
キミがいる
にぎやかな食堂に帰りたい
■町香は、町の小さな食堂・入江食堂の看板娘の高校生。親しまれてはいるものの、なかなか繁盛せずに苦しい生活を送る毎日に、イライラを募らせていた。そんなある日、兄が家に同級生を連れてきた。草食系を通り越して、草木系の無職の男。そんな彼を兄は、居候として仕事が決まるまで預かるというのだ。ただでさえ厳しい家計なのに、歓迎ムードの母と兄に不満爆発。こんなの絶対認めない…!!
安里由香先生の新作。これまで作品集などには作品を収めていたものの、完全個人名義の単行本はこれが初だと思われます。お話は、貧乏に苦しむ町の食堂の娘・町香と、その家に居候としてやってきた草食系無職の兄の友人・椎名の様子を描いたもの。舞台となるのは、町の食堂・入江食堂。経営者の父が出ていき、以来母親と兄と町香の3人で何とか切り盛りしているものの、赤字がかさんでいるという状況。しかしそれに対し危機感を抱いているのはヒロインのみで、他の二人はどちらかというと楽天的でお人好し。そしてそれが高じて、職がなく行くあてのない友人を、兄が拾ってきたというのが事の運び。もちろんヒロインはそれに激怒。しかし結局は押し切られ、しぶしぶ一緒に生活するようになります。覇気のない草食系で、おまけに鈍臭くて手伝いもまともにできない彼に、最初はキツくあたる町香でしたが、やがて彼の纏う自然で優しい空気に彼女の心も溶かされていき…というお話。

ナチュラルに誘う。極めて自然体な彼に、いつも気を張っているヒロインが惹かれるのも無理はありません。いつしか安心できる居場所に。
その後ヒロインを好きな医者の息子が登場、物語は貧乏とお金持ちとの天秤…というわかりやすい構図になっていきます。「確かにお金は素敵だけれど、貧乏だからこそわかる幸せがある」なんて、ちょっと恥ずかしいような状況を、上手く作品に落とし込み展開。まぁそりゃあ答えは見えているわけですが、それでもこうした形でしっかりと提示されると、なんだかやけに説得力があるから不思議です。
相手役は草食系ニートということなのですが、一応就職活動はしている設定なのかな?そうするとニートというのはちょっと違うかも。とはいえ堂々と無職が相手役になるって、やっぱりすごいですよね。ヒロインが高校生ってのも、その設定を許す要因になっているのかも。いや、別に無職が悪いってわけではないですが、女性ってその辺気にしていないようで意外とシビアだったりするイメージなので。
ラストは無理に締めようとせず、落ち着くべきところで終わった感じ。こういう完結のさせ方もあるのか、と驚きました。「はいはいラストラスト、いつもの少女漫画的なあれでしょ?」なんて思っていたものですから…。そのぶんロマンス感には欠けますが、ナチュラルに終わったので、個人的にはかなり好印象でした。だから裏表紙には「ホームドラマ」と書いてあるのね。
【男性へのガイド】
→女子高生の恋愛軸で展開される物語に、どれだけついていけるか。雰囲気ではあまり感じさせませんが、とってもプラトニックなお話ですので、そういうのが好みだという方は。
【私的お薦め度:☆☆☆ 】
→無理のない終わらせ方が好印象。究極の草食系は、土壇場でもがっつかないという。この作風だとしたら、これからどうインパクトをつけていくかが鍵?新作が楽しみですね。
作品DATA
■著者:安里由香
■出版社:講談社
■レーベル:KC別フレ
■掲載誌:別フレ(2009年9月号~2010年3月号)
■全1巻
■価格:419円+税
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