このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [オススメ] [読み切り/短編] [名作ライブラリ] 2010.06.10
07174370.jpg芦原妃名子「蝶々雲」


あたし達は それぞれが
ずるくて
卑怯で
優しくて
幼かった



■読切り4編を収録。それでは表題作をご紹介。
 瀬戸内に浮かぶ過疎の進んだ小さな島。そこで暮らす、清、完太、ゴマは、同い年の仲良し3人組。そんなある日、東京から転校生がやってくる。色白でかわいらしい女の子・六花。引っ込み思案で、最初はなかなか馴染まなかったものの、いつしか4人は一緒に行動するように。そして絡まる、それぞれの想い。そんな中、六花と完太の想いを目の当たりにした清は…。芦原妃名子のセンシティブワールドが単行本化!!
 
 2連続で芦原先生の読切りをご紹介です。こちら「蝶々雲」は、2006年の12月に初版発行。この時すでに「砂時計」は連載を終えていましたが、作品発表は2002年と、こちらの方が先でした。すでに知っている方もいるかもしれませんが、名作「砂時計」の原型をなったのが、こちらのお話。瀬戸内の小島が舞台の、仲良し4人組の姿を描いたストーリーです。ヒロインは、この島で生まれ育った女の子・清。同じくこの島で生まれ育った男の子・完太とゴマと、3人仲良く過ごしていたところに、ある日東京から女の子がやってきます。色白でかわいらしい、引っ込み思案の女の子・六花。いつしか一緒に過ごすようになった4人でしたが、清には一つ心配が。それが、好きな相手・完太と、六花の関係。時を重ねるごとに、だんだんと距離が近くなっていく二人を見て、清は苛立ちを焦りを感じるようになっていくのでした。


芦原妃名子「蝶々雲」
行き交う、それぞれの想い。誰もが想い通りに生きてはいない。その中で苦しみつつ、自分の行動を考える。


 「砂時計」の原型とはいえ、似ているのは序盤のシチュエーションぐらい。ムラ社会が色濃く残る田舎に、駆け落ち後出戻りの母が、子供を連れて帰郷するという始まり。そんなところに放り込まれる、東京生まれの女の子。地元の仲良し3人組の中にまざり、いつしかそこには恋心が…。「砂時計」は放り込まれる側の杏がヒロインでしたが、こちらは逆にムラ側の人間の視点。ポジションだけ見れば、ヒロインの清は椎香にあたりますが、むしろ似ているのは楢崎歩になります。そこここに、「砂時計」に繋がるエッセンスを見つけることができますが、ストーリーとしてはやっぱり別物になります。そもそも8巻かけてやっと終わった話が、1巻の半分にも満たないページの中に収めることなど到底できるわけがないわけで。時間が一気に飛ぶというところは似ているものの、こちらの方がよりおとぎ話的。ページの制約のせいか、後半は多少の力技はあるものの、ヒロインの心情はリアルなラインをしっかりキープし、物語としてもしっかりと形を保ったまま完結に向かいます。この辺の魅せ方の上手さはやっぱり唸ってしまいます。砂時計のような大叙事詩を期待するのは酷ですが、そうでないのであれば、「砂時計」既読の方でも十分に楽しめる内容になっていると思います。
 
 残りは中学生がヒロインのラブストーリーを3本。中学生ということで、ちょいと幼いかと思いきや、全然普通の恋物語を展開。恋に恋する中学1年生のヒロインが、憧れの男子と付き合ってみてびっくり、想い描いてた姿とのギャップに苦しむという「中学1ねんせい」。発育の良い体のため、小さい頃から痴漢に苦しんできたヒロインが、とあることがきっかけでクラスの男子と痴漢退治に乗り出す「ちゅうがく2年生」。中学に赴任してきた新任教師が、受け持ったクラスのとある女子生徒にやたら邪見にされ…という「ちゅうがく3年生」。どれも学校を舞台にした、恋愛青春ストーリー。中学生ということで、妙に捻った話はなく、どれも素直に楽しむことができる物語となっています。芦原先生の作品に共通して言えることなのですが、どれも相手役の男の子がどこにでもいそうな普通の男子なんですよね。見ためやステータスで魅力を付与しない以上、内面の魅力を限られたページ数の中で描かなくてはいけないのですが、芦原先生は見事にそれをやってのけます。どこにでもいそうな男の子が、かっこいい。そんなところも見所な「蝶々雲」。おすすめです。


【男性へのガイド】
→いやー、恋愛テーマですけど、全部良いんじゃないかなぁ。男の子の視点というのも少なからずありますし、読みやすい部類に入ると思います。恋愛どうでもいいとかいうなら別ですが。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→面白いです。表題作もさることながら、読切りも良いんだよなぁ。こういう好クオリティの作品をコンスタントに生み出せる芦原先生はホントすごいです。


■作者他作品レビュー
芦原妃名子「Piece」
芦原妃名子「ユビキリ」


作品DATA
■著者:芦原妃名子
■出版社:小学館
■レーベル:ベツコミフラワーコミックス
■掲載誌:ベツコミ
■全1巻
■価格:390円+税


■購入する→Amazonbk1

カテゴリ「ベツコミ」コメント (0)トラックバック(0)TOP▲
コメント


管理者にだけ表示を許可する

この記事にトラックバック
検索フォーム
最新記事
カテゴリ
タグカテゴリ
月別アーカイブ
リンク
プロフィール

Author:いづき
20代男、Macユーザー。野球はヤクルト、NBAはマジックが好きです。

文章のご依頼など、大事なお話は下記メールアドレスへお願い致します。


■Twitter
@k_iduki

■Mail
k.iduki1791@gmail.com
※クリックでメール作成
RSSフィード
▽最新記事のRSSを購読

a_m.jpg
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

Power Push
2012年オススメはコチラ→2012年オススメ作品集


かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
びっけ「王国の子」(1)
レビュー
稀代のストーリーテラー・びっけ先生が描く“影武者”もの。王位継承権を持つ王女の影武者に、町の芝居小屋で役者をしていた少年が選ばれるというストーリー。良く練られた背景を説明するために、1巻まるまる使うような、重みと読み応えのある一作。




シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
売れない役者が、役者仲間を亡くしたと思ったら、お次は隣に高校の同級生が越してきて、さらには何やら自分にしか見えない子どもの姿が見えるように…。どこかゆるさのある不思議なテイストのお話なのですが、いくえみ作品で実績のある「ある者の死と、残された者の感情」を描き出す類いの作品ということで、この先きっと面白くなってくることでしょう。




BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
レビュー
高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。