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Tag [続刊レビュー] 2010.05.01
作品紹介⇒いくえみ綾「潔く柔く」
11巻レビュー⇒心の中のしこりの正体…《続刊レビュー》「潔く柔く」11巻
関連作品紹介⇒いくえみ綾「いとしのニーナ」



1102894536.jpg潔く柔く 12 (マーガレットコミックス)


ちゃんと
思い出してやれよ



■12巻発売しました。
 禄から風邪を引いたと連絡を受け、家を訪ねたカンナは、禄もまた罪悪感を抱えて生きていることを知る。さらに禄から、「ためしに付き合ってみない?」と告白をされるが、梶間の訪問によりうやむやに。その後仕事の現場で、朝美と再会をするのだが…。一方禄は、梶間が訪ねてきて以来、時折子どもの幻を見るようになっていた。その姿は、どことなく希実に似ているような気がしなくもない。お互いが、真に過去と向き合うときが訪れようとしていた…


~まだ続きます~
 12巻で完結かと思っていたのですが、完結手前で13巻完結になるらしいですね。2010年へ向けてのオススメ作品集の記事にて1位に挙げたのですが、予感通りのすばらしい完結を迎えてくれそうです。今回は、カンナと禄がそれぞれ過去に向き合い、罪悪感を抱え生きていくことを、改めて自覚し消化していく過程が描かれました。カンナ編のテーマは、死をめぐる罪悪感。まさに、ラストへと駆け抜けていくにふさわしい展開だったと言えると思います。


~カンナを軸として見たときの、禄の役目、梶間の役目~
 カンナはあの日以来、自分の時間をとめてしまいました。ずっとあの時間に縛られ、いつまでも15歳のまま、喪失感と罪悪感に苛まれ続けていたのです。そこからの変化を、この物語では描いていったのですが、その足がかりとしてまず描かれたのは、真山との再会でした。そこで彼が先に進んでいっていることを確認した彼女でしたが、それだけでは不十分。わずかな変化は見せたものの、結局は立ち止まったままでした。まだやり残したことがいくつもあったのです。そんな彼女が、その後回収すべきイベントとして考えられるのが、朝美との再会、そしてハルタとの再会。しかし自発的にアクションを起こすことがないであろうことは明白です。そこで、禄というキャラを彼女に近づけ、彼女を時間の淀みから引っ張りあげる役割を果たさせました。9巻にてカンナは、朝美と再会し、そしてハルタとも向き合うようになりました。元々カンナ編ベースで進んでいたことを考えると、禄は彼女のために用意されたキャラなのではないかなぁ、とついつい思ってしまいます。そして話の構造的にあぶれてしまう最初の登場人物・梶間を、禄にとっての手助け役にすることで、構成のアンバランスさは回避。うーむ、これは勝手な想像なのですが、もしそうだったとしたら本当に上手いなぁ、と。


~二通りの再会~
 今回はカンナと禄それぞれが、罪悪感の源泉となった相手への再会を試みることが見所となりました。しかし再会時の二人の状況は全くの逆と言ってよい状態で、非常に興味深いものとなっていました。まずはカンナが、ハルタの腹違いの弟に会うのですが、そのときの感想は…


潔く柔く
似ていなくてよかった

 彼の存在が、決して上書きされていなかったことを再確認し、改めてここからハルタに向き合っていくことができるようになったのです。一人で抱え込んでいたものを、やっと下ろすことが出来た。禄の「ちゃんと思い出してやろうよ」という言葉をそのまま再現するように、次の話の冒頭は、カンナの…

あのね
ハルタ

 というモノローグから始まります。開放ではない、やっと向き合えたというレベルではありますが、彼女にとっては大きな一歩。ああ、これでやっと前に進むことが出来たのかと、このシーンで不覚にも泣いてしまいましたよ。

 さて、その後は禄が、希実の姪にあたる睦実に会いに行きます。そのときの禄の反応は…


やわく2
柿之内とおんなじ顔した睦実が…

 禄の場合は逆に、睦実が希実にそっくりだったからこそ、救いが得られました。罪悪感の源泉となった相手に、本人とは違う形で再会し、救われるというのは、「寄生獣」などでも見られた光景ですね。似ていなくて良かったというのも、似ていたから良かったというのも、どちらもありえる形で、ひとつの話の中でそれを両立させたというのは、凄いことだと思います。どちらが正しくて、どちらが間違っているというわけではありません。どちらも彼らに救いをもたらしてくれました。こうして答えを一つに縛らないってのは、素敵なところだなぁ、と。


~いよいよ次巻、最終巻です~
 13巻にてカンナ編は完結。次巻では、カンナと禄の恋愛という部分が描かれるのでしょうかね。ハルタと向き合うことと、禄と向き合うことは両立できるのか。そしてカンナの向かっていく先とは。今から楽しみであり、同時に終わってしまうことが少し残念でもあります。何はともあれ、心して待ちましょう。


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