
さぁ今宵も灯そう
導きの灯りを
迷える 死者のために
■読切り5編を収録。それでは表題作をご紹介。
新米墓守りのウズは、死者の魂を導くことができず、失敗ばかりを繰り返す毎日。先輩たちのサポートはあるものの、それでも決心できない自分に、嫌気がさす。そんな中、ウズの前に幼い死者“ことは”が現れる。先輩墓守りは、ウズにことはを担当させる。この世に未練が残ることはを、成仏させようと奮闘するウズだったけど…!?
夏宮りょうの先生の初単行本になります。もうね、表紙買いですよ表紙買い。そりゃあ手に取るでしょうよ、こんなキラキラした表紙なら。ビーズログやゼロサムは、軒並み表紙が素敵なのですが、こちらもそんな作品の一つ。内容を読んでみると、一つの物語を描くのではなく、読切りが5編ほど収録されていました。どれも似た雰囲気の、淡い雰囲気漂うファンタジー作品。絵柄のせいか設定のせいか、どれもどこか懐かしい雰囲気の漂う、読みやすい物語となっていました。
表題作は、あの世とこの世の間にある墓地を舞台に、墓守りの少年たちが繰り広げる魂葬奇譚。二話目「天狗夜」は、とある町のお祭りを舞台に描く、少年二人の友情物語。三話目「ココロカラクリ」はからくりじかけの子供と妖狐(?)の微笑ましいやり取りを描いたお話。四話目「あやかしくるり」は、村のPRショップでバイトを始めた少年が不思議な体験をするというもの。そして五話目「水に見た夢」は少女が夢の中で不思議な青年の導きを受けるというもの。どれもハッキリとは説明せず、雰囲気の中でその不思議さ優しさ温かさを享受するといったような作品。舞台の多くが日本をイメージさせるので、ありがちなファンタジーとは一線を画しています。これを売りとしていくのでしょうが、こういう雰囲気は大好物。

お祭りとか妖怪とか、現実と裏の世界が混じりあう境目のようなときが描かれます。そこに男の子同士のコミカルな掛け合いを絡める。
掲載誌が掲載誌だけに、登場人物のほとんどは男。それも少年がメインになります。ただしBL的な要素はあまり感じず、あくまで普通の目で見れば少年たちの青春の日々・優しい関係を描いた至極真っ当な作品。女キャラがいない不満も特に感じずに読み進めることができました。また唯一最後に収録されている「水に見た夢」は主人公が女の子ですが、これはこれで女子の気持ちを表した気持ちの良い作品に。女の子が主人公の作品ももっと読んでみたかったですね。
物語は非常に雰囲気が良いものの、読切りのみだとするとちょっと余計な説明をしなくてはいけないぶん不利かな、という気も。もっと感動していいはずなのですが、そちらでのタメを作ることができず、ちょっとさらっと流れてしまった感じも。いや、普通にいい話なのですが、底力を発揮すれば「夏目友人帳」(→レビュー)にも似た感動が得られそうなだけに。これが連載になったらどうだろうと期待しながら、待ちたいと思います。
【男性へのガイド】
→オタク系の女子向けの作品ですが、別に穿った見方さえしなければ普通に読めると思うんですけどね。
【私的お薦め度:☆☆☆ 】
→次に期待させる雰囲気のいいデビュー作。読切りのみなのでいちいち世界観を組み立てねばならず、それがロスになったようにも思えました。連載になったら期待大。楽しみです。
作品DATA
■著者:夏宮りょうの
■出版社:エンターブレイン
■レーベル:ビーズログコミックス
■掲載誌:B's-LOG
■全1巻
■価格:620円+税
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