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■“しましま”は、人間と妖の混ざった存在。人の輪からも、妖の輪からも外れてしまう彼らは、普段は人の姿をしていて、人間の世界で生活している。しましま山のふもとのここは、“しましま”が人間と共存して生きる町。大葉屋は、しましま神のおわすしましま山を護りながら、しましま向けの道具を販売して生計を立てている。しかし、大葉屋の次男・次男(つぎお)は大のしましま嫌い。なのになぜかしましまに気に入られてしまう特異体質の持ち主で…。
群青先生の初コミックス…だと思います(たぶん)。人間と妖怪の混ざった“しましま”という存在と、そのしましまを相手にお店を営む大葉屋の人間との触れ合いを描いたファンタジー作品。主人公は、大葉屋の次男坊・次男(つぎお)。幼い頃のトラウマか何かわかりませんが、彼はしましまが大の苦手。しかしその意志に反して、彼はしましまを引き寄せやすい体質の持ち主でもあるのです。そんな彼のもとには、引き寄せられるようにしましま達が。そんなしましまたちとの関わりを通して、少しずつ考えを変えていく次男の姿を、時にやさしく、時にダークに描いていきます。そしてやがて、彼の隠された過去が明らかに…という流れ。その他にも、大葉屋の個性的な脇役たちが、物語を彩り、群青先生の作品らしい、比較的賑やかなキャラ構成となっています。

しましまの姿形は様々。こんなにかわいらしいものもいれば、恐ろしい姿をする者もいる。同じく性質・考え方にも様々あり、まさに十人十色。
しましまというのは、妖怪と人間が混ざったもの。一口にしましまといっても、その混ざり方、考え方、性格は異なっていて、人間に懐きやすい存在もいれば、人間を敵視して、徹底的に悪意を向けてくる者もいます。そして、どちらにせよその影響をもろに受けやすいのが、しましま引き寄せ体質の次男。しましまとの触れ合いを描く物語という流れなのなか、一貫して軸に据えられるのは、恐らく彼の成長物語。いや、成長物語というよりは、トラウマや悩みを乗り越えた末の、自分の本当の居場所探しというものになるのかもしれません。直接的にそれを描くと、ただの痛くてクサいお話になってしまうのですが、しましまという存在を介する事によって、それを中和。その他にも、脇役による人と人との繋がりや、人としましまとの繋がりを描く事によって、良い意味で、雑多な寄せ集めの物語のようなテイストを醸し出しています。
群青先生スタンダードで、世界観以上に物語の背景や関係性がわかりにくいのです。「しましまとは何か」が説明されるくらいで、あとは説明ぶん投げで文脈から読み取ってというスタイル。それによって、一つの物語の始まりと終わりを印象付けず、当たり前にそこにあったこの世界の日常というものを自然に見せていると思うのですが、やっぱりわかりにくさは否めません(私の説明も)。その際には、普遍的な感情を描き出す事で、読者もそれなりについていけると思うのですが、今回はそれが弱め。主人公の次男よりも、むしろのりこさんと“しましましん”との関係に、心が温まったくらい。色々と詰め込んだ割には、結局着地するのはそこなのかぁ、という部分もあって、どことなく消化不良の感が残ります。とはいえ全体的な雰囲気はやはり好き。ふわふわで、優しい物語の体をなしておきながら、ダークな部分をたっぷり乗せてくるこの感じ。群青先生好きならば、満足できるかな、という一作です。
【男性へのガイド】
→どうでしょう。男性でも女性でも、どちらでもおーけーな感じが。そもそも性別云々ではなく、入り口はものすごく狭いような気はしますけど。
【私的お薦め度:☆☆☆ 】
→好きですが、おすすめとなるとちと難しいかなぁ、という感じです。雰囲気が好きなので、物語のどの辺が素晴らしいとかも、説明しづらいわけで。
■作者他作品レビュー
群青「橙星」
群青「獏屋鶴亀放浪ノ譚」
*新作レビュー* 群青「黒甜ばくや薬笥ノ帖」
作品DATA
■著者:群青
■出版社:一迅社
■レーベル:ゼロサムコミックス
■掲載誌:ZERO-SUM WARD(平成17年vol.10~平成18年vol.14)
■全1巻
■価格:552円+税
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