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2010.06.13
1102894569.jpg紺野キタ「Cotton」


あんなむき出しの自分を
誰かにぶつけたのは
初めてかもしれない



■恋人と別れた、雨の日の帰り道。傘もささずに立ち尽くす少女に、奈月は傘を差し出した。後日姉の結婚式で、その少女と思わぬ再会をする。姉の夫の妹・理子。繊細な心を持て余し、家族との関係は良好ではなく、学校も休みがちだという。そんな彼女が、ある日忘れ物を届けに、奈月のもとにやってくる。生意気に見下したような話し方をする彼女に、最初は「かわいくない」と思っていた奈月だったけど…?

 紺野キタ先生が同人誌で発表していた作品を、ポプラ社がまとめ、さらにそれを幻冬舎で再販したという作品集でございます。以前にご紹介した「夜の童話」(→レビュー)もその一つ。百合にも似た感情を描く表題作をはじめ、さまざまな作品を収録。新装版は、以前ポプラ社から発行されたものに、さらに3作品ほど加えられています。その多くがショートショートで、表題作の「cotton」シリーズのほか、それなりにページ数があるのは、祖父のもとに届いたメールと手紙を巡る少し不思議で温かいお話「残夏」と、新装版にて収録された、百合っぽい雰囲気漂わせる姉妹もの「Under the Rose」ぐらいといったところ。紺野キタ先生らしく、多くを語らず雰囲気で魅せる、余韻重視の作品たちが多くなっています。


cotton.jpg
行動も心も読めない理子に、奈月ははじめ翻弄されるが…


 「cotton」は、繊細な心を持て余し、その心をナイフのように、冷たい言葉でぶつけてくる女子高生と、そんな彼女を相手するOLの交流を描いたお話。「百合的」ではありますが、純粋な憧れや恋心を「百合」と呼ぶのであるとしたら、これはそれらとはやや異なる部類に入ると思います。トキメキであるとか、ニヤニヤ、恥じらいとは無縁で、ただただその関係の構築・修繕に躍起になり、気持ちをぶつけ合う。結果的に、なんとも形容しがたい絆を生み出すことになるのですが、それは読んでからのお楽しみ。すごく地味ですが、なんだか伝わってくるものがあって、ついつい読み込んでしまいます。
 
 個人的にお気に入りだったのが「手紙」と「残夏」。どちらも「夜の童話」の対として作られた同人誌だそうです。都会の喧騒から離れた、どこか懐かしい空気感が、物語を心地よく引き立てます。手紙がテーマとなっているのですが、単に今現在の人の繋がりを描き出すだけでなく、時間的な広がりを付与。こういうところがまた味があっていいです。少なめの説明で雰囲気で描き出すのなら、このくらいやったほうが清々しくて良いですね。
 
 そういえば今回新たに収録された「Under the Rose」に登場する女の子が、「cotton」の理子に似ているんですよね。こういった思春期の揺れる心に対応しきれない女の子というのが、紺野先生にとってひとつ大切なモチーフとなっているのかもしれません。


【男性へのガイド】
→百合的なものを求めるのはどうだろう。基本的には男女関わらず読める作品だとは思います。好きな人は好き。あくまで同人で、比較的わかりにくい表現があることにはごちゅういください。
【私的お薦め度:☆☆☆  】
→好きな人は好きだと思いますし、実際面白いんですけど、おすすめとなると少々気が引けるといいますか。個人的には「夜の童話」みたいなほうが好きです。

■作者他作品レビュー
*新作レビュー*紺野キタ「続きはまた明日」1巻2巻
紺野キタ「SALVA ME」
紺野キタ「日曜日に生まれた子供」


作品DATA
■著者:紺野キタ
■出版社:幻冬舎
■レーベル:幻冬舎BIRZガールズコレクション
■掲載誌:
■全1巻
■価格:619円+税


■購入する→Amazonbk1

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