
たくさん話して思いをはせよう
まだ見ぬ場所まだ見ぬ景色
まだ見ぬ私達のことを
■姫野舞は、すれ違う男子が皆振り返るほどの美少女。しかし彼女には、とある変わった趣味が…それが鉄道。車両から駅舎、時刻表に果ては制服まで、鉄道のことならなんでもござれ。そうして日々鉄ヲタとしての経験値を上げる彼女に、周囲の男子は引き気味。ゆえに今まで誰とも恋愛することなく、育ってきたのだった。そんな舞だったが、ある日通学する星河駅で、駅員の青年・國見晴に恋をしてしまい…!?
気鋭のルーキー・田中慧先生の初コミックスです。おめでとうございます。あらまし紹介からもわかるとおり、鉄ヲタの美少女と、駅員の好青年との恋愛模様を描いた作品となっています。ヒロインは、誰もが振り返るような美少女・姫野舞。その容姿をもってすれば、イイ男の一人や二人、簡単に…と思いきや、むしろ彼女は男子から敬遠される存在に。というのも彼女、車掌である父親の影響で、重度の鉄ヲタに成長。一にも二にも鉄道、鉄道の彼女に引いてしまっていたのでした。しかしそんな彼女にも春が。通学時に利用する駅の駅員さんに、思わず一目惚れしてしまったのでした。彼の素っ気ない態度と、己の鉄ヲタ制服フェチっぷりに引け目を感じて、最初は距離をとっていた舞でしたが、ある日偶然お互いが鉄ヲタであることを認知。以来鉄ヲタとして距離を縮めていくことになるのでした。
なんといってもこの作品の魅力といったら、ヒロインの舞でしょう。そのツボの抑えっぷりがスゴい。スレンダーな美少女の彼女ですが、重度の鉄ヲタという意外な一面の持ち主。ここでまず1ポイントです。そして敬語がデフォなんですよ。話しているときも、考え事しているときも。これがなんともカワイイではないですか。これでまた1ポイント。そしてそして、想い人である國見さんと会話するときのその仕草、いつも俯きがちに目を伏せながら、自信なさげに敬語で話すのです。はいまたポイント入りました。鉄ヲタな自分に若干の引け目を感じている女の子が、自信なさそうに伏し目がちで敬語で話してくるとか、田中先生あんた狙いすぎだろう!なかなか目を合わさずに話す舞の姿が、本当に可愛らしいのです。

目はなかなか合わさない。この申し訳なさそうな表情と仕草が、なんともかわいらしいじゃないですか。敬語とセットだと破壊力抜群です。
また申し訳なさそうな表情が基本となっているので、そこからの笑顔がまた映える。豊かに変化するその表情は、必見です。気がつけば、ヒロインと一緒に笑顔になっている自分がいました。きっと國見さんもこんな表情になっていたんだろうなぁ。この感じ、どこかでもあったと思ったら、「flat」(→レビュー)のアキくんだ。基本俯いて悲しそうというか居心地の悪そうな表情をしているのに、ひとたびスイッチが入ると雄弁な表情に変わるという。

表情は豊か。くるくるかわる表情が、その心の内を雄弁に語る。
鉄ヲタも一般に広く認知されるようになってきましたが、少女漫画のヒロインとしてってのは珍しいですね。こちらで紹介した、永田正実先生の「好きって言わせる方法」(→レビュー)に、鉄ヲタの相手役が据えられたことはありましたが、こちらはヒロインが鉄ヲタです。そして相手役も鉄ヲタと、趣味の合わない二人がどう近づくのか…という方向のお話ではなく、共通の趣味を持つ二人が、学生と社会人という壁をどう乗り越えて結ばれるかというストーリー。ベクトルとしては真逆ですね。共通の趣味があるからこそ、つながれるものがある、二人だけがわかる世界がある。題材としては少々奇抜ではありますが、描こうとしていることは比較的オーソドックスで、素朴な関係性。変わった趣味を持つ人間にとっては、こういった共通の趣味を持つ異性というのは理想的であるので、そりゃ入り込みますとも。
元は読切り作品だったと思われます。そこから連載化して単行本化という形。いつものこととはいえ、白泉社のデビュー単行本ってのは本当にレベルが高いです。こちらもデビュー単行本とは思えない出来の良さ。萌えのポイントはしっかりを抑えつつも、少女漫画としてもきっちり仕上げてきています。チェックしておいて損はなし。要チェックの作家さんですよ!
【男性へのガイド】
→このヒロインは素敵!きっとハマる男性がいるはず。物語自体はオーソドックスな少女漫画。読み慣れている方であれば全然大丈夫かと思われます。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→面白かったです。キャラクターの魅力をしっかりと発揮しつつ、題材も余す所なく調理。非常にバランスの良い物語になっているのではないでしょうか。おすすめです。
作品DATA
■著者:田中慧
■出版社:白泉社
■レーベル:花とゆめCOMICS
■掲載誌:平成21年Lalaスペシャル,LalaDX
■全1巻
■価格:400円+税
■購入する→Amazon