
「そんなの…!
ただのおまじないだよ」
「そうだね
でもおまじないには
ちゃんと理由があるんだよ」
■坂道だらけの、一風変わった港町。そして猫がたくさん住んでいる町。猫は孤独と自由を愛する生き物だという。けれど本当は、かれらはとっても寂しがりやで、暖かい場所が大好きだ。だから猫たちは、ときおり少年の姿で現れて、他人との距離に悩み心に寂しさを抱えてしまった女の子たち”魔女“を見つけて共に暮らすのだ。猫たちがくれる、ほんの少しの幸せの魔法とは
“魔女”と“猫”の優しく温かく、そして悲しい関係を描いたファンタジー作品でございます。なんとも素敵な表紙だったので、購入予定ではなかったのですが買ってしまいました。それではご紹介を。舞台となるのは坂の多い港町。そこにはたくさんの猫と、少しの“魔女”が住んでいます。他人との付き合いに悩み心に寂しさを抱えてしまった女性のことを、猫たちは“魔女”と呼び、そんな彼女たちの前に、彼らは少年の姿となって現れ、一緒に暮らすのです。気まぐれで、他人との付き合いが苦手、けれども人一倍寂しがりやな魔女と猫。似た者同士が寄り添いあい、癒されあいながら生きるその様子を、読切り形式で描いていきます。

お互いが必要としあって、寄り添い生きる。両方とも素直じゃないぶん、歩み寄りもゆっくり、ゆっくり。
独特の世界観で、一言で説明するのは難しいのですが、なんとなく「大人のためのおとぎ話」という感覚を受けます。話の主人公となるのは、他人との距離に悩み、人付き合いにほとほと疲れてしまった女性たち。そんな彼女たちが導かれるように辿り着くのが、この港町なのです。ここで猫に見出された女性たちは、“魔女”として少年の姿をした猫と暮らすようになります。こんな自分でも受け入れてくれる猫という存在が、彼女たちの一筋の光であり、生きる望みに。そんな関係が、とても優しく温かく、そして寂しく悲しく映ります。
気まぐれな猫に、心弱いヒロイン。その二人が寄り添うように生きるその様子は、端から見るととても優しく素敵な関係なのですが、そこには弱さでしか繋がることのできない脆弱さと不安定さが含まれており、ふと冷静になったときにとても悲しい様子に見えてきてしまうから不思議。人間関係に苦しむ女性というのは、いつの時代にもいる…というかむしろ今の時代の方がきっと多くて、そんな中少年の姿をした“猫”という存在に自分の全てを預けられるというのは、そういう女性からしたらまさに夢物語といえるかもしれません。この作品はそんな夢物語をそのまま体現したもので、寂しい女性と猫の美しい関係が、完璧なまでに描かれ続けます。しかし同時に、あまりに依存しあっているために、他の存在が入り込む余地がないんですよね。だからこそ素敵で、だからこそ残酷。
なんて、そんな中で“魔女”には、少しだけ幸せになれる“魔法”というものがプレゼント(発現)されたりします。この“魔法”というのが、他社との関係を円滑にするヒント(というかツール)の役目を果たし、結果彼女に社会的な居場所を与えるという結果に。この“魔法”という存在があるからこそ、ギリギリのラインで「キモチワルイ」にいかず、絶妙に救いある物語になっているように思えます。でも現実はこんな魔法ないですからね、だからこそ「読者に対しては残酷」と捉えることができるようにも思えたり。いや、物語自体は本当に優しさと温もりに溢れた素晴らしいお話が詰め込まれていますので、ご安心ください。人間関係が上手くいかず、寂しくなった女性のための、優しい優しいおとぎ話です。
【男性へのガイド】
→女性が読んでこそだと思うのですが、フラワーズですし男性でも大丈夫かと。あと猫好きなら。
【私的お薦め度:☆☆☆☆☆】
→別にわかってもらえなくてもいい。でも好きだと思ったんだ!久々にアンテナがガチッと合った気分。あくまで「おとぎ話」で温もりいっぱい。けれどそれだけじゃない。巻数表示ないですが、シリーズ自体は続いてるみたいです。
作品DATA
■著者:奈々巻かなこ
■出版社:小学館
■レーベル:フラワーコミックスα
■掲載誌:flowers(2007年6月号ふろく~2010年9月号)
■全1巻
■価格:400円+税
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