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Tag [読み切り/短編] 2010.06.19
32166665.jpg古張乃莉「トラッシュカン」


本物など
与えたくないのです
救われる事など
許せないのです



■読切り9編を収録。その中の一作「告白ごっこ」をご紹介。
その手紙は、読まれることなく紙吹雪のように舞った…。白い指は封を切る事もなく、彼の言葉を砕いたのです。クラスでも人気の明るい男子・ミヤギが送ったラブレターは、クラスの女子・ヨシユキに読まれることなく捨て去られる。その様子を見ていたミヤギの友人・ユタは、何を思ったのか、その手紙の差出人は自分だとヨシユキに伝え、彼女に近づく。そのウソは、一体何を生み出す?

古張乃莉先生の作品集。だいぶ前になるのですが、きなこ餅コミックスのゆすらさんの記事を見て、手に取った作品です。初版発行は2008年12月ですが、収録作品の発表時期は90年代のものが5作で、2000年代および書き下ろしが4作という構成。絵柄を見るに、なんとなく年代は窺えるものの、作品の内容にはそれほど変化がないように感じられます。その多くが、日常を舞台にした中で、ちょっとした不思議な要素が投入されているもの。ガチンコの異世界ものやファンタジーっぽいものもありますが、どちらかというと印象に残ったのは日常ベースのものでした。設定自体は「世にも奇妙な物語」のような不思議感があるわけですが、そこまで大衆向けのエンタテインメント性を求めた作りではなく、むしろ読み手を選ぶようなクセの強さと難解さがあります。ストイックとも違う、どこか「描いた私がわかってればOK。ついて来れる人だけついてくればいい。」と感じさせるような不親切さが、ハマる人にはとことんはまりそうな作品であります。


トラッシュカン
自意識強めで、内的に完結している感覚が強いためか、背景が描かれないほうがしっくりくる。


個人的には「告白ごっこ」がハマりました。自分に宛てられたラブレターを読まずに捨てた少女に、クラスメイトの少年がその送り主を騙って近づくというもの。これみよがしにリスカ跡を見せつけ、救われたがりな仕草をし、それを取り繕う彼女の滑稽さに、嫌悪感を覚える。しかしその根源には、かつての自分の姿が、というお話。そういう感覚を、自分も少なからず持ち合わせていて、読んでいて(良い意味で)「キツいなぁ。痛いなぁ。」などと感じたわけです。またこのお話はそこだけで完結せずに、もう一段階捻りが加えられていて、最後に「おおう…」と。うそつきだらけのなかで、一番可哀想なのは誰なのか。良くも悪くも強く印象に残った作品でした。

全体的に救いのない話が多いような気がします。そもそも難解で不親切な物語が多く、私のようなライトで知識もない鈍感な漫画読みには、語るには少々厳しいものがあるわけですが。物語の力強さで魅せるようなタイプの作品ではないので、どこかしらに自分と重なる部分があれば、響いてくるのかな、と。「告白ごっこ」もまさにそんな感じでしたし。寄せ集めの作品集を「ゴミ箱」=「トラッシュカン」と表すあたり、作者さんの性格を表しているようで、良いじゃないですか。同じようなタイトルで…というと、エッセイではありますが、岩井俊二の「トラッシュバスケットシアター」とかもそういう系統ですかね。


【男性へのガイド】
→こういう作品は男性よりも女性のほうが向いているような気が。BL作家さんなのでしょうか?それっぽく感じさせる絵柄に雰囲気。その辺を考えても、まぁ。
【私的お薦め度:☆☆☆  】
→おすすめするにはあまりに万人向けでない感じ。ビビっと来た人が手に取り、楽しんでおけばOKかなぁ。


作品DATA
■著者:古張莉乃
■出版社:新書館
■レーベル:ウィングスコミックス
■掲載誌:
■全1巻
■価格:540円+税


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コメント

古張乃莉さんは、晴天なり。シリーズの藍川さとるさんの別名ですよ。藍川さとる名義の作品を読まれていないようでしたら、ぜひ読んでみて下さい。トラッシュカン同様心にググッと来るものがあります。
From: yuu * 2010/06/20 13:40 * URL * [Edit] *  top↑
別名義で活動されていたのですね。
全く知りませんでした。
情報ありがとうございます。
機会があったら読んでみたいと思いますー
From: いづき * 2010/06/20 22:50 * URL * [Edit] *  top↑

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