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Tag [続刊レビュー] 2010.06.27
作品紹介→*新作レビュー*鴨居まさね「君の天上は僕の床」



1102916034.jpg鴨居まさね「君の天井は僕の床」(2)


どこかくっついているほうが自然な気がする
本間さんが
そういう人になっていました



■2巻発売です。
 ウシちゃんと一緒に事務所を構える、デザイナーのトリさん。出会って仲良くなってみたは良いものの、近くに住む本間さんとの恋はなかなか進展しない…。そろそろ進展があっても良いものの、二人で出かけてもそんな雰囲気は皆無。それはそれで楽しいのだけれど…。そんなトリさんの居る雑居ビルの1階はつけ麺屋さん。そこで働くバイトの星川さんは、バイトの掛け持ちをする働き者。その裏には、バイトを辞めないあんな理由やこんな理由があって…。


~アラフォー版ハチクロ?~
 久々の2巻発売でございますよ。実は年末記事などで結構プッシュしていた本作。しかしながら刊行ペースの問題で、今の今までプッシュできずにいたのでした。さて、相変わらずウシちゃんとトリさん、そして本間さんを中心に、商店街の面々を巻き込んでゆるゆるとした日常を繰り広げておるわけですが、もうそんな毎日がとても輝かしいのです。なんでもない、そこらへんに転がっていそうな日常なのに、なんだか絶対に手に入らないような、憧れだけが残る感覚なのですよ。しいて言うならば、「アラフォー版のハチクロ」でしょうか。歳取ってるぶん、トキメキ成分はやや下がっておりますが、なんだか居心地が良さそうで、「こんなアラフォー生活送ってみたいなぁ。こんなアラフォーになりたいなぁ。」と読むたびに思うのです。


~マイペースに自由に生きる人たち~
 この作品の素敵なところは、この歳だからって焦ることもなく、極めてマイペースに日々を過ごしているところにあるのかな、と思います。結婚願望はおろか、恋愛願望もそこまで強くない。けれども好いてくれるというのはありがたいし、今ある恋愛には前向き。自然体で、臨んでいる感じ。いわゆる酒井順子の「負け犬の遠吠え」的な感じがなく、実に楽しそうなんですよ。そういえば、作品に出てくるキャラ達は、みな揃って自営業だったり、独立していたりと、使われて動くのではなく自分の意志で動いて働いている人たちばかり。その辺もまた、マイペースさや自由さを助長しているのかもしれません。


~憧れの源泉~
 同じ年齢の人たちがどのような感想を持つのかはわかりませんが、とりあえずこのコミュニティというのは物珍しく、憧れるものがあります。というのも、私がこどもの頃に見えてくるこのくらいの年齢の人たちと言えば、みな実を固めて父・母という家族役割を担っている人たちばかりでした。それがこの作品では、そういう人たちがマイノリティとなっていて、全く見えてこなかった人たちがマジョリティとして、けれども決して結束することなく不思議な距離感で一緒に居る。そしてそんな人たちが楽しそうに毎日を送っているわけですよ。そりゃ憧れますって。こんな生き方もあるんだな、素敵だなって。軽くカルチャーショック。いや、今でこそアリな生き方なワケですが、このようにそんな人たちを集めて、“日常”を作ってしまうというところがスゴいと言いますか。


~違う世代からも話題を仕入れる~
 今回は、自分たちの笑いを含んだ悩みに加え、他の世代を巻き込んで物語を展開。結婚指輪に揺れる、自分たちの両親を見て自分のことを顧みたり、年齢以上にしっかり者の小学生を相手にして、驚いたり。結婚生活を送る両親の姿も、子供がいるという状況も、現時点では自分たちが選択してこなかった道の先にあるもの。そんな可能性を目の前にしたとき、彼や彼女はどう思うのか。時に寂しく思ったり、時に嬉しく思ったり、その反応がまた面白いのです。1巻とはまた違った面白さが、しっかりと凝縮されていますよ。


君の天井は僕の床
結婚していないけれど、熟年夫婦の話題で盛り上がる。



~恋だってしてるんです!トキメいてきてるんです!~
 日常がゆっくりと続いていくわけですが、確かな変化は見られています。というのも、最初はよくスタンスのわからなかったトリさんの、赤面シーンが後半に進むに連れて多い多い。だんだんと、トキメキモードに入ってます。


君の天井は僕の床2-2
ドーンとマイペースだったトリさんに、変化が訪れてます…。ニヤニヤ。

 
 いや、確かに1巻の時点でトキメキはあったのですよ。けれどもそれは、本間さんの独り相撲の空回りで、どちらかというと素敵にネタ的に楽しんでいたというか。それが、トリさんの場合、その心情がモノローグとして描かれ、ちゃんと恋愛してるのです。気づかぬうちに、しっかりと関係を形成・変化させてきている。そう、全部説明する必要はないのです。だって彼女たちは根無し草なんだもの。少し知らないくらいが、自由な感じがして丁度良い。犬よりも猫が好きな彼らは、本人たち自身も、猫っぽいというか。


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