
あたし達は それぞれが
ずるくて
卑怯で
優しくて
幼かった
■読切り4編を収録。それでは表題作をご紹介。
瀬戸内に浮かぶ過疎の進んだ小さな島。そこで暮らす、清、完太、ゴマは、同い年の仲良し3人組。そんなある日、東京から転校生がやってくる。色白でかわいらしい女の子・六花。引っ込み思案で、最初はなかなか馴染まなかったものの、いつしか4人は一緒に行動するように。そして絡まる、それぞれの想い。そんな中、六花と完太の想いを目の当たりにした清は…。芦原妃名子のセンシティブワールドが単行本化!!
2連続で芦原先生の読切りをご紹介です。こちら「蝶々雲」は、2006年の12月に初版発行。この時すでに「砂時計」は連載を終えていましたが、作品発表は2002年と、こちらの方が先でした。すでに知っている方もいるかもしれませんが、名作「砂時計」の原型をなったのが、こちらのお話。瀬戸内の小島が舞台の、仲良し4人組の姿を描いたストーリーです。ヒロインは、この島で生まれ育った女の子・清。同じくこの島で生まれ育った男の子・完太とゴマと、3人仲良く過ごしていたところに、ある日東京から女の子がやってきます。色白でかわいらしい、引っ込み思案の女の子・六花。いつしか一緒に過ごすようになった4人でしたが、清には一つ心配が。それが、好きな相手・完太と、六花の関係。時を重ねるごとに、だんだんと距離が近くなっていく二人を見て、清は苛立ちを焦りを感じるようになっていくのでした。

行き交う、それぞれの想い。誰もが想い通りに生きてはいない。その中で苦しみつつ、自分の行動を考える。
「砂時計」の原型とはいえ、似ているのは序盤のシチュエーションぐらい。ムラ社会が色濃く残る田舎に、駆け落ち後出戻りの母が、子供を連れて帰郷するという始まり。そんなところに放り込まれる、東京生まれの女の子。地元の仲良し3人組の中にまざり、いつしかそこには恋心が…。「砂時計」は放り込まれる側の杏がヒロインでしたが、こちらは逆にムラ側の人間の視点。ポジションだけ見れば、ヒロインの清は椎香にあたりますが、むしろ似ているのは楢崎歩になります。そこここに、「砂時計」に繋がるエッセンスを見つけることができますが、ストーリーとしてはやっぱり別物になります。そもそも8巻かけてやっと終わった話が、1巻の半分にも満たないページの中に収めることなど到底できるわけがないわけで。時間が一気に飛ぶというところは似ているものの、こちらの方がよりおとぎ話的。ページの制約のせいか、後半は多少の力技はあるものの、ヒロインの心情はリアルなラインをしっかりキープし、物語としてもしっかりと形を保ったまま完結に向かいます。この辺の魅せ方の上手さはやっぱり唸ってしまいます。砂時計のような大叙事詩を期待するのは酷ですが、そうでないのであれば、「砂時計」既読の方でも十分に楽しめる内容になっていると思います。
残りは中学生がヒロインのラブストーリーを3本。中学生ということで、ちょいと幼いかと思いきや、全然普通の恋物語を展開。恋に恋する中学1年生のヒロインが、憧れの男子と付き合ってみてびっくり、想い描いてた姿とのギャップに苦しむという「中学1ねんせい」。発育の良い体のため、小さい頃から痴漢に苦しんできたヒロインが、とあることがきっかけでクラスの男子と痴漢退治に乗り出す「ちゅうがく2年生」。中学に赴任してきた新任教師が、受け持ったクラスのとある女子生徒にやたら邪見にされ…という「ちゅうがく3年生」。どれも学校を舞台にした、恋愛青春ストーリー。中学生ということで、妙に捻った話はなく、どれも素直に楽しむことができる物語となっています。芦原先生の作品に共通して言えることなのですが、どれも相手役の男の子がどこにでもいそうな普通の男子なんですよね。見ためやステータスで魅力を付与しない以上、内面の魅力を限られたページ数の中で描かなくてはいけないのですが、芦原先生は見事にそれをやってのけます。どこにでもいそうな男の子が、かっこいい。そんなところも見所な「蝶々雲」。おすすめです。
【男性へのガイド】
→いやー、恋愛テーマですけど、全部良いんじゃないかなぁ。男の子の視点というのも少なからずありますし、読みやすい部類に入ると思います。恋愛どうでもいいとかいうなら別ですが。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→面白いです。表題作もさることながら、読切りも良いんだよなぁ。こういう好クオリティの作品をコンスタントに生み出せる芦原先生はホントすごいです。
■作者他作品レビュー
芦原妃名子「Piece」
芦原妃名子「ユビキリ」
作品DATA
■著者:芦原妃名子
■出版社:小学館
■レーベル:ベツコミフラワーコミックス
■掲載誌:ベツコミ
■全1巻
■価格:390円+税
■購入する→Amazon