
想ってくれる人がいるってのは
いいもんだな
■人間とは異なるもの
「赤ちゃんと僕」や「しゃにむにGO」でおなじみの羅川真里茂先生の、本格ファンタジー作品でございます。先月に続き、1巻完結の新作をリリース。前回の「朝がまたくるから」(→レビュー)は、現実をベースに物語が描かれましたが、今回は異世界ファンタジーと、作品の設定がガラリと変わっています。描かれるのは、人間とチムアと呼ばれる人型動物(表紙を見ればわかると想いますが)の棲む世界。人間から迫害を受けて、怯えるように暮らすチムア。そんな中、ザーザ村という小さな片田舎に一匹だけで暮らすチムア・ポートがこのお話の主人公となります。村のはずれの森に住む彼は、薬師が生業。毎日薬を作っては、人間の元に売りにいきます。そんなお得意先の一人である、村の戦士・ザーザ・ジャバウーが、彼の一番の理解者であり、彼の一番大切な人。ポートはチムア、ジャバウーは余所者。お互い村に完全に溶け込むことが出来ない二人には、どこか共感するところがあったのでしょう。物語は、そんな二人の絆を描くところから始まっていきます。

チムアはみな心が優しい。ポートは戦地に赴くジャバウーの事を思って、いつも涙を流す。
世界は戦乱の最中にあって、チムアは差別と戦火の両方で人間から自分たちの生活を脅かされ続けています。そんな中、ひっそりと育まれる、チムアと青年の絆。そこを発端に、ポートと人間、そしてポートともう一人のチムアというように、だんだんと話の枠は広がっていきます。チムアには不思議な力があり、またそれに基づいたチムア特有の文化を持っているという設定。物語の核の部分にそのひとつが使われ展開されるので、サラッと飲み込めるような流れにはなっていません。後半とか、結構よくわからない展開とかありましたし。ただし根幹となるテーマは、小さい子から大人まで、全世代に渡って普遍的に共有されているであろうもの。そこが明快になっているから、よくわからなくとも読み進めることができるのです。
ちょっととっつきにくさはあるけれど、やっぱり感動はある。2話目などは本当にすごかったです。「羅川真里茂だから、ハイファンタジーでもこれだけの作品となった」と評するか、「ハイファンタジーよりも、他の普通の作品の方がいいなぁ」と評するかはもう、その人次第ではないでしょうか。個人的には、外形は整っているのに、どうにも3話通して軸となる部分に一貫性がないような印象が。なんてそれもそのはず、1話目が掲載されたのが平成15年で、2話目が掲載されたのが平成21年と、実に6年のブランクが開いています。それでもしっかり続き描いて、まとめたと考えればやっぱりすごいのか。
【男性へのガイド】
→恋愛要素なしも、こういった造形・物語を好むのは、大半が女性であるような気がします。
【私的お薦め度:☆☆☆ 】
→独立したファンタジー作品として捉えるか、羅川真里茂作品のひとつとして捉えるかで、評価は様々別れそう。私はそんなにハイファンタジーが得意ではないので、その影響かな、と。
作品DATA
■著者:羅川真里茂
■出版社:白泉社
■レーベル:花とゆめコミックススペシャル
■掲載誌:ザ花とゆめ
■全1巻
■価格:524円+税
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