
その声は、
頭に、夜空に、やさしく溶けた
遠く電車と踏切の警笛が聞こえた
■男にも女にもだらしない甲斐性なしの秀吾。トーコと付き合い、さらにはトーコの幼なじみのケイスケまで食ってしまったという、だらしのない過去を持つ彼は、なんだかんだで今も二人に友達を続けてもらっている。ある日電車内にiPodを落としてしまい、駅の乗務員室まで赴いた彼は、そこで説教がましい中年の車掌と出会う。最初のお互いの印象は最悪だったが、何度か顔を合わせるうちに、なんとなく言葉を交わす不思議な関係に。そして走り出す、秀吾の心。しかし後日、衝撃の事実が判明して…!?
この前初めて読んだテラシマ先生の作品がなかなか面白かったので、続けて手を出してみました。男にも女にもだらしない高校生の主人公が、ある日出会った中年の車掌に心奪われるというお話。彼と車掌、そして彼の友人二人を巻き込み、全4話、それぞれの視点から物語は描かれていきます。基本ユニットとなるのは、高校生の3人組。イケメンだけどだらしがない主人公・秀吾に、その元カノ・トーコ、そしてその元カノの幼なじみで、過去に一度だけ主人公と寝てしまった過去を持つクラスメイトの男子・ケイスケ。なんだかもの凄い関係性を持った3人ですが、なぜか離れることなく、文句を言い合いながらつるんでいます。そこに絡んでくるのが、とある駅で車掌をする中年男性。何度か言葉を交わすうちに、彼のことが気になってくる秀吾でしたが、ある日衝撃の事実を知ることに。なんとその車掌さんは、元カノであるトーコのお父さんだったのです。これはやばい、ハマったらマズい。頭ではわかっていても、気持ちを止めることは出来ません。一体どうすれば…という、ちょっと変わった設定のお話です。

まさかの親子丼展開!?にはなりません。はしたない設定も、物語自体はかなり純粋な気持ちを、プラトニックに描きます。
これをBLと言って良いものかどうか。恋愛要素は、あるとはいえ、それだけで成り立ってしまうような濃度を持っていません。言うなれば、物語の発端としての機能しか持ち合わせていないような。そこに、成立している恋愛は、ひとつもありません。好きなのか憧れなのか、はたまた意地なのか、一方通行の想いが決して重なることなく、それぞれのキャラクターから伸びています。主人公は元カノの父親である、車掌さんに。元カノのトーコは、秀吾に。そしてケイスケは、幼なじみのトーコに。様々な事情で、自分の気持ちを打ち明けられない彼らは、ただひたすらに想いを自分の中に大事に大事に抱え、決して相手にその気持ちが悟られることがないよう、人一倍気丈に振る舞うのです。優しさと臆病さ、そしてほんのちょっとのズルさが混ざるその行動は、まさしく恋をする少年少女そのもの。特にトーコの視点で描かれた3話目などは、BLのそれとは完全に一線を画しており、これを「BL」と一口に括ってしまうのは、どうにも憚られるような気がするのです。
駅を星と例え、線路で繫いだ路線図を星座と例える主人公。そこに、車掌から語られる星座の知識を交え、さらにそこに彼らの状況を重ねるという、手のこんだつくり。ストーリー自体も、かなりロマンチックな印象のある語りで進行していきます。とりあえず、素敵でオシャレ。しかしながら、手紙の文面が挿入されるシーンをはじめとして、1ページにおける文字数がかなり多く、若干読みにくい。スムーズに感情移入して、そのままの流れで感動を…という形で読んでいると、度々断絶されてしまいイライラすることがあるかもしれません。もっと削れるところを落として、スッキリさせられれば、かなり素敵な作品になったのではないかなぁ、と思います。それでも十分いいおはなしではあるのですが。
【男性へのガイド】
→BLというか、BL的な要素がありますよって程度。プラトニックもプラトニックで、ささやかなキス程度の描写しか出てきません。BL作品として考えるのであれば、かなり読みやすい部類に入る作品。
【私的お薦め度:☆☆☆ 】
→手のこんだつくりはさすが。しかしこの物語に乗せようと思ったものを、完全には伝えられていないというのが残念なところ。こんなBL作品もあるのだな、と驚いた一作です。
■作者他作品レビュー
テラシマ「種を蒔く人」
作品DATA
■著者:テラシマ
■出版社:東京漫画社
■レーベル:MARBLE COMICS
■掲載誌:「制服カタログ」,「幼なじみカタログ」ほか書き下ろし
■全1巻
■価格:619円+税
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