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Tag [新作レビュー] 2010.06.07
1102916276.jpg高木しげよし「フィルムガール」(1)


君のように
輝けたら
もう一度
あの場所で



■中村鳴は、地味で大人しい女子高生。その存在感の薄さから、近くにいても気づかれないこともしばしば。そんな彼女がある日カフェで、人気モデルの司朗に呼び止められる。「見つけた、メイ」。そういって話しかけてきた司朗は、実はキッズモデルだった頃の鳴の熱狂的なファンだという。モデルとして一緒に写真を撮ろうと言ってくる司朗に、戸惑う鳴だったが、そのことがきっかけとなり、再び表の世界を目指すことに…!?

 高木しげよし先生の新作です。元キッズモデルの地味な女の子が、彼女に憧れモデルになり、今やおしも押されぬ人気ナンバーワンモデルとなった男の子に出会い、再びそちらの世界に足を踏み入れるというお話。ヒロインは、とにかく存在感なしの、女子高生・中村鳴。過去にキッズモデルをしていたものの、とある出来事によって自分の華の無さを痛感。以来自分の存在を消すように、できるだけ地味に生きてきました。そんな彼女がある日、カフェで人気モデルの司朗に声をかけられます。何事かと話を聞くと、どうやら彼はキッズモデル時代の鳴の大ファンで、彼女に憧れモデルになったというのでした。「一緒にモデルとして、写真を撮ってほしい」。そう懇願され、渋々撮影現場へ。しかしそこでモデルの仕事の楽しさを再認識。司朗の登場に触発され、再びモデルの世界を目指すようになります。


フィルムガール
お互いに、この場所でしか輝けないことを自覚している。暗い場所からの再生と、生きづらさ。重なる部分は多いが、決して共感によってその関係が成り立っているわけではなく、どちらかとうと尊敬・信頼という比重が大きい。


 コメディーまじりの、凸凹モデルライフ。芸能界ものは、相手役が押しも押されぬ人気者で、かなりデキルorカッコイイというのが鉄板なのですが、こちらの相手役・司朗はちょっと変わった存在。元々はキッズアイドルオタクのひきこもりで、完全なオタク気質。そんな彼が、ヒロインである鳴の存在に衝撃を受け、モデルの世界を目指すように。努力・研究を重ね、今のポジションをつかんだという経緯があります。ゆえにメンタルは完全にオタク。渋谷怖い、表参道怖い、キッズアイドル大好き。少々極端な気がしますが、その見ためとは裏腹に、かなり痛くてヘタレな存在となっています。プロでありながら、鳴の登場以降は彼女次第でかなり仕事の出来にバラツキが出るようになるなど、モデルとしても未熟な感じが。それもまたかわいらしさなワケですが、モデルの世界を描くものとしては、どうなのだろうという気も。なんて最後はしっかり仕事をこなしてしまうんですけどね。
 
 元ひきこもりの、現トップモデルと、元人気キッズモデルの、現地味女子高生。お互いが、お互いの変わるきっかけを提供し合う、ある意味相互依存の関係が提示され、それがずっと物語では続いていきます。どちらかが弱れば、どちらかが引っぱり、どちらかがヘタレば、どちらかが叱咤する。作品中ではそこまで感じさせないものの、二人だけの完璧で閉じた関係がそこにはあり、ひとたび感情移入してしまえば、これほどまでに素敵な作品はないのかもしれません。現時点では、お互いの精神的支柱というところに留まっており、これからはそこからいかに恋愛に持っていくのかがポイントとなりそう。とはいえ作風としてはじけた感じがなく、いい意味で落ち着いている中で、劇的な関係性が描かれることはあまりなさそうですね。気づかぬうちに、徐々に恋愛関係が築かれていって、いつの間にかラストに…という展開になるのでは。 


【男性へのガイド】
→司朗も鳴も不完全さがわかりやすく、比較的愛しやすいキャラとなっています。モデルという世界を描いているということを除けば、そこまで厳しいということはなさそう。この二人の関係にどれだけ入り込めるかがポイント。そうなると、提言などできようものか。
【私的お薦め度:☆☆☆  】
→サラサラと、最後まで楽しく読むことができました。ちょいと人を選びそうというか、多くの人にどハマりしそうという感じは受けないので、このくらい。


作品DATA
■著者:高木しげよし
■出版社:白泉社
■レーベル:花とゆめコミックス
■掲載誌:LaLaDX(平成21年9月号~)
■既刊1巻
■価格:400円+税


■購入する→Amazonbk1

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