
なんで
こんなにすんなり入ってくるんだろう
コイツ
■読切り3編を収録。とりあえず表題作をご紹介。
おせっかいでうざそうなヤツなのに、なんでこんなに気になるんだろう…。父は仕事、母は遊び歩いて、家に帰ってもいつも一人の麻子。心の中にひっそりと、しかし確実に横たわる寂寞と虚脱感に、どうにかなってしまいそうな彼女の心を、本郷は一筋の光をもたらした。彼と会うたびに生きる喜びを感じていたある日、麻子は彼の隠された過去を知ってしまい…!?
「砂時計」の芦原妃名子先生の読切り作品集です。初版が2002年ですから、もう8年も前の作品になるんですね。当然のことながら、「砂時計」「Piece」(→レビュー)以前の作品となります。確か数年前に、新装版が出たんでしたっけ?それでは少しずつ、内容をご紹介します。表題作は、心に寂寞感・虚脱感を抱えているヒロインが、おせっかいな男の子に出会うことから希望を見出していくというストーリー。2話目「カッコウの娘」は、美人でありながら歯に衣着せぬ物言いで何かと損をしがちな女子高生が、ある日レンタルビデオ店で出会った既婚の男性に恋をしてしまうというお話。そして3話目「60days」は、友達付き合いを避けてきた女の子が、転校を目前にひょんなことから体育祭の実行委員になって…というストーリー。どれも女子高生がお話の中心と、ベツコミらしいラインナップとなっています。

おせっかいを魅力に変える。こんなことさらっと言ってみたいです。
「ユビキリ」は、恋愛ものと見せかけて、プラスαでもうひとつ大きなテーマを混ぜ込んできています。年齢の割にちょいと重すぎる気もしますが、こういう過去はベツコミでなくとも、少女漫画ではよくある不幸。それをいかに無駄遣いせずに燃料とするかなのですが、さすがその辺は上手いです。ちなみにこの物語中、故人の部屋に入り目的のものを探索し、その人の明かされていなかった想いを明らかにしていくというくだりがあるのですが、シチュエーション的に「Piece」によく似ています。今日この後にレビューする予定の「蝶々雲」は、「砂時計」の元となった作品なのですが、こちらもまた「Piece」の原型となった作品と言えるかもしれません。さすがに生き死になんて青臭いテーマにはなりませんが、存在理由・生き方というテーマに置き換え可能。「Piece」既読の方であれば、また違った味わいがあるかもしれません。
2話目「カッコウの娘」は、社会人と高校生の恋という禁断のテーマ。年の差恋愛ものはそこまで得意でないので、恋愛方面ではあまり気持ちが動かなかったのですが、これもまた最後にひと捻り入れてあり、ちょっと変わった後味を残して物語を終えます。物語として、第三者の存在意義が明確でないまま進んでいくのですが、最後に意味が明かされるというね。単なる噛ませ犬にしないあたりが素晴らしい。
個人的に一番好きなのは、3話目の「60days」。読書と勉強が好きで、人付き合いなんてしたくない。そんなヒロインが、転校を目の前に体育祭の実行委員会になってしまうというお話。いざ関わってみると、意外と楽しい。そして芽生える恋心。しかしタイムリミットは刻一刻と…という、ある意味王道の学園恋愛もの。重厚なストーリーや捻りのある構成だけでなく、こうした真っ直ぐな青春モノも芦原先生は描けるのですよ。素直に楽しめる良作です。
【男性へのガイド】
→1話目はちょいとイタイ、2話目は恋愛に隔たりすぎてる、3話目は少女漫画すぎる…とどれも少しずつズレている気がするのですが、作品自体の出来の良さでカバー。少女漫画アレルギーがないのであれば、一読をオススメします。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→どれも高水準の読切りたち。しかも同じような話でなく、しっかりと色の違いを見せてくるという。読切り集としてのコストパフォーマンスは高いです。
作品DATA
■著者:芦原妃名子
■出版社:小学館
■レーベル:ベツコミフラワーコミックス
■掲載誌:ベツコミ
■全1巻
■価格:390円+税
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