このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [新作レビュー] 2010.03.27
1102890021.jpg久世番子「ひねもすハトちゃん」


いつか友達に
なれるといいな



■ドッジボールで最後まで内野に残った日。一人称を「ぼく」から「オレ」に変えた日。自分の前世を「戦国の巫女」と設定した日…。そんなちょっぴりイタくて、ちょっぴり愛おしい、そしてちょっぴり懐かしい。“ハトちゃん”こと鳩山さんと同級生たちの、悩み多きイケてない中学生日記、はじまりはじまり…

 久世番子先生の新作は、イケてない中学生の日常でした。表紙にも描かれている鳩山さん、通称ハトちゃんが主人公。マンガやイラストを描く事が大好きな彼女は、クラスでも目立たない中学2年生。友達もあまり多くなく、先日男子の間で秘密裏に行われた「女子ランキング」にはエントリーさえされませんでした。そんなハトちゃんは、自分の前世が「戦国の巫女」であったと自分で設定していて、時折それに絡めた不思議発言も。そう、要するに中二病ってヤツですね。そんなハトちゃんを筆頭として、ときにイタくてときに温かい、イケてない中学生たちの毎日を描いていきます。


ひねもすハトちゃん
男子が行った女子ランキングで、自分の順位が気になる女の子。トップなんておこがましいことは言わない、だって地味サイドですもの。でも、でも最下位だけは絶対にイヤなんです!いやできればもう少し上で…。打算と願望…その間でゆらゆら…。わかるでしょ?この気持ち!

 前世が「戦国の巫女」とかいうのは、久世番子先生自身もそうであったと、同先生の著作で描かれていますね。基本的に中二病の描写はそれくらいで、お話はむしろクラスの地味ポジションの子たちのイタく切ないあるあるネタへと移行していきます。例えば一人称を「のく」から「オレ」にどう変えたらいいのか、ハトちゃんを見て思い悩む男子中学生がいたり、体育では周りに迷惑かけないように必死に練習…ではなくおまじないに励む女の子がいたり、転校していくそこまで仲良くなかった子への寄せ書きに書くことがなくて困ったり、男子の間で行われた”女子ランキング”で「自分はせめてハトちゃんには勝ってるよな…」と思ってしまって自己嫌悪に陥ったり…。確かに存在するスクールカーストを逆手に取って、徹底して描かれる底辺サイドの少年少女のイタイ青春の日々は、なんとなく実体験から来ているような匂いを感じ、妙にリアルに思えてきます。
 
 同じ系統の作品としては「ちびまるこちゃん」などが挙げられるかと思います。とはいえ「ちびまるこちゃん」はスクールカーストをそこまで感じさせない上に、イタさや間の悪さを上手い事シュールな笑いに変換しているので、基本的には笑って終われるのですが、「ひねもすハトちゃん」の場合は、その気まずさやイタさを何にも変換することなく、「どうだ!?イタいだろ!?気まずいだろ!?」と言わんばかりにそのままぶつけてくるので、簡単には笑えません。というか、簡単に笑っちゃいけない気がします。だからこそ、オチとなるのは笑いではなく、むしろほっこり温かいハッピーエンドな雰囲気のものが多いのかも。
 
 クラス最底辺のポジションにいるハトちゃんを引き合いに悩む、近いポジションにいる友達たち。その指標とされるハトちゃんは、ある意味可哀想であるとも言えるのですが、キャラを活かし上手い事マスコット的に描かれているので、ポジション的なみじめさやイタさを感じさせる事はありません。ちなみにハトちゃんは吹き出しつきでしゃべる事はありません。なにげさんもそうですが、だからこそ味が出るっていうね。これも一種のマスコット化の作用があるのかと思われます。なんやかんやあって、結果的に地味ポジションの友達たちに平穏をもたらす彼女は、まさに平和の象徴の鳩。奇しくも彼女と同じ名字を持つ人が、現在政治において日本のトップに立っていますが、低い位置から平和をもたらす彼女の方が、よっぽど“友愛”を感じさせてくれる気がしたのでした。


