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2015.04.18
816Lwzr3jML.jpgみもり/畠中恵「八百万(やおよろず)」[新装版]



神が下す罰が何か
人が勝手に決めるんじゃない!!




■古来より火の本は『八百万の神々』がおわす国―――
 神様と人が互いを信じる、江戸に降りた駆け出しの神・春門は人の心のさざ波が織りなす事件に巻き込まれて……。

 「しゃばけ」の畠中恵先生原作で、みもり先生が作画の作品です。畠中先生もみもり先生もどちらもファンタジックな作品を創られている印象があるので、この組み合わせだけで期待感が高まりますね。なお新装版とありますが、本作は2012年にフレックスコミックス・フレアとして単行本化されています。今回はポラリスコミックスとしての刊行となりますが、フレアはポラリスの前身ということで、実質同じ母体からの刊行です。新装版というだけあって、なかなか凝った装丁となっています。紙質といい、和色で揃えつつも華やかな色使いといい、大小の文字を組み合合わせたフォント配置といい、なかなかツボです。前回刊行時にレビューしていませんでしたので(というか単行本見つけたのですが、読んだ覚えがない……)、今回改めてご紹介をしようかと思います。

 物語の主人公は、江戸のとある稲荷神社に勧請(分霊を他の神社に移すこと。子会社出向みたいなイメージでしょうか。)されてきた新米神様の春門。これから守り神として過ごそうとするものの、どうにも神様としての自覚に欠ける彼を、稲荷神に仕える狐の化身たちが厳しくサポートします。ひょんなことから、神社の近くで起きた毒殺事件に遭遇した彼らは、事の流れで犯人捜しを始めるのですが…というお話。


八百万
神様とはいえ新米で、何をしてよくて何をしてはいけないのかといった分別もあんまりついていないです。そんな彼の面倒を見るのが狐の使役たち。立場的には神様の方が偉いのですが、かなり舐められています。ゲンコツとか普通にするし。


 神様が町で起きる事件の真相を暴くという、ファンタジー&ミステリーなお話。神様だからといって、不思議な力でたちまち事件を解決するなんてことはありません。どちらかというと人間臭く、当事者たちの話を聞いて、一つ一つ真実に近づいていきます。神様としての能力を発揮する系の話というよりは、その土地の守り神として、人々との距離を近づけていくというようなアプローチを見せるようなストーリー。めくるめく不思議な世界を期待していると、ちょっと地味めに感じるかもしれません。一方で人と人の繋がり的なものを重視するので、その分キャラクターの魅力や背景がより詳細に描かれ、より重厚で繊細な物語展開を楽しむことができるかと思います。

 本作は計6話収録されているのですが、一つの事件で前篇・中篇・後篇という構成となっているので、実質2つの事件に関わるのみとなっています。じっくりと事件が描かれるので、事件の真相も凝ったものとなっているのですが、ファンタジックな要素を絡めつつというある種豪華な舞台装置を鑑みると、2話で終わってしまうのはちょっともったいないなというのが読み終わっての感想。巻数がついて、もっと話が色々と描かれたら、持ちたるキャラの魅力がいかんなく発揮されそうな予感があるから余計に…。


 
【男性へのガイド】
→人情物語なので性別年齢関係なく読める類の作品かと思います。
【感想まとめ】
→先にも書いた通り、1巻完結はちょっと寂しいというのがまずあります。というのも、それだけ面白くなりそうな要素がぎゅっと詰まっていたから。キャラは魅力的で、物語も練られていて、だからこそもっとこの時間を味わっていたかったという。どっかで続き描いてもらえないですかね(希望)


作品DATA
■著者:みもり/畠中恵
■出版社:ほるぷ出版
■レーベル:ポラリスコミックス
■掲載誌:フレア
■全1巻
■価格:630円+税


■試し読み:第1話

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Tag [新作レビュー] 2015.04.16
1106513141.jpg壱コトコ「BABY BABY」(1)



うれしいんだよ結弦が来て
家族ができたみたいでさ




■貧乏学生・侑征の前に突然現れたのは、超~ナマイキなお坊ちゃまベイビィの結弦。両親を亡くし天涯孤独の結弦を、侑征が引き取ることに……。大波乱のふたり暮らしがスタート☆

