このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [新作レビュー] [読み切り/短編] 2010.05.16
1102904938.jpg牧野あおい「HAL-ハル-」


じゃあ1位だったころのおまえが
今まで何を生み出し
誰に何を与えてきたんだ?



■容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群…学校のみんなからはミスと呼ばれ、憧れのマトになっているしずく。そんな完璧な彼女の前に、勉強でも運動でも容姿でもしずくの勝る女の子が、転校生として現れた。今まで周りを見下し生きてきた彼女にとって、初めての経験。苛立ちを募らせていく中、彼女の前にある日突然、死神のハルが現れた。彼から手に入れた禁断の力が、処女の黒い欲望に火をつける…

 牧野あおい先生のデビューコミックスです。表題作をはじめ、読切り4編を収録。それでは少しずつ内容をご紹介致しましょう。表題作は、成績優秀・運動神経抜群・容姿端麗の完璧な少女が、ある日死神に出会い、「望んだ相手を消す権利」を得るという事から始まる物語。学校帰りに裸足で帰宅中、親切に靴を貸してくれる男の子と出会い…という「7年後の虹」。些細なことがきっかけで、スクールカースト最下層に転落したヒロインが、上位層の男の子と仲良くなり…という「サヨナラ天使」。学校に馴染めない少女が、ある日不思議な小学生の男の子に出会い…という「青のツバサ」。どれもスクールカーストやいじめなどをテーマに、少女たちの心情・これからの生き方を描き出すストーリーとなっています。
 

hal.jpg
個人的にお気に入りだったのが、「7年後の虹」。あまり見ない設定・展開で新鮮でした。こういう「自分が言うとか、恥ずかしくて無理だろ…」とかいうようなクサい台詞は頻発。ムズかゆくなります。


 ストーリーは、どれも恋愛色が強くなく、学校での自分のポジションや身の振り方などに集中したものになっています。恋愛メインで描かれているのは、ひとつもないのではないでしょうか。軸ではなく、あくまで付随的なもの。だからこそ、甘くなりすぎず、ほどよい恋愛模様を楽しむことができるようになっています。その代わり、メッセージ性が強め。ラストに物語で描きたかったであろうメッセージというものが提示される展開が多く、ゴール設定からの逆算で描いていったかのような理路整然っぷり。優等生的なメッセージだとしても、新人さんでこれだけのレベルでまとめあげられるってのは結構すごいのではないかと思います。ただここ最近では珍しいぐらいに、クサい展開が多いですけどね。これをどう受け取るかは読んだ人次第。教育的には良さそうなものの、大人になってこういう物語を見せられると、ちょっと恥ずかしくなりすぎるかも。
 
 デビューコミックスですが、すでに方々で話題になっているこちらの作品。できるだけフラットな視点で読み、フラットな視点から感想を書きたかったのですが。どうでしょう。話題になった部分は置いておいて、構成の仕方は上手いなぁと普通に驚きました。だからこそ、こういった形で話題になってしまったのはもったいなかったなぁ、と。あと全然関係ないですが、もう1話収録するなり、かきおろし収録するなりで、ページ数稼いでほしかったですかね。ページ数数えてないのでハッキリとはわからないのですが、なんとなくボリュームに欠けるような気が。

【男性へのガイド】
→クサいのに耐えられるのであれば、それなりに読める内容なのでは。
【私的お薦め度:☆☆☆  】
→こういうクサい展開は個人的に好き。ただときにそれが過剰になるので、恋愛展開で中和してもらえれば。恋愛メインのお話読んでみたいですね。こじんまりしつつも、まとめ方は上手。やっぱりクサいけど。


作品DATA
■著者:牧野あおい
■出版社:集英社
■レーベル:りぼんマスコットコミックス
■掲載誌:りぼん
■全1巻
■価格:400円+税


■購入する→Amazonbk1

カテゴリ「りぼん」コメント (2)トラックバック(0)TOP▲
コメント

こんにちは。

今月発売のりぼんコミックスの中で少年漫画っぽい表紙で目立ってました。
方々での話題も把握してましたが、興味をひかれたので結局コミックス買いました。
(将来的に入手困難になる事態もありそうに思ったりして・・・)

どの作品も、それなりの伏線を張って、意外な展開を見せて、ストーリーの構成はうまいと思います(新人としては)。

ただ、情感に訴えてくる面は乏しいですね・・・。
読んでいて、ときめいたり、じーんとしたり、うるうるしたり、そういうのが無いです。
少女漫画として一番大切な部分だと思うのですけどね。
(たまたま『君に届け』を読んだ直後だったので、余計に物足りなかったのかもしれないですけど)

ま、なんだかんだいって、それなりには楽しめました。
次の作品を読みたいと思うかというと微妙なところですけど。
(新人さんなので基本は「今後に期待」なのですけど、「方々の話題」もありますし・・・)
From: しろくま * 2010/05/18 13:18 * URL * [Edit] *  top↑
構成が上手いのもそうですが、どうもメーッセージ部分が型にはまりすぎているので、どうしても窮屈な印象を受けてしまうのかな、と個人的には思いました。

読切りですし、少ないページの中で、感情に訴えかける作品を描くのはなかなか難しいものです。
ましてや新人さんですから、とやかく言ったらキリがないような気もします。

「これから」があれば良いですが、どうなのでしょうね。
動向を見守りたいと思います。
From: いづき * 2010/05/19 00:01 * URL * [Edit] *  top↑

管理者にだけ表示を許可する

この記事にトラックバック
検索フォーム
最新記事
カテゴリ
タグカテゴリ
月別アーカイブ
リンク
プロフィール

Author:いづき
20代男、Macユーザー。野球はヤクルト、NBAはマジックが好きです。

文章のご依頼など、大事なお話は下記メールアドレスへお願い致します。


■Twitter
@k_iduki

■Mail
k.iduki1791@gmail.com
※クリックでメール作成
RSSフィード
▽最新記事のRSSを購読

a_m.jpg
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

Power Push
2012年オススメはコチラ→2012年オススメ作品集


かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
びっけ「王国の子」(1)
レビュー
稀代のストーリーテラー・びっけ先生が描く“影武者”もの。王位継承権を持つ王女の影武者に、町の芝居小屋で役者をしていた少年が選ばれるというストーリー。良く練られた背景を説明するために、1巻まるまる使うような、重みと読み応えのある一作。




シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
売れない役者が、役者仲間を亡くしたと思ったら、お次は隣に高校の同級生が越してきて、さらには何やら自分にしか見えない子どもの姿が見えるように…。どこかゆるさのある不思議なテイストのお話なのですが、いくえみ作品で実績のある「ある者の死と、残された者の感情」を描き出す類いの作品ということで、この先きっと面白くなってくることでしょう。




BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
レビュー
高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。