
ピアスを開けると運命が変わるとか時々聞くけど
それって もしかして
こうやって否応なしに変えられてしまう人が
ときどきいるってことなのかもしれない
■美空つばめ、高校1年生。男なのに可愛らしい名前がコンプレックスの彼は、その悩みがつもって最近は少々ウンザリ気味。若干の反抗期の空気を漂わせ、今日も気怠そうに登校する。そんな彼の誕生日、見知らぬ老人から「おめでとう」とプレゼントを渡される。中身はパールのピアス。全く覚えがない相手からのプレゼントを、怪訝そうに見つめるつばめ。その刹那、そのピアスが宙に浮かびつばめに襲ってきた。気がつけば、耳にはパールのピアスが。そして取れない。しかもなにやら、ワケの分からない生き物が目の前にいる。そいつらの言うことには、自分たちはジュエリーの精霊で、つばめは選ばれし貴石の王子なんだとか…。一体どうなる、つばめの毎日!?
木々先生のミステリーボニータでの連載作品でございます。発売は3月だったのですが、買うタイミングとレビューするタイミングを逸してまして、ここでやっとご紹介。イマドキ男子×宝石の精霊の新感覚ブリリアント・ストーリー。表紙だけ見ると、なにやら王子様的で耽美な雰囲気の美少年がいて、何やらクセのあるファンタジーが繰り広げられるのか?なんて思われるかもしれませんが、舞台のベースは日常。ゆえにローファンタジーです。
主人公はごく普通の高校生・美空つばめ。誕生日に見知らぬ老人からパールのピアスをもらい、ピアスがその晩につばめの耳に勝手に刺さってきたというのが、事の始まり。そして目の前には、なにやら可愛らしいフォルムの得体の知れない生き物が出現。その子たちの名前は、パラとパル。彼らはジュエリーの精霊とやらで、つばめは選ばれし「貴石の王子」なんだとか。突然のことに驚き戸惑うつばめでしたが、ピアスを外そうにも外すことができません。以来つばめの、ジュエリーたちとの不思議な毎日が始まります。

つばめの精霊はこんな感じ。とっても可愛らしい姿格好です。この他にも、美少女だったり動物っぽかったり、宝石貴金属によって姿形は様々。
宝石や貴金属には、みな精霊が宿り意思を持っているという設定。そんな精霊の姿を見ることができるのが、選ばれし貴石の王子・つばめ。どうして貴石の王子に選ばれたのか、そもそも貴石の王子とは何なのか、全てが謎に包まれたまま物語は進んでいきます。しかし巻き込まれ系のドタバタ感はナシ。というのも無気力高校生の日常に、ジュエリーの声・姿を感知できるという設定を上手く落とし込み、コメディに昇華させているため、現状でも十分楽しめるから。所々に差し込まれる笑いに、嫌がりつつも拒絶はせずに現状を受け入れる主人公・つばめの性格が絶妙にマッチ。適度にユルいドライな空気感と、ファンシーな設定っていうのは結構相性が良いのかもしれないですね。
また中盤では、同じ境遇の女の子が登場。彼女が登場することで、ひとつ物語に彩りが添えられます。ゆくゆくはこの二人で何かしそうな気がするのですが、現時点では、主人公に彼女がいたり、お互いにそこまで興味がないなど、適度な距離感を維持。ここからどう変わっていくのか、今からワクワクです。

なんでもないようなところでのノリの良さがまた、物語の読みやすさを助長している。テンポがいいとか、軽快とかいうわけではないんです。でも読みやすい。
前情報が作品名・作者名と表紙、そして出版社ぐらいしかなかったものですから、「どんなクセのある作品なんだろう」と構えて読みはじめたのですが、意外や意外、ものすごく読みやすくて驚きました。精霊は可愛らしい姿をしていて、そこだけを抜き取ると秋田書店的ではなく、むしろりぼん的ですらあります。ゆえにちょいと歯ごたえがないようにも感じられるのですが、だからといって薄いわけではなく、コメディやオマケでしっかり味付け。また2巻から物語も濃いものになってきそうですし、期待感は大。自宅の遠景にモノローグを重ねて締めたり、昔の名曲の歌詞を使用したり、パターンがある程度決まっているところも様式美で良し。これはちょっとチェックしておいてほしい一作です。
【男性へのガイド】
→主人公は男の子。BLチックな見ためではありますが、物語・性格自体は男性でも簡単に受け入れられるものであるように思います。むしろハードルとなるのは、ジュエリーのかわいい精霊が見えるというところか。
【私的お薦め度:☆☆☆☆☆】
→2巻への期待もこめて5つで。とにかく読みやすいファンタジー作品。ガツンとくるような話ではありませんが、適度に愉快で温かくかわいらしい内容で、「ああ、楽しかった」と満足できる一作だと思います。
作品DATA
■著者:木々
■出版社:秋田書店
■レーベル:
■掲載誌:ミステリーボニータ(2009年6月号~)
■既刊1巻
■価格:740円+税
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