
母上様
僕が
お嫁に行く日は
近いかもしれません
■ローベル男爵の一人息子・エドワードは、夢見がちで世間知らずのおぼっちゃん。あまりに“箱入り”に育てられたものだから、泣き虫だし現実を知らないし生きていく力も著しく低い。「このままではロベール家はエドワードで絶えてしまう!」そう危機感を感じた使用人たちは、ぼっちゃんにとりあえず女性の扱いに慣れてもらおうと計画。ぼっちゃんの女性の好みを聞き出し、理想的な女の子を用意する。エドワードは彼女を“真珠”と名付けかわいがるが、彼女にはとんでもない秘密が…!!
斎藤けん先生が贈る、ヘタレチック貴族コメディでございます。主人公は、男爵家の一人息子として大事に育てられたおぼっちゃま・エドワード。あまりに夢見がちなことばかり言うぼっちゃんを見て、使用人達は危機感を感じます。このままでは結婚なんて夢のまた夢。ということで使用人達は、彼の理想とする女性を捕まえてきて、とりあえず女性に慣れてもらおうとします。どこからか連れてこられたのは、エドワードの理想を絵に描いたような少女。しかし奴隷として人間らしい扱いを受けてきたことがなかったらしく、食事のマナーはおろか、言葉すら話せないという状況でした。そんな彼女を“真珠”と名付け、少しずつ距離を縮め、やがて彼女との結婚を決意するエドワードでしたが、その裏にはまさかの真実が…というストーリー。ここまでが1話で、導入部分になります。

理想の女性を聞かれた時のこの反応。実に残念な少年である。そしてこの使用人達の返し。
その衝撃の真実とは、連れてこられた元奴隷の娘“真珠”が、実は25歳で少年趣味のある伯爵令嬢であったということ。16歳と25歳という年の差、そして少年趣味というハードルの高さから、普通に縁談を持っていってもエドワードに断られるのは明白。しかし他に彼に好意を寄せる変わり者もいない…ということで、令嬢と使用人たちがタッグを組んで、一大ドッキリを仕掛けたというのです。斯くして婚約という事実のみが残り、後は普通に接することに。しかしその普通が難しい。真珠はドSの少年趣味。頭も切れて武術もできる、経営の才もあり、傾きかけた家をその辣腕で立て直したという実績を持っています。力的には完全に下。2話以降では、そんな彼女との爆笑の日々が描かれていきます。
斉藤先生はこんなテンションのギャグコメディーも描けるのですね。ヘタレ男子を愛するだけの、普通のラブコメかと思っていたのですが、完全に斜め上を行かれました。1話目が丸々導入になっており、2話目以降はシフトチェンジで物語が描かれていくのですが、元々1話目が読切りとして描かれていたものだそうです。したがって2話目以降は、オチを上手く使いこなしているという状況。しかし繫ぎからの展開はまったく違和感なし。読切りでも続きが出来るような話を描くというのは、白泉社作家ならではというところなのでしょうか。けれども他で見るような、1話目の繰り返しというスタイルではなく、1話目を導入に変換して2話目以降をメインに仕立て上げる構成というのはこの作品ならでは。ここはお見事の一言です。

「もっと泣かせたくなりました」。この台詞が表すように、真珠は相当なドS。しかも賢いので、そう易々と逆らうことは出来ない。
コメディだけではなく、しっかりとギャグを投入。振り回しまくる真珠だけでなく、使用人たちの台詞や行動もまた、主人公に対するちょっとした悪意が混じっていて、見ていて面白いです。非日常的なコメディで終わらずに、しっかりとギャグのエッセンスを主張できているところは、この脇役たちによるところが大きいのではないでしょうか。そしてそんな状況にヘタレまくる主人公がまたかわいらしい。涙はもはやお約束。けれどもそれはピュアな心の現れでもあり、時にその純粋さが、真珠や使用人たちに素敵な感情を運ぶのです。ギャグ、コメディ、ラブストーリー…3つがどれも強烈に主張することなく、バランスよく混ざり合い、なんとも不思議な味わい深さをもたらしてくれる。いや、これ面白いですよ。
2話目以降はストーリーというストーリーもなく、やりたい放題にやるだけという感じ。白泉社の読切りから連載に…というコメディにありがちな、巻を重ねるごとにお腹いっぱいに…という状況が今からなんとなく見えますが、切りどころさえ間違えなければきっと大丈夫。そもそも余程人気でない限り、長期化とかもないでしょうし、掲載誌はLaLaDXかLaLaスペシャルと、刊行ペース自体が比較的緩やか。よって飽きることもなく楽しみつづけることができるはず。とりあえず1巻の満足度は非常に高かったです。
また同時収録の読切り「雪のカノン」も良かったです。事故により失明した少女と、事故後に彼女のもとに通うようになった男のお話。本編とは180°違い、メチャクチャシリアスな作品なのですが、唸る構成。ちょっとつめこみすぎて、「もっと語れる場所もあったろうに、ポテンシャルとページ数が見合ってないよ…」なんて思ってしまったり。例えば少女が失明していながら、男の職業が写真家であったところなど、語ろうと思えばいくらでも引き延ばせそうでしたし。なんていうか、ハイライトのみを見せられている感覚で、しかしながらそのハイライトでも十分に面白そうなことが伝わってくるというか。
【男性へのガイド】
→なんとも言いがたい、独特のノリ。わからんです。興味が出たら手に取ってみては…としか。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→如何とも形容しがたい、風変わりなギャグコメディですが、これは面白かったです。斉藤先生の引き出しの多さにビビりましたよ。とりあえず1巻は買って良し。
■作者他作品レビュー
*新作レビュー*斎藤けん「亡鬼桜奇譚」
斎藤けん「with」
作品DATA
■著者:斎藤けん
■出版社:白泉社
■レーベル:花とゆめコミックス
■掲載誌:LaLaDX,LaLaスペシャル
■既刊1巻
■価格:400円+税
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