
なんで?
あたしはただ
目が覚めたらここにいただけなのに
■バイクで事故った女子高生の詩織は、目覚めると記憶を失っていた。目の前で心配そうにしている人の顔を見ても、誰だかわからない。自分の顔を鏡で見ても、自分ではないかのように思える。体は回復したため、退院して家に戻り暮らし始めるが、大学生の兄と中学生の妹との関係は、ギクシャクするばかり。どうやら記憶を失う前の自分は相当遊んでいたらしく、学校ではヒドい噂を流されて孤立してしまう。過去の自分がわからず、居場所を見つけられない詩織は…!?
池谷理香子先生の新作です。りぼんマスコットコミックスですが、掲載は10代後半~20代向けのクッキー。ということで、全体的に地味っぽい印象になっています。ストーリーは、記憶喪失になってしまったヒロインが、過去の自分がわからずに苦しむも、それを乗り越え前に進んでいくというもの。ヒロインは記憶を失う前遊びに遊んでいたらしく、妹からは嫌われ、学校の友人たちからも少し変わった目で見られています。当然のことながら敵も多く、少数の味方してくれる友人も、記憶回復後すっかり人の変わってしまった詩織に戸惑い徐々に距離を置いていきます。すっかりフツーの人になったヒロインは、目覚めたら嫌われ者になっていた現状にうんざり。それでも決して潰れることなく、現実と、そして過去の自分自身と向かい合っていきます。

フツーの感覚が通用しない、過去の自分と周りの子たち。普通とのギャップに、驚きの連続。
遊び回るギャルだったという過去のせいで、スタート時点でかなりの逆境。妹には嫌われ、友達からも敬遠され、唯一味方してくれるのは兄だけという状況に、ヒロインはうんざりしてしまいます。立ちはだかるのは、いわば過去の自分。厄介とか、そんなレベルでなく、明確な敵として最初立ちはだかってきます。現在の自分の状況を、完全な第三者の視点から見るその状況は、モノローグ多めで、比較的淡々としたテンションで進む池谷先生の作風とガッツリとマッチ。前情報なしの完全な第三者視点というのは、読者と同じ目線。そう考えると、かなり物語に入っていきやすいと言えるかもしれませんね。記憶喪失になることで、周りが心配するどころか敵になっていくという状況がちょっと変わっていて面白いですし、どんどんと“人格”を持っていく新しい「詩織」が、過去を思い出したときどうなるのかということを考えると、ますます面白く思えてきます。とりあえず目下の興味は、元カレなのか兄なのかというねそういえば前作もそんな感じだったような気がしますけど。
池谷先生は、ひとつ非現実な要素を投入し、非日常を物語の中に作り出すと、そのソースを無駄にすることなく低燃費で物語を描きつづけることができるのですが、今回もそんな感じで物語は進んでいきます。変な状況なのですが、主人公が冷静な視点を保っているせいなのか、どうにも地味。けれども、だからこそ面白いという。記憶喪失という非現実の投入から、めくるめく物語が。ある意味ありがちなスタートではあるのですが、だからこそそのままありがちな方向に進んでいくことはまずないと考えられ。記憶の回復がどのように作用してくるのか、家族との過去は、そして恋愛ではどのような方向に進んでいくのか、まだまだいい意味で先の見えない要素がたっぷり。まだまだ二転三転しそうで、続きを読む楽しみがあります。ちょっと期待です。
【男性へのガイド】
→池谷先生の作品てどうなんでしょうね。これから恋愛要素強くなってくるでしょうし、そうなったときどうなのか。今のところは、甘さのないドライな少女漫画という感じ。好きな人は好きでしょうが、万人受けという感じは。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→派手さはないですが、手堅く面白いです。まだまだ物語が転がりそうで、続きが楽しみ。
作品DATA
■著者:池谷理香子
■出版社:集英社
■レーベル:りぼんマスコットコミックス
■掲載誌:cookie(平成21年12月号~連載中)
■既刊1巻
■価格:400円+税
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