 壱コトコ先生のビーズログ連載作です。ナマイキな小学生との同居生活を描いた、ほのぼのコメディ。物語は唐突に始まります。親元を離れ一人暮らしをしていた貧乏高校生・侑征の家に突然グラサンにスーツの男が現れます。小さな子供を引き連れたその男は、「遠い親戚の子を引き取って面倒を見てほしい。お金ははずむ。」と通告し、半ば強引に男の子を引き取らせます。遠い親戚というその子・結弦は、お金持ちな家庭で育った世間知らずの生意気小学生。なんとか歩み寄ろうとする侑征ですが、連れない態度で彼を拒絶します。けれどもやっぱり子供は子供。一緒に過ごすうちに、段々と二人の距離は縮まってきて……というストーリー。


ベイビィベイビィ0001
最初は距離がある二人。侑征の持ち前の包容力で、少しずつ距離を縮めていく。とにかく結弦の表情が豊かで、それだけでも楽しめます。


 ものすごく無理やり感のあるスタートはご愛嬌。その勢いのままジェットコースター的に進むのかと思いきや、その後は比較的ゆっくりと、ほのぼのと物語は進んでいきます。高校生と幼い男の子のつながりを描いた作品というと、マッグガーデンの「flat」を思い出しますが、あちらは子供が高校生をかなり好いていて、逆に高校生はそれほどでもないというミスマッチからの面白さがある作品でした。本作は逆に子供からの信用がない中で、少しずつ信用を勝ち取っていくというアプローチ。お互いに一人身であるという環境から、絆を醸成するのにそう時間はかからず、物語の中盤以降は疑似家族、疑似親子、疑似兄弟的なエッセンスを含んだ物語へと変容していきます。

 侑征は割と懐の広い高校生という感じなので、彼目線で物語を楽しむことが多いのかなと思います。一方で結弦はなかなかの食わせ物。自分が可愛いことを自覚しており、甘えるべき人には甘え、侑征に対しては生意気な態度を取り続けます。物語的にはこの子の可愛さを楽しむという部分が7割ぐらいを占めており、この子が可愛いと興味を持った方はとりあえず手に取って損はないかと思います。ナマイキなところから、ふと見せる寂しい表情とか泣き顔が本当に可愛らしくて。。。
 物語は2人の閉じた関係で終わらず、侑征の同級生たちが頻繁に彼の家を訪れることで、関係性の広がりを見せていきます。加えて同級生の一人に妹がおり結弦と仲良くなるという、2世代による関係構築あり。侑征の友達は、女子2人と男子1人。女の子はそれぞれタイプが違い、ふんわり女子とちゃきちゃき幼馴染ということで、物語が進めば恋の匂いもしてきそうな雰囲気もあります。


ベイビィベイビィ0002
こんな感じの幼馴染。結構普通に家にくるあたり、オタク好きする作品にありそうなシチュエーションが羨ましい。


 温かい人間関係や小さな男の子を愛でるという以上には特に強調すべきところはないのですが、そこに絞って存分に楽しめるというシンプルさは魅力で、疲れた心を癒してくれることでしょう。とにかく悪意を持った人間が登場しないというのも個人的には好きなところで、安心感を持って読むことが出来ました。


【男性へのガイド】
→男2人の関係性を愛でるってのは、男子受けするのだろうかという所はありつつも、優しいつながりを描くというような話がお好きであれば、さほど抵抗なく読めるのではないかと思います。女の子も可愛いし。
【感想まとめ】
→表紙から受ける印象をそのまま信じてもらえばいいんじゃないかなと思います。ちょっとクサさはありますが、デフォルメされたキャラ造形からも、このくらいの濃い味でちょうど良し。


作品DATA
■著者:壱コトコ
■出版社:エンターブレイン
■レーベル:ビーズログコミックス
■掲載誌:ビーズログ
■既刊1巻
■価格:620円+税


■試し読み:第1話(pixiv)
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2015.04.16
71XIofZqirL.jpg九段そごう「俺とヒーローと魔法少女」(2)



べ…別に仲間じゃないし!



■2巻発売しました。
憧れの「ヒーロー」の力を手に入れたハヤト。しかし、変身した姿はなぜかキラキラ衣装の「魔法少女」だった。男嫌いの女子高生ヒーローのカスミにはゴミを見るような目をされ、男のストーカーには追いかけられ……と、相変わらず不憫で不本意な毎日。そんなハヤトは「理想のヒーロー」になれるのか!?


