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Tag [新作レビュー] [読み切り/短編] 2010.05.29
1102905570.jpgD・キッサン「D・キッサン短編集 矢継ぎ早のリリー」


ゆっくりでいいからよく考えて
私はあなたの答えを
いくらでも待つ



■表題作を始め、4つのストーリーが収録されています。それでは表題作をご紹介。
 買い物を終え、家に帰る途中の少女・アネットの前に現れたのは、二人の見知らぬ大人。「あなた吸血鬼といるわね、契約を交わした」という言葉をかけられ、アネットはハッとし、その場から離れようとする。アネットの目の前に現れた、なぞの二人組の正体とは、そして、アネットの守ろうとする秘密とは…。その鍵を握るのは、一人の吸血鬼。D.キッサンが贈る、珠玉の短編集!
 
 「共鳴せよ!私立轟高校図書委員会」(→レビュー)のD.キッサン先生の短編集です。先の作品のおかげで、すっかりギャグ4コマ作家として見ていたのですが、こちらは表紙からも窺えるように、ガチのストーリー作品でございます。表題作は、吸血鬼と或る人の遺言を届ける二人組、そして一人の少女が織り成す、優しく悲しい奇跡の物語。こちらは前編・後編の二部構成となっております。また2話目「鞠めづるヒトビト」は、平安を舞台に蹴鞠に興味を持った白拍子(歌舞を演ずる芸人)の少女と、小舎人の青年との触れ合いを描いた物語。3話目「或る婦人」は、明治・大正を思わせる舞台にて、悪評の高い婦人の姿を描いた物語。最後4話目「シスター・シスター」は、異世界にて修道女を務める女性が、戦いの最中で妹に思いをはせるという物語。どれもコメディメインの話はなしで、シリアスなストーリーが展開されます。


矢継ぎ早のリリー
「矢継ぎ早のリリー」より、シリアスなワンシーン。淀みなく流れる物語に、大きな盛り上がりはなくとも目が離せない。


 「シリアスなお話も、描けることは描けるのだろうな」と思っていたのですが、まさかこまで話の幅が広いとは思いませんでした。4つのストーリーが収録されていますが、どれも物語の舞台設定から作品の雰囲気、展開までしっかりと異なっていて、似たような話がひとつもありません。舞台に関しては先述した通り様々で、また「矢継ぎ早のリリー」は少女に起こる優しい奇跡を描き、「鞠めづるヒトビト」は蹴鞠を題材に、元気いっぱいな平安青春ストーリーを展開、「或る婦人」は文学的にダークに攻め、ほんのりと苦みを感じる内容に仕上げ、また「シスター・シスター」はバトルファンタジーのエッセンスを取り入れつつ、ヒロインの再生を描きます。どれも物語の毛色が異なり、そしてどれも一定水準以上の出来。いやー、奥が深いです、D.キッサン先生。
 
 ここまで様々な物語を見せられると、一体どれがD.キッサン先生の本来の守備位置なのかというのがわからなくなってきます。それほどまでに多彩。1話目、2話目、4話目などは、それでも一迅社ゼロサムにフィットしとうな内容なのですが、3話目「或る婦人」などは、もうどこで載せるの?的にクセのある作品となっています。少なくともゼロサムっぽくはないですね。いやー、こんなに色々出来る人とは…驚きです。個人的には、表題作が好き。2部構成の旨味はあまり感じないものの、しっかりと話の整合性が取られ、最後は救いを提示してくれる、非常に後味の良い優しい物語に仕上っています。それを外側の視点から描くというのだから、上手い。


【男性へのガイド】
→男性でも読める作品は多いと思います。気に入るかは別として。
【私的お薦め度:☆☆☆  】
→もう少し笑いが欲しかった…とかいうと、主旨と違うからと怒られそうですね。作者さんの引き出しの広さを知ることができる1冊。先生に対する認識が、大きく変わりました。


作品DATA
■著者:D.キッサン
■出版社:一迅社
■レーベル:ZERO-SUMコミックス
■掲載誌:ZERO-SUM
■全1巻
■価格:552円+税


■購入する→Amazon

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かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
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レビュー
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シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
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2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




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BEARBEAR
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高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。
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