このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [新作レビュー] [オススメ] 2010.04.29
sm.jpg高宮智「S×M」


死んでも一緒?
死ぬまで一緒?



■2シリーズ収録。せっかくなのでどちらもご紹介します。まずは表題作の方から。

「S×M」
…大征四年、文明開化の灯りとまだこの国に残る闇と人が共存していた時代、伯爵家の令嬢である希莉恵の住む町は、連日吸血鬼の噂でもちきりだった。父が亡くなり、狙ったように結婚話が持ち上がった希莉恵は、「この際吸血鬼でもいいから連れ去ってくれないかしら」と、浮かない表情。そんなある日、学校からの帰り道で、倒れている青年を見つけ拾ってきてしまう。蒼い眼を持つ美しいその青年は、意識を取り戻すも、記憶喪失によって何も覚えていない状態。そんな彼を見て希莉恵は、記憶が戻るまで家にいればいいと引き留め、篝と名付け一緒に暮らしはじめたのだった…

 所属先であったちゅちゅが休刊(→関連記事)という事で、同じ出版社のCheese!に移籍してきた高宮先生。この「S×M」は、その移籍後第一作になります。ヒロインは、早くに母を亡くし、父親も先日亡くしたばかりの伯爵家の令嬢・希莉恵。そんな彼女が、持ち上がった結婚話に苛立ちを募らせる中、記憶喪失の美青年に出会い、絆を深めていく…しかし…というストーリー。時代物×オカルトファンタジーという要素は別として、登場人物のデザインが軒並み大人っぽく、かつ悲恋ということで、Cheese!に合わせたスタイルの物語となっています。ちなみに結構な高宮智ファンの方でしたら気づいているのでしょうが、今回相手役となる篝は、同作者の代表作「Heaven's Will」(→レビュー)に登場する篝くん。双方のストーリーに深い繋がりはないため、「Heaven's Will」を知っているから楽しめるということもないのですが、ファンとしては嬉しい試み。どうせならちゅちゅで観たかったなぁ。書き下ろしには篝と世登くんの出会いが描かれています。
 

「祓いますけど何か?」
…白金琴生は、幽霊との恋に憧れるちょっと妄想の過ぎたイタい女の子。イケメンユーレイとの出会いを夢見て、日々幽霊研究に明け暮れる彼女だったが、そこにはちょっとしたハンデが。というのも白金琴生、人一倍強いオーラの持ち主らしく、近寄ってきたユーレイは意思に関係なく尽く祓ってしまうという体質の持ち主なのだ。そんな所に現れたのは、クラスで人気の病弱王子こと、深山炯太。いつも物憂げな表情を浮かべる彼の正体は、幽霊を尽く引き寄せてしまうという体質の持ち主。病弱なのも、ユーレイのせいだったのだ。祓っちゃう子と引き寄せちゃう子、二人の利害は一致した…けれど、どうにもおかしな方向に…!?

 本来ならばこちらが単行本タイトルになるハズだったのでしょう。表題作が長編読切りであるのに対して、こちらは連載作。しかしながら掲載誌の休刊があって(以下略)。こちらは表題作とは打って変わって、明るい印象のラブコメディとなっています。ちゅちゅでの前作が、どちらかというと暗めの作品だったので、個人的には嬉しい限り。なんといってもヒロインが…


祓いますけど何か?
ロリ気味なアホ子。

 高宮先生はこういう活動的なアホ子を据えた方が絶対に面白いと、個人的には思っているので、テンションが上がりました(笑)話の内容は、イケメンユーレイと恋愛する事を夢見るヒロインが、ユーレイをことごとく引き寄せてしまうクラスの王子様を利用し、幽霊騒ぎにてんやわんやするというもの。ヒロインは、近寄ってきた霊を尽く祓ってしまう体質の持ち主という設定で、相手役と一緒にいる理由を無理なく作り上げています。コメディなので、ストーリーはそこまでこだわらなくても良いのですが、さすがに設定くらいはきちんとしたいところ。今作はそこもしっかりとフォローしており、違和感なく作品を楽しむ事ができるようになっています。まとめ方もすごくキレイで良かったですし、全体的にいい作りだった気がします。