~2巻発売しました~
 2巻発売しております。1巻はもちろん面白かったのですが、読んだ感じでは割りと“出オチ”という印象が強く、2巻以降は新鮮さが薄れる分尻すぼみになっていくのかな…なんて失礼なことを考えていたワケですよ。ところがどっこい、むしろ2巻の方が面白いんじゃね?というのが読み終わっての感想。キャラの広がりなのか、話を重ねて色々とネタの展開が出来ているからなのか。その理由は定かではありませんが、全く飽きが来ないまま最後まで読みきってしまいました。仕込むネタは割とシンプルかつ、1話を通してそれを押し通していく感じなのですが、その使い方が上手いんですよね。無駄遣い感がなく、読む側としてもある意味で楽というか。


~カスミがほぼレギュラー~
 さて、1巻ラストで女子高生のヒーローと出会うワケですが、早々に男の姿に戻り殴打されるというご褒美(?)シーンが。この後怪人退治でやむなく共闘する場面がままあるのですが、それにしても絡み過ぎじゃないかってぐらいに一緒に行動を共にするようになります。2巻が終わるころにはもはやパートナーと言っても過言ではないくらい。男が嫌いで、かわいいものは好きということで、変身後のハヤトに萌えつつも中身を思い出してツンとする、その揺らぎが可愛らしい。


俺とヒーローと魔法少女20001
割と面倒見は良いタイプかと思います


~笑わせるってやつは卑怯ですよ~
 序盤から中盤にかけてはカスミとの掛け合いがネタの中心となったわけですが、後半は悪者によって顔面が笑顔で固定されてしまうという飛び道具的なネタを投入してきます。これがツボで。ただ笑ってるだけなんですけど、いちいち面白くてダメでしたわ。


俺とヒーローと魔法少女20002
ほんと、笑ってるってだけなんですけど、なんだかやたら面白い。仕事の疲れもあるのか・・・。


~怪人の存在意義は~
 単なるコメディで物語に進展はあまりないのかと思いきや、後半には色々と物語の核心に迫りそうな展開が見え隠れしております。どうやら悪に堕ちたダークヒーローとやらが鍵を握っているらしく、そことの戦いが今後待っていそうです。そしてそうなると俄然気になるのが、これまでたくさん倒されてきた怪人さんたちの存在意義。仮にラスボスがダークヒーローだとしたら、怪人いらなくね?と。まぁ怪人がいなければ、そもそもヒーローたちが存在できないわけですから、必要ではあるんですけれども、ただただこれまでのガヤのために倒され続け、最後はお役御免でいらないよっていうこの不遇っぷりに涙を禁じ得ません。今回のサザエの怪人とか悪い人じゃないと思うんだけどなぁ(謎の肩入れ)。というわけで、怪人たちの活躍にも注目の3巻は、今年の秋に発売だそうです。楽しみ楽しみ。


■関連記事
1巻レビュー→俺が魔法少女に変身!?:九段そごう「俺とヒーローと魔法少女」1巻

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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2015.04.13
1106512673.jpg鳥飼茜「地獄のガールフレンド 」(1)



利害一致に乾杯!



■一軒家でルームシェアを始めた3人の共通点は「友達がいない」。女たちの食卓では非モテの根源。オバサン問題、受け身の性格。“女の人生”比べ、……とおしゃべりが止まらない!世間におののく女たちに捧ぐ、デトックス同居物語!

 「おんなのいえ」(→レビュー)などの鳥飼茜先生のフィールヤング連載作です。なかなかインパクトのあるタイトルですが強烈な内容というわけではなく、むしろほっこりする同居ものです。物語のメインとなるのは女3人。ひとまず一人ずつ紹介した方が良さそうですね。まず一人目は、31歳シングルマザーの加南。結婚に疲れ離婚をしたばかりで、人見知りな4歳の息子の通う保育園を変えたくない一心で、ルームシェアの募集を発見、申し込むに至りました。もう一人が、28歳OLの悠里。まじめを絵に描いたような女性で、よく眉間に皺が寄っているセカンドバージン。長年住んだアパートが取り壊しにあい、たまたまルームシェアの募集の張り紙を発見し、住むに至りました。そして最後が、36歳ファッションデザイナーの奈央。ゆるふわな雰囲気でかなりモテる恋愛体質な女性。付き合っては別れを繰り返している中で、「興味のない“女の人”と一緒に暮らしたら?」という友人の助言から、住んでいた一軒家でのルームメイトの募集をするのでした。それぞれ違う立場ながらも、何かしらの不満を抱える女性たちが一つ屋根の下で共同生活を送る中で、毒を吐き出したり助言を貰ったりと、一人の時とはちょっと違う充実感を得ながらの日常が描かれます。