【男性へのガイド】
→基本的には男性にも読みやすいと思いますよ。爽やかさは皆無ですが、イタさと気まずさと、最後に温かさがある。
【私的お薦め度:☆☆☆  】
→久世番子先生というと、勢いMAXなエッセイコミックのイメージが強いと思いますが、それとは一線を画する、大人しめな作品となっています。それらに比べると、やや見劣りしてしまうかな、という印象も、そもそも同じ土俵の作品なのかっていう。いやでもこれは限定的にウケる感じだと思うんですよね。


■作者他作品レビュー
久世番子「ふたりめの事情」
久世番子「私の血はインクでできてるのよ」


作品DATA
■著者:久世番子
■出版社:新書館
■レーベル:WINGS COMICS
■掲載誌:ウンポコ(2008年Vol.13~Vol.17),ウィングス(2009年7月号~2010年2月号)
■全1巻
■価格:740円+税


■購入する→Amazonbk1

カテゴリ「Wings」コメント (3)トラックバック(0)TOP▲
コメント

いろいろサイトをとんでいたらここにたどり着きました!
いろいろオススメ漫画紹介されてますね(^∀^)
読んでいてすごく楽しいです!

ぜひ読んで頂きたい漫画があるのですが、『窮鼠はチーズの夢をみる』という水城せとなさんの漫画です!
これは名作ですね
読むのに抵抗あるとは思いますが、ぜひ読んで頂きたい!!
窮鼠~の続編の『俎上の鯉は二度跳ねる』というのと、『失恋ショコラティエ』もオススメです!
せとなさんの漫画すごく面白いですよ(・∀・)
From: やま * 2010/03/27 23:48 * URL * [Edit] *  top↑
ご訪問ありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけたのでしたら幸いです。

『窮鼠はチーズの夢をみる』はBL風味ということで敬遠していたのですが、最近そちらもチェックしているので、今度是非読んでみたいと思います。
また『失恋ショコラティエ』に関しては当ブログでもレビューしておりますので、もしよかったらチェックしてみてください。
コメント、どうもありがとうございました。

From: いづき@管理人 * 2010/03/29 00:51 * URL * [Edit] *  top↑
ひもねすハトちゃんドッチボールダブルス、めちゃくちゃおもろい[腟究��絖�:v-238]
お母さんが、お昼寝している途中に、読んだら 笑って起こしてしまい
                                   おこられました。[腟究��絖�:v-237]


        ひもねすハトちゃんおすすめです。[腟究��絖�:v-237]
From: サクサクチャップリン * 2012/11/09 15:41 * URL * [Edit] *  top↑

管理者にだけ表示を許可する

この記事にトラックバック
検索フォーム
最新記事
カテゴリ
タグカテゴリ
月別アーカイブ
リンク
プロフィール

Author:いづき
20代男、Macユーザー。野球はヤクルト、NBAはマジックが好きです。

文章のご依頼など、大事なお話は下記メールアドレスへお願い致します。


■Twitter
@k_iduki

■Mail
k.iduki1791@gmail.com
※クリックでメール作成
RSSフィード
▽最新記事のRSSを購読

a_m.jpg
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

Power Push
2012年オススメはコチラ→2012年オススメ作品集


かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
びっけ「王国の子」(1)
レビュー
稀代のストーリーテラー・びっけ先生が描く“影武者”もの。王位継承権を持つ王女の影武者に、町の芝居小屋で役者をしていた少年が選ばれるというストーリー。良く練られた背景を説明するために、1巻まるまる使うような、重みと読み応えのある一作。




シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
売れない役者が、役者仲間を亡くしたと思ったら、お次は隣に高校の同級生が越してきて、さらには何やら自分にしか見えない子どもの姿が見えるように…。どこかゆるさのある不思議なテイストのお話なのですが、いくえみ作品で実績のある「ある者の死と、残された者の感情」を描き出す類いの作品ということで、この先きっと面白くなってくることでしょう。




BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
レビュー
高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。