作品紹介→
岩本ナオ「雨無村役場産業課兼観光係」関連作品レビュー→
スケートといったらスカートですよね:岩本ナオ「町でうわさの天狗の子」6巻
岩本ナオ「雨無村役場産業課兼観光係」(3)
また
帰ってこいよ■3巻発売、完結しました。
銀ちゃんが企画し、みんなで準備を進めてきた村民期待の新しい村おこしイベント”さくら祭り“の日が迫ってきた。東京で俳優としてデビューし、人気者となったスミオもこのイベントのために戻ってきてくれ、村人たちは大喜び。そして彼のPRが功を奏し、来客は予想を大きく上回る数となった。そんな中、スミオと銀ちゃんが秘密にしていたあることを知ってしまい…?
~完結ということで・・・ ~ 完結しました。3巻まで来るのにけっこう時間がかかりましたね。そしてこちらで感想を上げるのにも時間がかかりました。完結したためこれが最後になるということと、どうまとめたら良いのか考えあぐねまして。結果、とりあえず流れやつなぎ目などは気にせず、とりとめもなく思ったこと・気づいたことなどを書いていこうかな、と。
あ、結構なネタバレがありますので、未読の方は続き読まない方が良いかと思います。 ~スミオの決意~ 桜祭りに合わせて帰ってきたスミオ。その胸にはどんな想いを抱えていたのでしょうか。最後の台詞や、中盤での銀ちゃんとの会話から考えるにやはり、これを最後にしばらく、ないしずっと雨無村には戻らないという決意があったのではないでしょう。銀ちゃんへ
「あのことは忘れて欲しい」と告げたのは、揺さぶりでもなんでもなく、区切りとしてああいった発言をしたと考えるのが自然でしょうし、最後別れる際にも、
「帰るよ」とは言いつつも、
その時にはほんと俺と銀ちゃんとメグちゃんしか村にいないかもしれないけど
俺たちが八又さんみたいになったころ
毎晩物置で飲んだくれて
毎日メグちゃんに怒られようね
と、それが実現するのがずーっと先であることを示しています。
ああ、結局しばらくは戻ってはこないのね…と切なくなったのですが、スミオの気持ちはむしろ晴れやかだったのではないかな、と思います。というのも、彼はおそらく、この村でやるべきことはみんなしたはずなので。
~銀ちゃんが与えた、スミオの居場所~ 桜祭り前日、スミオが銀ちゃんへ想いを伝えた際、彼は自分が祭りを開催するにあたってあまり役に立てていないことを謝っています。これは彼が謙遜しているとかではなく、本当にそう思っているからで、おそらくですがその根源は、スミオの銀ちゃんとの関係性の捉え方にあるのではないかな、と思いました。銀ちゃん自身が言っていたように、スミオはそれまで自分一人では何もできないような頼りない存在で、銀ちゃんは彼を下に、そしてスミオは銀ちゃんを上に見るという関係にありました。それが、彼の東京進出とともに変化をしていくわけですが、決定的な部分は変わってはいません。スミオにはこの雨無村での成功体験(=銀ちゃんに真に認められた事)がなく、それが3巻まで尾をひくという形になっていたのです。この成功体験の有無がひとつ、スミオのその後を決定付けるポイントとなるはずなのですが、今回それにあたったのが、桜祭りでの餅の売り子の仕事でした。

※クリックで拡大
銀ちゃんは、スミオを頼りに餅売りを任せる。
並々ならぬ決意を伺わせる表情を浮かべていますが、それもそのはず、おそらくスミオは、
このとき初めて銀ちゃんから頼りにされ、仕事を任されたのです。雨無村の仲間としての承認。彼のこの村での存在意義が確立されたと言っても過言ではありません。もしこの出来事がなければ、彼は雨無村へ戻ってくることはなかったのではないでしょうか。この役目=桜祭りと餅をPRするという役割があるからこそ、その村に居場所を見つけることができる。それまで彼にとっての雨無村は、ニアイコールで銀ちゃんであり、彼に受け入れられることがないのならば、いるべき理由はないはずなのです。
~スミオ→銀ちゃんへ,メグを支える人間の変化~ 最終的に銀ちゃんの想いはメグへと届くことになります。一貫してメグへ想いを伝え続けた銀ちゃんが勝った形になりますが、その想いが届いたときの描写がとても印象的でした。彼は桜へと続く急坂をメグの後ろからついていき・・
転がり落ちてきたら支えてやるから
これから先も
とその想いを伝えるのです。
実はそういったシチュエーションが、1巻の第1話にも登場しています。それがこのシーン…

第1話。3人で桜を観に行ったとき。
その時メグを支えたのは、彼女の想い人であるスミオ。
「メグを支える人間」という形で恋愛対象を描き出すというのは、極めてオーソドックスな手法ではありますが、
第1話と最終話で対比させてくるあたり、思わず唸ってしまいました。
~大丈夫だよ、銀ちゃんがいるから~ 予想以上の来客に道路が混雑、対応に追われ皆が心配をする中、スミオは
「銀ちゃんがいるから大丈夫」とハッキリと宣言します。この台詞、単純に受け取るならば交通整理の話で完結してしまうのですが、スミオの含みある言い方から察するに、どうも「(今もこの先も、雨無村は)大丈夫」と言っているように思えてしまうんですよね。そんなスミオの願い(確信?)に応えるように、桜祭りはしっかりと5年後も開催。そして銀ちゃんとメグは結婚。子供を作ることで、少子高齢化により過疎が進む村落に、しっかりと新たな世代を残しています。様々な形で“村”を残しつづける銀ちゃん。本当に、「彼がいれば大丈夫」と思わせてくれる、素敵なラストだったと思います。仮に結婚によって、スミオの戻るべき場所ってのがなくなってしまったと思うのであれば、それは間違い。彼は今も桜祭りと、名物の餅をPRし続けています。それが先でも書いたように、村との関係で見た時の、彼の仕事であり彼の存在意義なのですから、離れていてもしっかりと居場所は持ち続けているのですよ。きっとそのはずです。
■購入する→
Amazon
/