
ワシらは無力で…
山に対して何も出来ないままなのか……
■シロビレ(村田銃)を背負い、颯爽と現れて山を鎮めては、また颯爽と去っていく女・椿鬼。山は皆意思を持っており、人間の業がその意思を変化させ、ときに怒りを呼ぶ。働けなくなった老人を、運んできては捨て去ってゆく人間に嘆き、むやみに山を切り開く人間たちに憤懣を募らせ、そしていつしかそれが形として現れる。それは神か幻想か。椿鬼は今日もどこかで山を守る…
「ミスミソウ」(→レビュー)の連載が終了したあとの新作でございます。なんでこの作品を?と思われるかもしれませんが、ぶんか社のホラーMコミックスは女性向けレーベルなんです。だから紹介しても、全然問題なしなのです!
「ミスミソウ」では、田舎の学校を舞台に、鬱屈から生まれる狂気を見事に描き出しましたが、今回もまたホラー作品らしく、狂気に満ちた人間が多数登場いたします。しかしながら、前作のように、人間対人間という構図で話を進めるのではなく、メインとなるのは山と人間。山が意思をもっているという設定で、人間の他を顧みない勝手な所行に対し、様々な形で山が攻撃をしかけるという物語展開。そんな山の意思を読み取り、山を守り、鎮めているのが、女マタギの椿鬼。シロビレと呼ばれる銃を背負い、山の平穏を守っているのです。

表紙からアピールすごいのですが、とにかく椿鬼の太腿がこの作品のひとつの肝。描き方があざといだけでなく、醜いものが多く溢れる作品の中、決して汚れることのない絶対的・象徴的な存在として、ひと際目立っています。だからほら、返り血を浴びても、太腿だけは汚れていません。愛や情といった、見えない心理的な部分だけでなく、こうして視覚的に訴えるというのも、良い手法。まぁほんとにそこまで狙っているのかはわかりませんけど、とにかく目につくので。
自然と人間の対峙という部分で、ジブリアニメの「もののけ姫」であるとか「風邪の谷のナウシカ」などを思い出したのですが、あそこまで社会的メッセージは強いのかどうか。1話目では人間の業の深さを描き、2話目からは襲い来る山の前にどうすることもできない人間たちの姿を描き出します。どちらもありえない設定のもと描かれているのですが、その中にあって、置かれている人間たちの状態は妙にリアル。狂気の中にひっそりと沈む、人間の愛が、儚く美しく光ります。基本的には、救いの少ないお話。不条理さが溢れていて、読んでいて決して気持ちの良い物語ではありません。けれども、物語のどこかにかならず小さい希望が残っている。だからこそ、連載に耐えうる作品となっているのではないでしょうか。同時収録の読切りとか、もうどうしようもなく救いのない話なんですよ。これが連載で続かれたら、きっと持たないです。
椿鬼は、何のために山を守っているのか。これからの物語は、山対人間で進むのか、もしくは人間対人間になるのか。全く着地点が見えないです。しかしどちらにせよ、目が離せない物語になるのは間違いないでしょう。ホラー作品ですから、グロテスクな描写が多く、話も前述したように救いのない部分が多々見られます。決して読んでいて気分の良い作品ではないですが、どうしても読むのをやめられないのです。アクションホラーということで、動きがあるというのもひとつの理由だと思うのですが、それだけではない何かがあります。引きつける力がすごい。伝奇的な物語、グロテスクな表現が大丈夫という方であれば、ぜひご一読を。
【男性へのガイド】
→男性も問題無く…というより、男性の方が得意な気もしますが。
【私的お薦め度:☆☆☆☆☆ 】
→どう考えてもすごく面白い作品なのですが、食いつきにくい部分も多いかなぁ。太腿のあざとさは男性にこそ効くと思いますが、女性には果たして。このタイトルの文字列を見て、芸人の椿鬼奴を想像したのは私だけではないはず。
作品DATA
■著者:押切蓮介
■出版社:ぶんか社
■レーベル:ぶんか社ホラーMコミックス
■掲載誌:ホラーミステリー(2009年8月号~)
■既刊1巻
■価格:571円+税
■購入する→Amazon