
見てるだけでは
ものたりないのです
俺は
■読みきり6篇を収録。それでは表題作をご紹介します。
探しても見つけ難いのに、恋とは突然訪れるものです
昨年亡くなった父の部屋で見つけた日記帳に書かれていたのは、あまりにも淡く儚い、一人の少女への想い。電車の中で見かける、勤め先の学校の生徒に、父は恋をしていたのだった。物理の教師で堅物の父からは、想像もできない内容に、その少女に興味を持ったたかしは、ダメ元で日記に書かれていた電車に乗ってみる。みどりの花のピン留めをした、その少女は、偶然にもたかしの目の前に…
父と元・息子、父と娘の友達、姉と偽り男と会う弟…親子兄弟ジェンダーが入り混じった、ヒトとヒトとの多彩な関係性を、おかしくせつなく描いた作品集です。中村明日美子先生といえば、いまや押しも押されぬ人気作家。BL出身で、最近ではエロティクスFやモーニングでも連載をするなど、女性向けだけでなく、男性向け漫画誌にまで進出しておりました。しかし先日、ハードワークが祟ったのか、心身の状態を著しく崩してしまい、しばらくの間活動休止とのこと。復帰が待たれます。この作品は、そんな中村明日美子先生が、白泉社はメロディを中心に描いた物語を中心に収録されたもの。ちょっと変わった組み合わせで送る、なんとも愉快でなんとも切ない物語が展開されていきます。

難しい言葉はあまり使わない。シンプルに、だからこそスッと心に届く。
ジェンダーが入り交じり、ちょっと変わった組み合わせで物語が展開。表題作は、教員採用試験に落ちた青年と、父親の恋の相手であり教え子である女子高生という組み合わせで送られるお話。その他では、家を出て男から女になった主人公のもとに、ある日父親が訪ねてくるという「父と息子とブリ大根」。彼女にフラれたばかりの男が、大晦日の夜におっちょこちょいで彼氏との待ち合わせに遅れそうな女の子と出会うという「待ち人キタリ」。社会人の主人公が、中学生の娘の同級生で、デートクラブでバイトする少女となぜか夏祭りに行くことになる「娘の年頃の娘」。姉に変装した弟が、出会い系で出会った男とデートをする「とりかへばやで出会いましょう」。保健室のお色気教師と、ガリ勉メガネ男子のちょっとしたかけあいを描いた「原色メガネ男子標本」。
収録作のうち、二つが女装・ないしニューハーフが登場。正統派の男女を描いたのは、「待ち人キタリ」ぐらいでしょうか。けれどもそれが、面白い。「ちょっと変」が、その語りの上手さから、しっかりと現実の中に組み込まれ、中を浮いたような物語になっていない。物語に投入される非現実的要素が、そのまま物語の魅力となって迫ってくるのです。それこそが、中村明日美子先生の真骨頂。そこから描き出す感情は、本当に普遍的で身近で、誰もが持っているようなもの。とりあえず読んでほしいです、はい。
キャラクターがそれぞれ魅力的なのですが、特に男と女という構図で行くとしたら、圧倒的に女性たちが魅力的。物語の視点が、どちらにあるかとか関係なく。みんなどこか傷を心に持っていて、けれどもそれを隠すかのように、つとめて明るく、奔放に振る舞う。そんな彼女たちが、それぞれの作品の魅力を底支えしているように、私には映ります。そしてこの表紙。ええ、きっと色々な想像をしてこの作品を手に取るでしょう。そして読んでわかる、真実。私達もまた、父親やあの青年と同じように、してやられるわけです。そんな遊び心がある表紙も素敵な、「片恋の日記少女」オススメです。
【男性へのガイド】
→男性視点の物語あり、女性が喜ぶような恋愛一本というわけでもなく、非常によみやすい作品かと。
【私的お薦め度:☆☆☆☆☆】
→いつかレビューしなくては、と思っていたのですが、このタイミングでできるとは。全力でオススメでございます。秀逸な読切り集。
■作者他作品レビュー
*新作レビュー* 中村明日美子「曲がり角のボクら」
中村明日美子「ダブルミンツ」
中村明日美子「同級生」
作品DATA
■著者:中村明日美子
■出版社:白泉社
■レーベル:花とゆめコミックススペシャル
■掲載誌:メロディ、未発表作品
■全1巻
■価格:619円+税
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