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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2010.05.01
1102894528.jpg小村あゆみ「うそつきリリィ」(1)


「え?女装の何が悪いの?」
「世間体だろうか」



■驚くほどの美青年、めっちゃタイプの男の子・苑に告白されたひなた。夢のような展開に、即OKと返事をするも、その後意外な事実が発覚する。なんとひなたに告白をしてきた男・篠原苑は、校内でも有名な女装男だったのだ!そのことを知って、ひなたは早急に取り消しを求めるも、「早乙女さん(注:ひなた)のこと、本気で好きだから、女装やめれるように頑張ってみる!」と宣言されとりあえず付き合ってみることに。けれど自分より美人の相手と付き合うってどうなんですかー!?ひなたの苦難の日々が始まった…!
 
 小村あゆみ先生の新作です。元々実績のあった先生ですが、近所の本屋さんで目一杯平積みされていたのが印象的。編集サイド、書店サイドのプッシュが感じられる一作ですが、期待に違わぬ面白さでした。それでは内容をご紹介しましょう。
 
 ヒロインは、ごくごく普通の高校に通う、ごくごく普通の女子高生・ひなた。そんな彼女がある日突然、理想のイケメン男子・篠原苑に告白をされます。夢のような展開に即OKするも、実はその相手は、校内でも有名な女装男子というまさかの展開。そんな男とは付き合ってられないと、ひなたはOKしたことを取り消してもらおうとするのですが、どうやら彼は本気。ひなたのためなら女装をやめられるよう努力するとまで宣言し、その熱意に押され、結局二人はつき合うことになります。そもそも彼を女装にかき立てる理由は、「大の女好きで、かつ大の男嫌いだから」。男嫌いが過ぎて、鏡に映った自分の姿を見ても殺意が芽生える程。そんな彼との付き合いは、大変大変…しかしそれさえ我慢すれば、一途に自分のことを愛してくれるイケメン男子なわけで、双方に歩み寄り跳ね返しを繰り返しつつ、慌ただしい毎日を送っていきます。


うそりり
キスひとつでも、問題ばかり。いや、割と萌えますけど。このヒロインのツッコミ力も、この作品を引き締める要因になっています。


 女装男子との慌ただしい恋愛模様を描いたコメディです。この作品、マーガレットの特性を活かした作りになっており、非常に面白い作品となっています。マーガレットというと、現実を舞台に非現実な設定で展開する、テンポの良い作品が多いのですが、こちらもご多分に漏れず。女装をしている相手役はもちろんですが、ヒロインも、そして脇を固める登場人物たちも非常にパワフルに動き回り、異色な存在である苑に競り負けることがありません。そしてそのぶつかり合いが結果的に、テンポの良い、勢いに溢れた物語展開を生み出す、と。読みやすい、ネタ的にも面白い、かわいい、そんでもってトキメキもあるよ!という、何度も美味しい作品に仕上っています。多分この作品は、苑がひなたを好きになる過程を完全に省略した時点で勝ちだったんですよ。そうすることで、初っぱなから全力でダッシュできるという。
 
 基本的には疑似百合状態、そこに水泳の時間でスク水描写、さらに男装ネタで疑似BLと、全体的にかなり狙った作りになっています。というか、1話ごとに必ず「ジャンル」「属性」などで表されるような要素(=コスプレネタ)を投入してきているという。1話目2話目はまぁ良いとして、3話目はプールでスク水、4話目は浴衣、5話目はメイド、6話目は男装と、やりたい放題。しかし決して題材を無駄に使っている感は無く、ネタとしてキチンと消化しているように感じるので、全然OK。むしろもっとやってください。まぁ話数を表すのが「女装度」って言葉なんですけど、むしろ上がってるのはコスプレ度じゃね?と突っ込みたくなったり。てか女装度が上がっちゃったらそもs(ry
 
 この作品のすごいところは、苑自身が非常に美人で、キレイどころの女性キャラとしての役割を満たしているにもかかわらず、そこで完結しないところ。むしろ「自分なんかより本当の女の子の方が数倍魅力的。女の子ってこんなに素敵!ほら自分じゃなくて、この子たちを見てごらん!」と、周囲の女の子を立てる姿勢を持っており、それがしっかり機能しているのです。
 
女の子は
「女の子」として生まれただけで宝石なの!!

