このエントリーをはてなブックマークに追加
--.--.--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
カテゴリスポンサー広告||TOP▲
このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [新作レビュー] [オススメ] 2010.06.06
sinjy.jpg斎藤けん「プレゼントは真珠」(1)


母上様
僕が
お嫁に行く日は
近いかもしれません



■ローベル男爵の一人息子・エドワードは、夢見がちで世間知らずのおぼっちゃん。あまりに“箱入り”に育てられたものだから、泣き虫だし現実を知らないし生きていく力も著しく低い。「このままではロベール家はエドワードで絶えてしまう!」そう危機感を感じた使用人たちは、ぼっちゃんにとりあえず女性の扱いに慣れてもらおうと計画。ぼっちゃんの女性の好みを聞き出し、理想的な女の子を用意する。エドワードは彼女を“真珠”と名付けかわいがるが、彼女にはとんでもない秘密が…!!

 斎藤けん先生が贈る、ヘタレチック貴族コメディでございます。主人公は、男爵家の一人息子として大事に育てられたおぼっちゃま・エドワード。あまりに夢見がちなことばかり言うぼっちゃんを見て、使用人達は危機感を感じます。このままでは結婚なんて夢のまた夢。ということで使用人達は、彼の理想とする女性を捕まえてきて、とりあえず女性に慣れてもらおうとします。どこからか連れてこられたのは、エドワードの理想を絵に描いたような少女。しかし奴隷として人間らしい扱いを受けてきたことがなかったらしく、食事のマナーはおろか、言葉すら話せないという状況でした。そんな彼女を“真珠”と名付け、少しずつ距離を縮め、やがて彼女との結婚を決意するエドワードでしたが、その裏にはまさかの真実が…というストーリー。ここまでが1話で、導入部分になります。


真珠
理想の女性を聞かれた時のこの反応。実に残念な少年である。そしてこの使用人達の返し。


 その衝撃の真実とは、連れてこられた元奴隷の娘“真珠”が、実は25歳で少年趣味のある伯爵令嬢であったということ。16歳と25歳という年の差、そして少年趣味というハードルの高さから、普通に縁談を持っていってもエドワードに断られるのは明白。しかし他に彼に好意を寄せる変わり者もいない…ということで、令嬢と使用人たちがタッグを組んで、一大ドッキリを仕掛けたというのです。斯くして婚約という事実のみが残り、後は普通に接することに。しかしその普通が難しい。真珠はドSの少年趣味。頭も切れて武術もできる、経営の才もあり、傾きかけた家をその辣腕で立て直したという実績を持っています。力的には完全に下。2話以降では、そんな彼女との爆笑の日々が描かれていきます。
 
 斉藤先生はこんなテンションのギャグコメディーも描けるのですね。ヘタレ男子を愛するだけの、普通のラブコメかと思っていたのですが、完全に斜め上を行かれました。1話目が丸々導入になっており、2話目以降はシフトチェンジで物語が描かれていくのですが、元々1話目が読切りとして描かれていたものだそうです。したがって2話目以降は、オチを上手く使いこなしているという状況。しかし繫ぎからの展開はまったく違和感なし。読切りでも続きが出来るような話を描くというのは、白泉社作家ならではというところなのでしょうか。けれども他で見るような、1話目の繰り返しというスタイルではなく、1話目を導入に変換して2話目以降をメインに仕立て上げる構成というのはこの作品ならでは。ここはお見事の一言です。


真珠2
「もっと泣かせたくなりました」。この台詞が表すように、真珠は相当なドS。しかも賢いので、そう易々と逆らうことは出来ない。


 コメディだけではなく、しっかりとギャグを投入。振り回しまくる真珠だけでなく、使用人たちの台詞や行動もまた、主人公に対するちょっとした悪意が混じっていて、見ていて面白いです。非日常的なコメディで終わらずに、しっかりとギャグのエッセンスを主張できているところは、この脇役たちによるところが大きいのではないでしょうか。そしてそんな状況にヘタレまくる主人公がまたかわいらしい。涙はもはやお約束。けれどもそれはピュアな心の現れでもあり、時にその純粋さが、真珠や使用人たちに素敵な感情を運ぶのです。ギャグ、コメディ、ラブストーリー…3つがどれも強烈に主張することなく、バランスよく混ざり合い、なんとも不思議な味わい深さをもたらしてくれる。いや、これ面白いですよ。
 
