
いつか友達に
なれるといいな
■ドッジボールで最後まで内野に残った日。一人称を「ぼく」から「オレ」に変えた日。自分の前世を「戦国の巫女」と設定した日…。そんなちょっぴりイタくて、ちょっぴり愛おしい、そしてちょっぴり懐かしい。“ハトちゃん”こと鳩山さんと同級生たちの、悩み多きイケてない中学生日記、はじまりはじまり…
久世番子先生の新作は、イケてない中学生の日常でした。表紙にも描かれている鳩山さん、通称ハトちゃんが主人公。マンガやイラストを描く事が大好きな彼女は、クラスでも目立たない中学2年生。友達もあまり多くなく、先日男子の間で秘密裏に行われた「女子ランキング」にはエントリーさえされませんでした。そんなハトちゃんは、自分の前世が「戦国の巫女」であったと自分で設定していて、時折それに絡めた不思議発言も。そう、要するに中二病ってヤツですね。そんなハトちゃんを筆頭として、ときにイタくてときに温かい、イケてない中学生たちの毎日を描いていきます。

男子が行った女子ランキングで、自分の順位が気になる女の子。トップなんておこがましいことは言わない、だって地味サイドですもの。でも、でも最下位だけは絶対にイヤなんです!いやできればもう少し上で…。打算と願望…その間でゆらゆら…。わかるでしょ?この気持ち!
前世が「戦国の巫女」とかいうのは、久世番子先生自身もそうであったと、同先生の著作で描かれていますね。基本的に中二病の描写はそれくらいで、お話はむしろクラスの地味ポジションの子たちのイタく切ないあるあるネタへと移行していきます。例えば一人称を「のく」から「オレ」にどう変えたらいいのか、ハトちゃんを見て思い悩む男子中学生がいたり、体育では周りに迷惑かけないように必死に練習…ではなくおまじないに励む女の子がいたり、転校していくそこまで仲良くなかった子への寄せ書きに書くことがなくて困ったり、男子の間で行われた”女子ランキング”で「自分はせめてハトちゃんには勝ってるよな…」と思ってしまって自己嫌悪に陥ったり…。確かに存在するスクールカーストを逆手に取って、徹底して描かれる底辺サイドの少年少女のイタイ青春の日々は、なんとなく実体験から来ているような匂いを感じ、妙にリアルに思えてきます。
同じ系統の作品としては「ちびまるこちゃん」などが挙げられるかと思います。とはいえ「ちびまるこちゃん」はスクールカーストをそこまで感じさせない上に、イタさや間の悪さを上手い事シュールな笑いに変換しているので、基本的には笑って終われるのですが、「ひねもすハトちゃん」の場合は、その気まずさやイタさを何にも変換することなく、「どうだ!?イタいだろ!?気まずいだろ!?」と言わんばかりにそのままぶつけてくるので、簡単には笑えません。というか、簡単に笑っちゃいけない気がします。だからこそ、オチとなるのは笑いではなく、むしろほっこり温かいハッピーエンドな雰囲気のものが多いのかも。
クラス最底辺のポジションにいるハトちゃんを引き合いに悩む、近いポジションにいる友達たち。その指標とされるハトちゃんは、ある意味可哀想であるとも言えるのですが、キャラを活かし上手い事マスコット的に描かれているので、ポジション的なみじめさやイタさを感じさせる事はありません。ちなみにハトちゃんは吹き出しつきでしゃべる事はありません。なにげさんもそうですが、だからこそ味が出るっていうね。これも一種のマスコット化の作用があるのかと思われます。なんやかんやあって、結果的に地味ポジションの友達たちに平穏をもたらす彼女は、まさに平和の象徴の鳩。奇しくも彼女と同じ名字を持つ人が、現在政治において日本のトップに立っていますが、低い位置から平和をもたらす彼女の方が、よっぽど“友愛”を感じさせてくれる気がしたのでした。
【男性へのガイド】
→基本的には男性にも読みやすいと思いますよ。爽やかさは皆無ですが、イタさと気まずさと、最後に温かさがある。
【私的お薦め度:☆☆☆ 】
→久世番子先生というと、勢いMAXなエッセイコミックのイメージが強いと思いますが、それとは一線を画する、大人しめな作品となっています。それらに比べると、やや見劣りしてしまうかな、という印象も、そもそも同じ土俵の作品なのかっていう。いやでもこれは限定的にウケる感じだと思うんですよね。
■作者他作品レビュー
久世番子「ふたりめの事情」
久世番子「私の血はインクでできてるのよ」
作品DATA
■著者:久世番子
■出版社:新書館
■レーベル:WINGS COMICS
■掲載誌:ウンポコ(2008年Vol.13~Vol.17),ウィングス(2009年7月号~2010年2月号)
■全1巻
■価格:740円+税
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