 という言葉には本当に共感致しました。これだけの美貌と個性を持ち合わせていながら、周りを囲む女子たちを潰さない、むしろ活かす存在というのは、本当に希有なのではないのかな、と。男がこういう台詞を言ったらキモイだけなんですけど、女装をして、本当に女の子に憧れている苑だからこそ、説得力があるという。そういえば、少女漫画ではオネエ系のキャラが恋の指南役になったりヒロインを勇気づけたりする役回りになることがありますが、彼もまたこの作品の中で、それに通ずる役割を請け負っているのかもしれません。何はともあれ、おすすめですよ。軽い気持ちでぜひ一読あれ。


【男性へのガイド】
→テンポの良いコメディ。それだけで読みやすいってのに、そこに男性にも受けそうなネタを投入。これは結構すんなり読めるのではないでしょうか。
【私的お薦め度:☆☆☆☆☆】
→これは優秀なラブコメ。マーガレットらしさが出た良作コメディだと思います。わぁい!を読むならうそつきリリィを読むが良い!なんてわぁい!読んでないんですけどね。


作品DATA
■著者:小村あゆみ
■出版社:集英社
■レーベル:マーガレットコミックス
■掲載誌:マーガレット(平成21年No.23~連載中)
■既刊1巻
■価格:400円+税


■購入する→Amazon

カテゴリ「マーガレット」コメント (6)トラックバック(1)TOP▲
コメント

評価高いですね-。

小村あゆみさんは、単行本『HotMilk』収載の『ライフレスライフ』がとてもよかったので注目していたのですが、『うそリリ』は私的にはちょっと残念・・・。

ただ、苑の心理は共感できなくもないです、ハイ。
女装は・・・宴会芸くらいでしかやったことないですけど(わりと評判よかった)。

疑似百合っていうと、『勝利の悪魔』もそういったジャンルになるんですかね?
3巻でたら(確かそろそろ発売予定)まとめて読むつもりなので、未読なのですけど。

しかし・・・最近、こういうの(疑似百合、疑似薔薇、男女逆転)多いような・・・。
From: しろくま * 2010/05/09 00:47 * URL * [Edit] *  top↑
そうですか、あまり合いませんでしたか。
個人的にはテンポも良く、設定も上手く使えているという印象で、楽しむことができました。
共感という部分では、ちょっと色モノ多めなぶん難しいのかもしれませんねー。

「勝利の悪魔」も女装に分類されるでしょうね。
個人的には「山本善次郎~」の方が優しい感情を描いていて好きですが。
ノリ的には「勝利の悪魔」のほうがこちらの作品に近いかと思われますー。

いわゆる「男の娘」は確かに最近多いですね。ジャンルとして名前がつくと定着しやすいというのもあるのかと思います。

コメントどうもありがとうございました!
From: いづき * 2010/05/10 00:51 * URL * [Edit] *  top↑
この作品はかなり面白いですね。
小村さんの作品はいろいろと読んでいますが、今作はとにかくキャラクターが可愛いですし、
内容もすごく楽しいと思います。

私にとって、小村さんといえば、これまでは熱狂的なヤクルトスワローズのファンという印象
(単行本に土橋選手(現二軍コーチ)への熱い思いを描いたり、マーガレットの企画(ほとん
ど趣味)で神宮球場へスワローズの取材へ行くなど・・)でしたが、これからは、「うそリリ」と
いう、とても面白い漫画を描く方だと、印象を改めたいと思います。
From: シャドー * 2010/05/10 22:03 * URL * [Edit] *  top↑
小村先生の作品を読むのはこれが2作目だったのですが、まさかここまではっちゃけた作品を描いてくるとは思っていなかったので、びっくりしました。
マーガレットは時折こういった快作が飛び出すので、侮れないですね。
今から続きが楽しみで仕方ありません。
コメントどうもありがとうございました。
From: いづき * 2010/05/11 23:27 * URL * [Edit] *  top↑
あゆみ先生のうそつきリリィ全巻もってますけどやっぱ、
すごすぎます7巻がたのしみだなぁ”▽”
From: ひなた * 2012/03/19 19:10 * URL * [Edit] *  top↑
ホントに大好きなんです!!
うそリリ以外の漫画は、もぅ、つまらないと思うぐらい!!!!
小村先生に実際に会いたい・・・・・・・。
あ!
キャラゎ、玲那(先輩)が1番好きです(*^^)v
なんか、かっこいい(照)
えっと、あと、あぁうえっと・・・・・。
と、とにかく!!
うそリリが、大好きなんです!!
最終回なんて、だめですよ!?
ワン●ースみたいに、続けなきゃ≧∀≦
小村先生!!
がんばってください!
誰よりも応援してます≧∀≦
From: 玲那 * 2012/08/09 21:40 * URL * [Edit] *  top↑

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