 2話目以降はストーリーというストーリーもなく、やりたい放題にやるだけという感じ。白泉社の読切りから連載に…というコメディにありがちな、巻を重ねるごとにお腹いっぱいに…という状況が今からなんとなく見えますが、切りどころさえ間違えなければきっと大丈夫。そもそも余程人気でない限り、長期化とかもないでしょうし、掲載誌はLaLaDXかLaLaスペシャルと、刊行ペース自体が比較的緩やか。よって飽きることもなく楽しみつづけることができるはず。とりあえず1巻の満足度は非常に高かったです。
 
 また同時収録の読切り「雪のカノン」も良かったです。事故により失明した少女と、事故後に彼女のもとに通うようになった男のお話。本編とは180°違い、メチャクチャシリアスな作品なのですが、唸る構成。ちょっとつめこみすぎて、「もっと語れる場所もあったろうに、ポテンシャルとページ数が見合ってないよ…」なんて思ってしまったり。例えば少女が失明していながら、男の職業が写真家であったところなど、語ろうと思えばいくらでも引き延ばせそうでしたし。なんていうか、ハイライトのみを見せられている感覚で、しかしながらそのハイライトでも十分に面白そうなことが伝わってくるというか。


【男性へのガイド】
→なんとも言いがたい、独特のノリ。わからんです。興味が出たら手に取ってみては…としか。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→如何とも形容しがたい、風変わりなギャグコメディですが、これは面白かったです。斉藤先生の引き出しの多さにビビりましたよ。とりあえず1巻は買って良し。


■作者他作品レビュー
*新作レビュー*斎藤けん「亡鬼桜奇譚」
斎藤けん「with」


作品DATA
■著者:斎藤けん
■出版社:白泉社
■レーベル:花とゆめコミックス
■掲載誌:LaLaDX,LaLaスペシャル
■既刊1巻
■価格:400円+税


■購入する→Amazonbk1

カテゴリ「LaLa DX」コメント (1)トラックバック(0)TOP▲
コメント

こんな古い記事にコメント、失礼致します。

ただ、斉藤先生に関しては「花の名前」が良いと思いますのでひとこと。
もうお読みでしたらすみません。

「花の名前」は全4巻で、こちらも読み切りからスタートしたものです。
内容は恋愛物には多い、距離が近づいたり離れたりの繰り返し。
そういうストーリーをまどろっこしいと思う方もいらっしゃるとおもうのですが、少し正統派とは毛色が違います。
夜の闇がしきりに襲い、まどろみ、太陽に怯え、夕暮れになればその美しさをなぞる、そんな感覚です。
文学的な恍惚感もあるので、そのあたりは女性向けになってしまうかも。
文字の扱いが非常に私の好みなのですが、少々うるさく思う方もいらっしゃるかもしれません。

それからシリアスとギャグのバランスが絶妙です。
個人的にはその後の作品は色調を上げるよう意識していらっしゃるのかなと思うところです。
雑誌側からOKが出ればぐっと色調下げることもできるようです。
(確か読みきりの「吐露」はそんな作品だったと記憶しております)

個人的なオススメはコレと大島弓子さんの作品です。古いですが、哲学とか好きな人ははまるのではと思います。
長々とすみませんでした。それでは。
From: 通りすがりのものです * 2013/09/24 23:54 * URL * [Edit] *  top↑

管理者にだけ表示を許可する

この記事にトラックバック
検索フォーム
最新記事
カテゴリ
タグカテゴリ
月別アーカイブ
リンク
プロフィール

Author:いづき
20代男、Macユーザー。野球はヤクルト、NBAはマジックが好きです。

文章のご依頼など、大事なお話は下記メールアドレスへお願い致します。


■Twitter
@k_iduki

■Mail
k.iduki1791@gmail.com
※クリックでメール作成
RSSフィード
▽最新記事のRSSを購読

a_m.jpg
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

Power Push
2012年オススメはコチラ→2012年オススメ作品集


かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
びっけ「王国の子」(1)
レビュー
稀代のストーリーテラー・びっけ先生が描く“影武者”もの。王位継承権を持つ王女の影武者に、町の芝居小屋で役者をしていた少年が選ばれるというストーリー。良く練られた背景を説明するために、1巻まるまる使うような、重みと読み応えのある一作。




シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
売れない役者が、役者仲間を亡くしたと思ったら、お次は隣に高校の同級生が越してきて、さらには何やら自分にしか見えない子どもの姿が見えるように…。どこかゆるさのある不思議なテイストのお話なのですが、いくえみ作品で実績のある「ある者の死と、残された者の感情」を描き出す類いの作品ということで、この先きっと面白くなってくることでしょう。




BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
レビュー
高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。