払いますけどなにか
勢いでお背中流しに入り、変なテンションになって押し倒す

 キス含めて、ちゅちゅの割にちょいとえっちいネタもございます。この密着感がまた高宮作品の魅力。ヒロインが活発でアホだと、こういう展開になりやすい気がします。だからこそ、アホ子を押すんですよ、私は。ちなみに今回の相手役は容姿こそ王子様なものの、これまでの高宮作品の相手役と違って、主導権が握れないタイプ。ヒロインの奔放に振り回され、苦悩するその姿がやけにツボでした。でも決めるところはしっかり決める。こういうところを外さないところもまた、高宮先生の作品の素敵なところなんですよね。
 
 久々に高宮先生の作品でヒットが来たような。ストーリーが楽しいというだけでなく、表題作ともうひとつの作品で、こうもシフトチェンジができるのかというくらい変わり身を見せており、一冊で二度美味しい内容になっていると思います。狙ったのかはわかりませんが、どちらもオカルト要素が含まれたストーリー。世界観の違いではない、雰囲気・話運びでの変化というものを楽しんでみてはいかがでしょうか。


【男性へのガイド】
→どちらも男性向けのそれに比べると、可愛げのあるヒロインとは言いがたいのですが、そこはテンポの良さでカバー(後者)。表題作は高宮ファンだけ読んでいればいいと思います。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→面白かったです。これはオススメしてもいいんじゃないだろうか。高宮作品の魅力がビシッと形になった一作。こういう作品をCheese!でも描いてもらいたいですねー。


■作者他作品レビュー
高宮智「ソラオト」
高宮智「わたしのおくすり」
高宮智「今宵音降る空の下」


作品DATA
■著者:高宮智
■出版社:小学館
■レーベル:Cheese!フラワーコミックス
■掲載誌:ちゅちゅ,Cheese!増刊
■全1巻
■価格:400円+税


■購入する→Amazon/bk1

カテゴリ「Cheese!」コメント (2)トラックバック(0)TOP▲
コメント

このコメントは管理人のみ閲覧できます
From:  * 2010/05/01 01:22 *  * [Edit] *  top↑
けっこう寂しいものですね。
やっぱりお別れは、前向きなものであっても慣れないものです。
きっとまたお会いできると信じてます。
サイトはいつ頃はじめられる予定なのでしょう?楽しみにしていますね。
んー、気の利いた言葉が出てこない…(苦笑)
みじかい間でしたが、本当にお世話になりました!
つき並みな言葉ではありますが、今後のご多幸をお祈りしております。
けしてこれが最後のお別れにならないよう、あなたが戻ってくるまで私も更新頑張ります!
たくさんの感謝をこめて…
ありがとうございました!お元気で!
From: いづき * 2010/05/01 18:47 * URL * [Edit] *  top↑

管理者にだけ表示を許可する

この記事にトラックバック
検索フォーム
最新記事
カテゴリ
タグカテゴリ
月別アーカイブ
リンク
プロフィール

Author:いづき
20代男、Macユーザー。野球はヤクルト、NBAはマジックが好きです。

文章のご依頼など、大事なお話は下記メールアドレスへお願い致します。


■Twitter
@k_iduki

■Mail
k.iduki1791@gmail.com
※クリックでメール作成
RSSフィード
▽最新記事のRSSを購読

a_m.jpg
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

Power Push
2012年オススメはコチラ→2012年オススメ作品集


かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
びっけ「王国の子」(1)
レビュー
稀代のストーリーテラー・びっけ先生が描く“影武者”もの。王位継承権を持つ王女の影武者に、町の芝居小屋で役者をしていた少年が選ばれるというストーリー。良く練られた背景を説明するために、1巻まるまる使うような、重みと読み応えのある一作。




シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
売れない役者が、役者仲間を亡くしたと思ったら、お次は隣に高校の同級生が越してきて、さらには何やら自分にしか見えない子どもの姿が見えるように…。どこかゆるさのある不思議なテイストのお話なのですが、いくえみ作品で実績のある「ある者の死と、残された者の感情」を描き出す類いの作品ということで、この先きっと面白くなってくることでしょう。




BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
レビュー
高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。