
君は
一編の詩
一遍の物語
私のために書かれた
夜の童話
■新装版になって発売。短編集ですので、表題作をご紹介しましょう。
とある雪降る夜、仕事帰りの雪枝年子をアパートの前で待っていたのは、見知らぬ少年。「お帰りなさい」と笑顔で迎えてくれた彼は、貸猫屋と名乗り、「貸していたものを返戻してもらうために来た」と告げる。見知らぬ少年の不可解な言動に、疑いを強くした年子だったが、少年が母の名前を出したことで彼の話に耳を傾ける気になる。外は寒いからと家にあげた年子はその後…?
紺野キタ先生の短編集。あたたかく優しい気持ちが溢れる物語が、8編収録されています。新装版ということで、過去に発売されていたもの。すでにお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。収録されている作品が描かれたのは、大体98年~99年で、同人誌として発表されたものだそうです。おおよそ10年前の作品ということになりますが、古さは感じさせません。絵柄がそこまで変化していないことや、描かれる物語に時代感がそれほど出ていないことが要因と考えられます。描かれるのは、現代の家族から、異国のお姫さままで様々。ただしどれにも共通しているのは、不思議な描写があるないに関わらず、ファンタジーであるということ。単純に不思議な要素を投入するものから、リアルな世界の中に、夢のようなあたたかい関係を描き出すものまで、どれも“リアル”とはいい意味で離れており、タイトル通り「童話」を感じさせてくれます。

全体的に淡いタッチと雰囲気。現代を描いていても、どこか幻想世界の中にいるかのような感覚を覚える。
描かれる舞台、人物は本当に多種多様。1話目に収録されている『家路』は、すでに定年退職した男性が主人公で、夢と共に過去を回想しながら進んでいくお話。2話目に収録されている『バイエルのワルツ』は一転、ヨーロッパを思わせる王国の小さなお姫さまが主人公。汚いもの・悪いものを一切見せられず大事に大事に育てられた姫が、ある日父親である王様に買い与えられた庭で、同じ年頃の園丁に出会うというお話。さらに3話目に収録されている『春を待つ家』は、1話目の『家路』の主人公の過去が描かれます。1話目と3話目は繋がっているものの、他はそれぞれ独立したお話。統一感はないものの、作品タイトルである『夜の童話』という言葉によって、シリーズっぽく感じさせるから不思議。紺野キタ先生の作品って、その淡いタッチや優しい作風があって、加えて子供が必ずと言っていいほど登場してくるので、共通して“おとぎ話”のような雰囲気を感じさせるんですよね。
また子供と同じくらい、壮年~老年のお爺さんが登場するのも不思議なところ。そういえば『日曜日に生まれた子供』(→レビュー)もオッサンメインでしたが、紺野先生の十八番なんでしょうか。子供と老人の優しい掛け合いって、なんか良いですよね。若い男女のギラギラした欲望を感じさせないへんが、清潔であたたかくて、自然にすっと物語が沁みてきます。
それと表題作の『夜の童話』から。こちらは3章構成なのですが、3章目に登場する少女がやけに印象的でした。もうね、紺野先生の作品に息づく少女の正体ってこれか、と。人間でない、精巧な作り物のようなそのキャラクターが、「少女幻想」を象徴しているようで、なんとも美しく、そして少し怖かった。作中で主人公が発する、
しょせん「少女」などという存在は
麒麟や一角獣と同じ架空の生き物なのだ
麒麟や一角獣と同じ架空の生き物なのだ
という言葉などは、妙に納得してしまいましたねー。少女なんだけど、人間じゃないというか。だからこそ惹かれるのかもしれませんけど。
【男性へのガイド】
→男性女性共に読みやすいかと。やはり大人に読んでもらいたい…って子供はまず手に取らないか。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→非常に雰囲気の良い優しい作品でした。安心の紺野キタクオリティ。私はこの新装版が初めて。既に刊行されているほうとの比較はできませんので、そこんとこ宜しくお願いします。
■作者他作品レビュー
紺野キタ「つづきはまた明日」1巻/2巻
紺野キタ「SALVA ME」
作品DATA
■著者:紺野キタ
■出版社:幻冬舎
■レーベル:バーズコミックスガールズコレクション
■掲載誌:同人誌
■全1巻
■価格:619円+税
■購入する→Amazon