設は共用。けれども今は、100寮室中入居者40名足らずでゆったり使用可。月五千円という寮費で、格安食堂つきなど、それなりにメリットもあります。そんなれんげ寮の住人たちの間では最近、「あかずの間」の噂でもちきり。その「あかずの間」とは、今年入寮して以来、全く姿を見せない101号室とその住人さんのこと。住んでいる事は確かなのに、姿を見た者は誰もいない。謎に包まれたその住人が姿を見せるのは、桜も散ろうとしている春の終わりのことでした。
きっかけは、202号室に住む3回生・難波さんの部屋の本棚の重みで、床が抜けたこと。壁にあった本棚は、床と一緒に201号室と202号室、そして101号室と102号室を隔てる壁をも大破。4つの部屋は、大穴で繋がった状態になります。そしてついに姿を現した、あかずの間の住人・蓮華。その姿は意外にもごく普通なのですが、彼女にはとある秘密が。そしてもう一つ、彼女たちは秘密を抱えることになります。それは、壁を壊したことを隠すこと。見つかれば確実に弁償させられるはず。しかし金欠の難波さんは「とりあえず今は無理」と、1人だけ3回生であることをいいことに、このことを隠すよう、3人に約束させます。変わり者の南波さん、クールな美人・万城目さん、人当たりの良い茜、そして大人しい性格の蓮華。大穴で繋がった4人の、奇妙な、そしてかけがえのない寮生活が、はじまります。

京都の街という舞台を存分に活かす。独特の雰囲気のある街だからこそ、こういった物語が描けるのではないかと。季節の移ろいを感じさせるイベントが盛りだくさんん。情緒溢れる町並みが、物語に色を添えます。
帯には「少女漫画の歴史をぬりかえる驚異の新人、初単行本!」との文字が。強気ですよ。しかし表紙を見ると、本当にそう信じてしまいそうになります。なんて素敵な表紙なんでしょう。4人の女の子が寄り添うように寝ていて、さらに帯には「京都の女子寮 秘密を抱えて きょうもあしたもあさっても」との言葉が。淡い色使いの表紙に、「京都」「女子寮」「秘密」と、心踊らせるワードが連続して来られたら、嫌でも期待が高まるってもんです。そして実際面白かった。
開かずの間の住人・蓮華の抱える秘密とは、「共感覚者」であるということ。共感覚とは、音なら音、色なら色、味なら味と、それぞれの事象をそれぞれの感覚で体感する通常の人間とは違い、一つの事象に多くの感覚が反応するという体質の持ち主。例えば音を聞くと、そこに色や文字や絵が浮かんで見えたりなど。共感覚の持ち主は、一般に記憶力に優れているなんて言われています。蓮華もまたそんな共感覚の持ち主なのですが、彼女の場合その反応が過敏であったことに加え、育った環境が悪かったのか、共感覚であったがゆえに辛い想いをした過去があり、人との関わりを極力断って生活していました。そんな彼女が、大穴が開いた事件をきっかけに、今まで体験することのなかった、友達付き合いというものを経験していくことになります。最初は弱々しい彼女が、住人たちに支えられながら、だんだんと変わっていく様子を描くのが、とりあえずのメインストーリー。とはいえ、常に彼女にスポットが当たっているというわけではなく、話によってメインの人物は切り替わり、徐々にそれぞれの過去・性格・思いなどが明らかになっていきます。少しずつ歩み寄り、関わり合いから前進の糸口を見つけていく。その様子は、まさに(四重奏)カルテット。

部屋の間取りはこんな感じ。上り下りははしごで。共感覚であることを受け入れてもらったから、少しずつ前に進んでいくことができた。
描き方というか、手法はどこか羽海野チカ「ハチミツとクローバー」的(黒帯モノローグとか笑わせ方とか)ですが、雰囲気として似ているのは、むしろ「なのはなフラワーズ」(→レビュー)でしょうか。共同生活してるところとか、自分の居場所を探らせるところとか。加えてちょっと色モノな感じで笑いを生み出しているところとか。全体的に今ひとつ垢抜けないのですが、それが逆に温かさを生み出す要因になっている印象。表紙から受ける印象ほど淡くはないですが、確かにそこには優しさと温度、そして大学生ならではの若さと緩さがあり、不思議な懐かしさと親しみやすさを与えてくれます。特に4人の関わりあい方が素敵なんですよね。他人との関わりあいの中にヒントは隠れていながらも、決して答えを教えてくれるわけではなく、最後は自分で考えて答えを導き出す。その線引きの仕方が絶妙というか。
2巻へのひきは、1巻の流れから考えると少しヘビーな気もするのですが、果たして。何はともあれ非常に楽しい1巻でした。帯の言う、「歴史をぬりかえる」というところまでは行かないものの、非常に期待できる出来であったのは間違いなし。要注目です。個人的には万畳目さん倍プッシュで。あんた、ハチクロの山田さんの匂いがするよ。素敵です。
【男性へのガイド】
→百合っぽさ匂わせる表紙・帯ですが、内容はそういった方向のものではありません。恋愛絡んでないので、それなりに読みやすいのではないでしょうか。秘密の花園とは遠く離れた環境ですが、だからこその親しみやすさみたいなものはあるわけで。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→強気に出るだけの内容だったと思います。これからどうなっていくかはわからないものの、1巻時点ではとても楽しめました。面白いというよりも、好き・大事にしたい、そんな作品だと思います。いいですね、大学生の、女同士の友情・絆ってのは。新人さんってのもすごい。もしかしたらもしかするかもですよ。
作品DATA
■著者:楠田夏子
■出版社:講談社
■レーベル:KC KISS
■掲載誌:kiss(2009年No.16~連載中)
■既刊1巻
■価格:419円+税
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