
あああたし
まるで 恋に落ちたよう
■時は未来。ここは宇宙時代を迎えたこの世界の片隅、地球連邦英国自治区。この街にある、上流階級の子女が集うベネディクト女学校に、この度惑星トアンから留学を名目に王女・ジノンが亡命してきた。上流階級が集まるこの学校の中でも、とびきりのVIP待遇である彼女は、瞬く間に生徒たちの憧れの的に。そして、住み込みのハウスメイドとして働くサリーもまた、彼女に淡い憧れを抱く一人であった。国も身分も違う二人の運命的な出会いがやがて…!?
海野つなみ先生による、「SF小公女」ということらしいのですが、原作「小公女」は知らず。とりあえずWikipediaを参照してみたのですが、原作との関連性はそれほど強くないようです(多分)。舞台となるのは未来のイギリス、上流階級の子女が集うベネディクト女学院。宇宙時代を迎え、地球のみならず異星人と交流することも当たり前になった中、ベネディクト女学院に惑星トアンから王女が留学という名目で亡命してきます。アッパークラスの子供たちが集う中でも、一つの星の王女ともなればやはり格が違います。留学前から校内は王女・ジノンの話題で持ち切り。そして留学後も、憧れの的として生徒から一目置かれる存在となります。そんなベネディクト女学院で、住み込みのハウスメイドをしているのが、ヒロインのサリー。労働者階級に生まれた彼女は、宇宙時代にも関わらずイギリスはおろか今いる街からも出たことがないという境遇で、日々仕事に追われる日々をおくっていました。そんな身分も国も違う二人が出会ったとき、運命は動きだします…

普通であればありえないような相手との出会い。それは王女のジノンにとっても同じ。特殊な環境だからこそ築かれる、独特の関係性というものがある。
労働階級に生まれながらも、日々を精一杯前向きに生きるヒロイン・サリーと、内乱の続く故郷の星を、留学という名目で亡命してきた王女・ジノン。その二人の触れ合いから描き出す、SF版小公女。SF的な要素が強いのは、王女・ジノンの側で繰り広げられるストーリーでしょうか。国内の混乱が続き、紛争の危機に陥っている中での亡命。もう故郷には戻れないかもしれないという運命を背負っての留学ですから、当然彼女の心は晴れやかではないでしょう。それでも王女として、決して弱い部分は見せずに凛と佇むジノンと、そんな彼女に魅せられたサリー。帯にある「恋に落ちたよう」というのは、ジノンを見たときのサリーの心情です。身分の違いから、そうそう接する機会はないものの、数少ないやりとりと、普段の立ち振る舞いのなかから、サリーはジノンへの憧れの想いを強めていきます。現時点ではあくまで“憧れ・尊敬”。その感情が、これからどう変化し、行動として現れていくのか、その辺がひとつの見所になってきそうです。
1巻はベネディクト女学院での出来事の数々がメイン。ジノンとサリーだけでなく、女学院に通う女生徒たちを話のメインに据えて物語を展開。紳士・淑女的に穏やかなやりとりを…なんてこととは程遠い、その年頃の女の子ならではの気高き意地のぶつかり合いを堪能することができます。お上品に下品なその様が、妙にリアルで見入ってしまいます。そしてそんな中でもブレずに凛としている王女・ジノン。そしてサリーはそれを遠巻きに眺めながら、ジノンへの憧れを強めていくという構図。百合とはちょっと違うのかな。
現時点ではまだ世界は狭いまま。これからどう広げていくのか、楽しみにどうぞ…という感じ。海野先生ですし、そう焦ることもなくゆっくりと物語を積み上げていくのでしょう。物語が広がりすぎて収束できなくなる…なんてこともないと思いますし、SFとかイギリスの女学院がダメってことがないのなら、買って損ってことはないんじゃないでしょうか。個人的には海野先生の作品ってそこまで魅力的に感じないのですが、これは続き読みたいと思いました。というか、1巻ラストであんな閉じ方されたら、誰だって読みたくなるでしょう。
【男性へのガイド】
→男性が読んでいても大丈夫、問題無いんじゃないでしょうか。描き出すものは、必ずしも美しいものであるとはいえないですけれど、それが大丈夫なのであれば。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→2巻へのひきがアレはずるい。どんな話になっていくのかはまだわかりませんが、続きは読んでみたいです。
■作者他作品レビュー
海野つなみ「回転銀河」
作品DATA
■著者:海野つなみ
■出版社:講談社
■レーベル:KCKISS
■掲載誌:KISS(2009年No.21~連載中)
■既刊1巻
■価格:419円+税
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