地獄のガールフレンド0002
それぞれ近くに頼るところがないくらい、友達がいない。知り合いはいるけれど。そんな人たちだから、最初はちょっと距離を保ちつつ、けれども打ち解けると一気に近く。共感もあり、時に意見が対立することもあり。けれどもそんな感覚が彼女たちにとっては新鮮だったりするのかも。



 別に何かするわけじゃないんです。3人が同居して、日々日常を送るのみなのですが、帰ってきたら誰かがいてその日たまった鬱憤を吐き出せば、それだけでスッキリするし、誰かに感化されてちょっと違ったことをしてみたりとか。そういう誰かと過ごす尊さみたいなものがほんのりと感じられる作品です。終わりなき日常を繰り返すわけではなく、おそらくこの先にも色々と変化は訪れるのでしょうが、1巻終えて訪れた変化はとっても小さいものなので、やや日常ものとしての色香も感じることができる、不思議な味わいがありました。どっちつかずとも言えるのかもしれませんが、個人的には全く嫌な感じや違和感はなく、面白かったなぁと。

 3人同居ものと言いつつも、先の人物紹介であったように加南はシングルマザーということで、子供も一緒に住むことになります。4歳なので寝るのも早く、女同士のディープな会話は子供が寝てから。残りの2人も時に子供に癒される場面もあるなど、子供を連れての同居生活は思いのほか順調です。子供がある種プラスになっていると言いますか。また3人とも職業の違いからか(OL、デザイナー、イラストレーター)、生活圏や生活時間、男性の好みなどがバッティングすることはあまりなく、だからこそ良い関係が築けているのかなという感じがあります。ここでお互いに干渉せざるを得ないような人間関係が出てきたりしたら、色々とややこしそうではあるのですが、そういう方向には流れないのではないかと1巻を読んだ雰囲気では思えます。

 またこの家には奈央の友達というか同僚というか、とにかく近しい男の子が頻繁に出入りしてきます。女性ばかりの家に若い男が出入りというとなかなか刺激的な展開を想像してしまうのですが、彼は「処女にしか興味がない」という変態嗜好の持ち主でそれを公言しており、上手いこと一線引き・引かれ関係を保っています。女性たちだけでバイアスがかかりがちな状況で、ズバッと現実的な意見を突き付けてくれる存在です。


地獄のガールフレンド0001
この男だけは違和感ありありな存在なんですけれども、それがうまく作中では機能している感あり。


 物語の内容とは別に、各話のタイトルがなかなかイカしてるんですよ。セリフっぽいんですが、作中でそのまま登場したセリフを使っているワケではなく、けれども誰が言っているかとか、意味合いが通じる内容でして。たとえば1話は「たしかに子供は産んだけど お前らまで産んだ覚えはないっつーか」、6話は「しかもその『怒り』が世界中の巨大地震とかを起こすっていうんだから怖い」など、長いけどなんだか頭に残ります。


【男性へのガイド】
→女性たちだからこそ実感できる話だとは思うのですが、毒吐きだしつつもその様子はなかなか面白く、男性が嫌と感じるような内容でもないと思われ。
【感想まとめ】
→作者さんの他の作品に比べ、笑いの要素が多く面白かったです。いい意味で脱力しているというか。「おんなのいえ」に通ずる部分は残しつつも、本作ならではの楽しさもあり、オススメです。


作品DATA
■著者:鳥飼茜
■出版社:祥伝社
■レーベル:FC Swing
■掲載誌:フィールヤング
■既刊1巻
■価格:680円+税


■試し読み:第1話

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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2015.04.07
1106500722.jpg師走ゆき「高嶺と花」(1)



これは
媚びたら負けの
駆け引きだから




■姉が拒否した、父の勤め先の御曹司・才原高嶺とのお見合いに、身代わりとして出席した女子高生・野々村花。高嶺の横柄な態度にブチ切れ、当然破談と思いきや「お前のことが気に入った!」と言いだし連れまわされるように…!大人げない高嶺の態度にムカついたり、笑ったり、惹かれたり!?このお見合い、良きご縁となるや否や…??

