きら「心臓より高く」
だってシンゴくんは
手を差し出してくれたよ■長編読切り2作を収録。それでは表題作をご紹介。
生まれつき女性のようなキレイな手を持っていたシンゴは、大学に通いながら手のモデルの仕事をしている。顔を出すことはないが、彼の仕事を知っている人は多く、いつも興味の対象になる。そんな彼には、心の奥にくすぶり残りつづけるある想いがあった。この仕事をしている以上、決して忘れることのできない過去が…
「パティスリーMON」などで有名なきら先生の長編読切り2作詰め合わせでございます。まずは手のモデル、いわゆる手タレをしている青年のとある悩みと、そこからの再生、出発を描いた「心臓より高く」。続いて、彼氏ができたばかりの女子高生に、ある日思いもよらない内容が書かれた手紙が届くことから始まる「H…」。どちらも社会的メッセージをエッセンスとして投入してきており、単純な少女漫画とは一線を画する印象を受けます。こういうの集英社でやるんですね。なんとなく講談社とかでやりそうな印象です。
内容にほとんど触れていないのは、どこまでネタバレしていいのかわからないから。どちらも少しでもヒントを出したら、物語の全体像がわかってしまうような感じなので。別にワンテーマで単純に進んでいくような物語ではないんですが、核となる部分がとにかく重要で、秘密にしておきたいので、どうしてもここでは書けないというね。

回想でもないのに、枠外が黒になるシーンが。一目で重要なシーンであるとわかるし、雰囲気も変化させる。顔に傷を持つ彼女がキーパーソン。
「心臓より高く」も、「H…」も、“後悔”という感情を軸に展開します。故に序盤~中盤は決して気持ちの良い流れではないですが、そこで溜めたぶんは最後でしっかりと放出。とくに「心臓より高く」は本当に感動し、温かい気持ちになることができました。恋愛ではない、もっと他の感情・関係をこういった形で描き出せるってのは、結構すごいことだと思います。展開的にはある意味ベタなのかもしれませんが、だからこそ物語に溺れれば大感動が得られるわけで、裏表紙にて「傑作」と書かれているのにも納得。その道に進めば、忘れることができないどころか自らを責めつづけることになるにも関わらず、敢えて選択をした主人公の心情が、よく描かれていると思います。
「H…」は、やや社会的メッセージの強く出た作品。いや、決してそういう狙いは無く、あくまで物語を描こうという立ち位置なのかもしれませんが、やはりこういうテーマってどうしても意識してしまうというか。こちらは1話目に比べるとかなり凝った作りになっており、2度読んでやっと全体像を理解できるという感じ。テーマ的にもとっつきにくいところに、こういう物語構成というのは、いかがなものかとは思うものの、なんだかんだで最後には救いがあって、いい気分になってしまうという。でもやっぱり個人的には表題作の方が好きかなぁ。
【男性へのガイド】→表題作は男女どちらでも楽しめる作品だと思います。2話目はわからないですが。
【私的お薦め度:☆☆☆ 】→表題作オンリーだったら5つ行ってもいいぐらいなのですが、同時収録の作品がクセのある内容で、どうにもオススメしづらいという。ロマンスとかじゃなく、人間臭い感動が欲しいという方は、表題作目当てで買ってみては。
作品DATA■著者:きら
■出版社:集英社
■レーベル:別冊マーガレットコミックス
■掲載誌:別冊マーガレット、デラックスマーガレット
■全1巻
■価格:400円+税
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