
さて
どのような話をお望みで?
■時は20世紀初頭。
平和に見えるこの町では、皆の気がつかないところで数々の不思議が起こっていた。覗いたら、何かおぞましいものが見える望遠鏡…夜中にひとりでに歩き出す洋人形…人を誘う枯井戸…。大学生でありながら、父親に変わって古道具屋を預かる忍の元には、そんな不可思議な物の話が持ち込まれてくる。今日もまた、不思議がひとつ迷い込んでくるのであった…
片山愁先生の新作。片山愁先生といえば、「嵐雪記」が10巻まで到達し、すっかりゼロサムの人気作家さんになっている方でございます。今回の舞台となるのは、20世紀初頭の日本。だんだんと文化の移り変わりが進み、和と洋が混在しているころ。その間を縫うように存在するのは、“何”とも言えない不可思議な物事たち。町の骨董屋を父に代わり預かっている大学生・忍のもとには、今日も今日とて不可思議なものが持ち込まれます。そんな不思議なものたちから始まる、不思議なお話の数々を、これまた不思議な大学生・忍と共に見ていきましょう。

レトロアンティークにダークな雰囲気で味付け。このマッチングは大変よろしい。
読切りタイプのストーリーで、その時に扱われる不思議な物を軸に話を変えていくというスタイル。オカルティックな物語で、恐怖系のお話もあり。しかし怖がらせるというスタンスはとっておらず、あくまでその不思議さと、その“もの”にまつわる人の想い(=不可思議なことが起こる因果)を描き出すことで味わいを得ようという感じ。故に物語は淡々と進んでいきます。これといった山場はなく、読切りスタイルということで繋がりから生まれる躍動感や大河感はまったくないのですが、その頑までに淡々と進んでいく様式からは、美しさとこだわりを感じることができて退屈はしません。むしろ心地よいくらい。話も計算された美しさというものがあり、安心して物語を楽しむことができます。
良くも悪くもまとまっているという印象ですが、それはイコールで通して一定水準のクオリティの物語を楽しむことができるということです。雰囲気が好き、絵が好き…そんな方は手に取って損はないでしょう。また読切りだし抑揚がないし…とか言っておきながら、ばりばりこの物語自体を包括しそうな伏線が張られております。それが案内人・忍とその父親との関係なのですが、正直言うとこれもなんとなくは想像のつく範疇。とはいえどんでん返しなどはあまり期待しておらず、むしろ各話で描かれる不思議と、この大きな仕掛けをどう綺麗に組み合わせてくるのかが楽しみなわけで、ちょっと続き読んでみたいかもですね。こういう作品ってのは、単行本ではわからないですが、誌上では絶対に必要だと思うので。いい味出してます。
【男性へのガイド】
→どちらの方にもOK。女性キャラもかわいいですし、男性キャラも憎めない。骨のある話ではないので、そこだけが懸念材料でしょうか。
【私的お薦め度:☆☆☆ 】
→安定感のある様式の美しい作品。個人的にはこういうお話好きですねー。骨のある話や甘い話の合間にちょこっと読みたい感じです。
作品DATA
■著者:片山愁
■出版社:一迅社
■レーベル:ゼロサムコミックス
■掲載誌:ZERO-SUM(年月号~)
■既刊1巻
■価格:552円+税
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