 「不老姉妹」などの師走ゆき先生の花とゆめ連載作です。巻数が付くのは1月に発売された「わんテール」に続いて2冊目になりますね。庶民なヒロインと、横暴だけどどこか憎めないイケメン御曹司とのドタバタラブコメという、いわば少女マンガでは王道中の王道とも言える作品になっています。

 主人公はごくごく普通の高校生・野々村花。ある日、かなりの美人と評判の姉に、父の勤め先の御曹司との見合い話が舞い込むも、姉には付き合っている相手がいるとのことから、花が身代わりにお見合いに出席することになります。なんとかその場をやりきり、円満に破談とすべく臨むも、あまりの相手の横暴さにキレてしまった花は、つけ毛を相手に投げつけて暴言を吐いて去るというとんでもない行動に。後悔の念に駆られる花でしたが、何故だか高嶺は「お前のことが気に入った」と度々デートに誘われるように……。引き続き姉として、お見合いの延長戦に臨む花。横暴に見えつつも、意外と可愛い所もある高嶺と過ごす時間が、だんだんと居心地よく感じるようになり。。。というストーリー。


高嶺と花0001
 「花より男子」に代表されるように、プライドの高い御曹司の相手をするには、彼らに負けない芯の強さ・負けん気の強さがあるサバサバ女子がヒロインとなります。本作の場合もまさにそれを地で行く直球系ヒロインで、見ていて非常に気持ちが良い。なお相手の嫌味に対してもこれくらいやりあえるという。

 
 相対する御曹司・高嶺はかなり人を見下した態度を取るのですが、性根が根本から捻じ曲がっているワケではなく、自分の気持ちを素直に表現できない不器用さを持った男の人という感じで、言動の割にはあまり嫌な印象は受けません(言えばなんだかんだやってくれる人みたいな)。ともあれ二人とも自身の思惑を、体面崩さずに押し通したいものですから、事あるごとにぶつかり合うマウンティング合戦が繰り広げられます。それがひとつコメディとしての面白さとなっているという。

 で、一通りぶつかり合いを繰り広げた後に待っているのは、お互いが譲歩した中での赤面タイムで、そこがもう当人たち以上に赤面してしまうようなニヤニヤな瞬間となっています。ぶつかり合いによる笑いからの、ふと見せる優しさからのニヤニヤと、メリハリ効きつつ両方をバランスよく楽しむことができる内容となっています。

 なお正体隠しつつというのは1話目でばれて終わるので、以降は普通に、庶民の女子高生とイケメンやり手御曹司という関係で続いていきます。一応双方に居心地が良いというか、楽しく過ごせるためにお見合いという名のデートは続いていくのですが、お互い「好き」とか「付き合う」といった具体的な言葉は言わず、なんだか不思議な状態が続いてきます、茶を濁しつつ1巻完結で、2巻ではこの辺りを明確にすべく行動するなんてことが増えてくるかと思うのですが、それもなかなかニヤニヤ度の高そうな過程を踏みそうで楽しみなところです。また珍しく1巻時点ではライバルらしいライバルもおらず、非常にシンプルなキャラクタ構成で進むあたりも引き込まれやすい一因かと。


高嶺と花0002
ドキドキパート。これは花がすることもあるし、高嶺がすることもあるし。どちらにせよ、赤面ニヤニヤは必至。


 ラブコメらしいラブコメ、、、というとよくわからないかもしれませんが、オススメの一作です。正直師走ゆき先生の作品って、やや突飛でクセのある設定のお話が多く、ピンとくることがあまりなかったのですが、本作はかなりハマりそうな予感がしております。師走ゆき先生のイメージを良い意味で崩す作品になっているかとも思いますので、先に発売されている作品だけしか読んでいない方は、是非とも本作を手に取ってほしいところです。


【男性へのガイド】
→少女マンガの王道という言葉でお分かりかとは思いますが、そのジャンルがお好きな方は手に取って間違いない作品かと思います。
【感想まとめ】
→面白かったです。切れ味よしのニヤニヤラブコメということで、追いかけ続けたい作品ですね。


作品DATA
■著者:師走ゆき
■出版社:白泉社
■レーベル:花とゆめコミックス
■掲載誌:花とゆめ
■既刊1巻
■価格:429円+税


■試し読み:第1話

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